第9話 すごく安心するこの感じ 小野視点

「……というわけで、俺たちはまずい状況なんだよ」


 まだ口に塞いでいた布の感触が残っている中、私はなんで空き教室へ逃げ込んだのか簡単に説明してもらった。


 逃げ込んだ意味はわかったけど、助けてくれたときのことが謎すぎて頭がもやもやする。


 あの爆弾はどうなったの?

 私のこと……愛してるとか言ってたけど、あれはなんだったの?

 聞きたいことは山ほどある。

 でもまずすべきことは。

 

「助けてくれてありがとう」


「どういたしまして。いやぁ微かに声が聞こえてきて様子を見に来てよかったよ。……って、振り返るのは後にしないと」


 佳樹くんはそう言って口元に人差し指を立て、ジェスチャーを見せてきた。

 

 階段を上がりきった先生の足音が徐々に近づいてきてる。


「あれ? ここら辺で声がした気がしたんだが……。ん? なんでこんな人が通らない廊下に新入生にしか配られないプリントがあるんだ?」

  

 先生の言葉を聞いた佳樹くんは両手を頭に抱え、泣きそうな顔になった。


 ……リュックを投げ捨てたとき出てきちゃったのかな。


 チッチッチッチッ。


「この音は爆弾か!?」


「!」

 

 私も先生の声と同じように慌てふためきそうになったが。


 更に泣きそうな顔になった佳樹くんがリュックから音が鳴ったスマホを取り出したのを見て、心が落ち着いた。

  

「おい! この空き教室の中に誰かいるのか!!」


 まずい。先生が扉の前にいる。

 このままじゃバレちゃうけど……もう、仕方ないよね。爆弾は嘘だし、佳樹くんは別に悪いことをしてない。私のことを助けてくれたんだ。

 生徒指導室に行くかもだけど、私から説明すれば……。


 私はもう諦めていたが、佳樹くんは違ったらしい。


「ごめん」


「えっ?」


 山積みになっているダンボールの中から右手で捕まられたと思ったら、佳樹くんの胸に抱き寄せられていた。


 周りが真っ暗で何も見えない。佳樹くんの鼓動が早い心臓の音がよく聞こえる。


 力いっぱい抱き寄せられているから、私の力じゃ身動き1つとれない。

 

「なんだ!? 音がしたぞ!!」


 扉を開け、先生が入ってくる音がした。

 こんな状況見られたら……絶対まずい。


「いやここじゃないか……」


 数秒息を潜めていたが、先生は気の所為だと思ったのかすぐ空き教室から出て真下にある教室へ行き。

 それに続くように佳樹くんが人約束がある、と言って足早に階段を降りて行った。


「…………愛してるって言ってたよね」


 助けてくれたときの説明がされずにぽつんと1人になったから、もやもやが残ってる。

 まぁけど、冷静に考えればあの言葉は本当に爆弾を爆発するって思わせる演技だよね。

 ……でも、もしそうじゃなかったら?


「ないない。王子さんがいるもん」

 

 こんなことを思うのって、きっと佳樹くんが王子さんと声似てるから。

 顔がやけに熱いけどそうに決まってる。


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