第8話 俺らしい救い方
「この前は油断してヤラれちまったが、てめぇ大して強くねぇんだなッ」
「ゔぅー」
「てめぇのせいで俺様はあれから周りから舐められっぱなしなんだわ。わからせねぇとなぁ!!」
「ゔぅー! ゔぅー!」
まずい。いい加減壁に隠れて様子をうかがってないで、助けないと。
このままじゃ小野さんがとんでもない目に合わされる。
でもどうやって助ければ良いんだ?
前みたいに背後を取れてるわけじゃないから、真正面から助ける他ない。
あのガタイがいい怖い人と取っ組み合いになったら絶対負ける。
俺はただ小野さんを助けられればそれでいい。
「舐めた目向けてんじゃねぇぞ!!」
「ゔぅ」
小野さんは怖い人に力のまま押され、地面に倒れ込んだ。
……何も助ける方法は力だけじゃない。
前みたいに颯爽と助けるカッコいい王子様にはなれないけど、泥臭くも知恵を働かせて助けるただの男にはなれる。
「すぅーはぁ」
使えるものは教科書が入ったリュックとスマホ。
これらを使い、一瞬でも良いから小野さんから意識を外すことができればいい。
「……あ」
何も使えるものは物だけじゃない。
俺にはバイトで身につけた演技力があるじゃないか。
⬜⬜
俺はリュックを手に持ち、壁から出て怖い人の正面に立った。
「あ? てめぇ……俺様を朝から気分悪くさせたやつだな」
「うるさい」
俺の作戦は至って簡単。
頭のおかしいやつを演じて、ここから逃げたくなるような突拍子もないことを言う。
「今なんつッたッ!!」
「うるさいって言ってるだろ!!」
静かそうな雰囲気の俺が突然怒声を浴びせたことで、怖い人は一瞬言葉に詰まった。
これは俺の流れに持っていく絶好のチャンス。
「お前は……お前は絶対にやっちゃいけないことをした。そこの女性を今すぐ解放しろ! するのなら何もしない」
「はぁ? 解放なんかするわけねぇだろ。てめぇみてぇなへなちょこが何できんだッ」
「へなちょこなりに頑張るさ」
俺はそう言って手に持っていたバックを地面に投げ捨てた。
チッチッチッチッ、と時計の針のような音が静かな廊下に鳴り響く。
「な、なんだそれ」
「わからないか? 爆弾だよ」
「ゔぅー!!!!」
「……ハッタリに決まってる。そもそも爆弾なんてもんを持ってきてんのがありえねぇ!」
小野さんは俺の言葉を信じ切って暴れ始めたが、怖い人は至って冷静に状況を整理した。
もちろんこれで終わりな訳がない。
ここからが俺の勝負所だ。
「あのさぁ、爆弾なんてさぁ、誰でも作れるんだけどさぁ……。これは愛を込めて作ったんだよねぇ」
「もし作れて持ってこれたとしても俺様の横には女がいる。助けてえ女がいる所で爆弾を起爆するわけがねぇだろうがッ! ハッ。わかったんならとっとと……」
「あ、あ、愛する人と一緒に死ねるのってすごいロマンチックだと思わない?」
「…………」
「ゔ?」
チッチッチッチッ。
「あんたにはわからかいかもしれないけど、これは愛があるから仕方ないことなんだ。……ははっははっはははっ」
「狂ってやがるッ!」
「俺の観察をしてるところ悪いがそろそろ時間だ。さぁ一緒に爆散しようじゃないか」
「……俺様はてめぇらなんかに構ってる暇ねぇ。金輪際関わってくんじゃねぇぞアホ共!」
怖い人は明らかに動揺した顔で、ものすごくカッコ悪いことを言いながら走って去った。
「ふぅ」
緊張の糸が切れ、息を吐くと同時に体に疲労がおりてきた。
騙しす方法が単純だったから、リュックの中身を見られたら終わりだったけど。
あの格下相手に威張ってる男にそんな度胸なくてよかった。
「ゔー!!」
完璧な演技に小野さんも称賛してくれて……。
いや、それにしてはやけに必死な声だ。
……そういえばまだネタ明かししてない小野さんには、俺が本当に爆弾を持ってきた狂ってる人に見えてるのか。
「あー、安心して。この音は爆弾なんかじゃなくて、ただスマホから流してる音だから」
リュックからスマホを取り出してみせると、小野さんは首を傾げてキョトンとしてしまった。
よくわかってないから口で詳しく説明したいところだけど……。まずは小野さんの口を塞いでいる布を早く外してあげないと。
そう思い縛られていた所に触ったそのときだった。
「おい! 今爆弾と聞こえたが本当か!?」
後ろの角を曲がったところにある階段から先生らしき人の声と共に、上へ上がってくる足音が聞こえてきた。
「まずっ」
こんな状況見られたら、前みたいに生徒指導室に行く羽目になる。
ちゃんと説明したら解放されるだろうけど、どうせ時間がかかって放課後遊ぶ時間がなくなっちゃう。
そんなの嫌だ。
「ごめん。来てくれない?」
「ゔ!」
俺は小野さんの同意をもらい、荷物を回収した後二人で近くの空き教室へ逃げ込んだ。
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