第7話 恋に落ちた人がいるらしい
入学式から数日が経ち、クラス内ではもうグループが完成している。
誰にでも話しかける陽キャのグループ。
イケメンを中心としたハーレム状態のグループ。
クラスを俯瞰する陰キャのグループ。
言い出したらきりがない。
ちなみに俺はどこのグループにも入ってない。いや、入れなかった。
陰キャで喋りかけることさえできなかったわけじゃなく、当たって砕けろ精神で色んな人に喋りかけた。
結果はわかるだろうが惨敗。
周りから変な人だと思われ始めたところで、俺はこのクラスは元々同じ中学だった人が多いということに気づき、入る隙間がなかったと諦めた。
「おっ福山。どうしたんだそんなしけたツラしちゃって」
話しかけてきたのはセンター分けで整った顔が特徴の男、
水谷は俺がこのクラスの中で一番ずるいと思っている、イケメンを中心としたグループのイケメン。
つまりはハーレム男だ。
これだけ聞くと自分とは真反対の存在なのだが、水谷は裏ではアニメや漫画が大好き。
カバンに入れて持ってきてた漫画が地面に落ちるところを俺が見たのをきっかけに。
顔のせいで学校ではイケメン演じてるところが、俺が喫茶店で王子様を演じてるところに既視感を覚え、仲良くなった。
「しけたツラとか、言ってみたかっただけでしょ」
「くぅ〜! 流石いつもしけたツラしてる同志! わかってるじゃ〜ん」
「…………しけたツラって言葉の意味知ってる?」
「いや全く。話しかけるときに使う言葉じゃないの?」
たしかに俺はいつもしけたツラしてるかもしれないけども。
「知らない言葉はなんとなくで使わないほうが良いよ」
「たしかに……なんか悪い意味だったみたいだし、今後気をつける。あ、なんか呼ばれてるっぽいしもう行くわ」
「うぃー」
水谷は面倒くさそうにイケメンを演じてるが、別に嫌そうじゃない。
まぁ、好きなことを喋る相手がいなくて寂しそうではあるけど、可愛い女の子たちと喋って逆に楽しそうだ。
「ふぅー」
「えっ?」
暇で教室を見渡していると、自然と小野さんと小野さんの中学からの友達が喋ってる内容が耳に入ってきた。
「前話してたやつってマジだったの?」
「もぅ。マジに決まってるじゃん。だから相談にしたのに……」
「相談って。恋愛経験ゼロの私に聞かれてもわからないよ。えりちゃんは昔からモテモテだから自慢しに来ただけだと思ってた」
「恋したのを自慢なんてしないもんっ」
「ごめんごめん。私に話してるとき、すごい嬉しそうだったから勘違いしちゃった」
ほほう。小野さんが恋に落ちたのか。
……正直、心当たりがありすぎる。
自意識過剰になるかもしれないけど、それって王子のことなんじゃ?
「で、どんな人だったっけ?」
「んーとね。まずカッコいい」
「どんな風に?」
「もちろん王子様みたいにっ!」
あ、これ絶対王子のことだ。
「なるほど。えりちゃんはもう堕ちてるんだね」
「何言ってるの。王子さんは王子様だから王子様みたいにカッコいいんだよ」
「へ、へぇ。それはすごいね」
そうか。
この前初めて喫茶店に来てくれたとき、王子に心が奪われてるんだろうなとは思ってたけど。
まさかそれが恋にまで進展してたとは……。
小野さんがまた喫茶店に来て接客するタイミングがあったら、果たして俺はまともに王子様を演じられるのかな?
⬜⬜
今日はバイトを入れてないので、放課後水谷と遊びに行く予定になってる。
「失礼しましたぁー」
未提出だったプリントを先生に提出し、水谷と何して遊ぶのか考えながらリュックを背負い、下駄箱へ向かっている最中のことだった。
「…………ぁ!」
遠くから何かを訴えるような女性の声が聞こえてきた。
それ以降はその声が聞こえてこなかった。
でも俺はこの女性の声が聞こえてくる状況に既視感を覚え。
「そんなはずないよな」
下駄箱に向かっていた足が声がした方向へ進む。
人気のない廊下の角。
そこには。
「ゔぅーゔぅーゔぅー」
「チッ。いい加減静かにしろ」
口が布で塞がれ髪がボサボサな小野さんと、入学式の朝校門で俺に絡んできた怖い人がいた。
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