第4話 見覚えのある美少女

 綺麗なピンク色の桜が満開に咲き誇る春。

 それは新生活、新学期が始まる節目の季節。 


 俺はそんな季節に新品の学ランを着て、新品のリュックを大事に抱き寄せ、満員電車に乗っている。


 今日から晴れてピカピカの高校一年生になるが、不安しかなくてずっと冷や汗が止まらない。

 

 俺が通う高校は周りの中で一番偏差値が高く、家から電車で25分の距離にある。

 そのため、知り合いが一人もいないのだ。


 陰キャだけど、友達……できるのかな?

  

 あぁ。考えるだけで帰りたくなってきた。


 昨日の深夜見忘れたアニメでも見て気を紛らわせよ……。


 

 ⬜⬜



「うぅ」


 学校への足取りが重い。


 電車の中で、入学早々ヤンキーに絡まれて異世界転生する作品を見たのが主な原因だ。


 自業自得だけど、サムネイルに可愛い女の子がいたから見たくなるのは仕方ない。

 そういえはあのサムネイルの子、少し前に暴漢から助けた小野さんによく似てたな。


「はぁ」


 小野さん。小野さん、か。

 もうあれから2週間くらい経つけど、一度も喫茶店に訪れてない。

 通うと言われたので、店長に無理言って毎日シフト入れてもらったんだけど……。 


 俺の王子様が気に入らなかったのかな?


「あ」


 そんな風にベラベラ考えながら歩いていると、いつの間にか校門に到着していた。


 来るのが遅かったのか、校舎の方から喋り声が聞こえてきて周りには誰もいない。


 ここら辺で同級生と仲良くなるプランを密かに立てていたが、早くも潰れた。


 やっぱり第一印象が大事だし、練習するべきだよな。


「おはようございます!」


 うん。いい声が出る日で良かった。


「チッ。黙れカス」


「……へ?」


 後ろからドス黒い声が聞こえてきて、全身鳥肌が立った。


 振り向かなくても地面の影を見るだけで、俺と比にならないくらい大きい人に睨まれてるのはわかる。


「てめぇ新入生だな?」


「は、はいっ!」


 金髪ソフトモヒカンの怖い顔の人が、それ以上何も言わず俺を壁際に押しやってきた。


 試さなくとも、力の差は歴然。俺は両手首を掴まれ、何一つ抵抗できずに壁に挟まれた。


 鋭い眼光が俺を見下ろしてくる。


「朝から気分悪くすんじゃねぇぞチビッ! この時間はなぁ、俺様しか登校しちゃいけねって言うルールがあんだわ。わかったらとっととママにミルクもらいにいけや」


「そっ、言われても入学式が……」


「あぁん? あんま舐めた口聞くとやっちまうぞ!! 俺様、色々あって半月以上の自宅謹慎受けたことあるから怖いもんなんてねぇんだわ」


「ひぃ。すいませんすいません許してください」


 なんでこんな怖い人が偏差値高い高校にいるんだよ!

  

 考え事をしながら歩かなければ、絶対もっと早く着いてた。

 高校生活初日から怖い人に絡まれて最悪だ。

 入学式に出なかったらその分友達ができづらいと思うけど、今後の高校生活を引き換えに考えるとそんなの安いもの。


「で、ではミミミミルク飲みに行ってき、まぁーす」


 プライドを捨てたことで解放された俺は涙目になりながら、その場を去ろうとしたが。


 すごく見覚えのある美少女とすれ違い、足が止まった。


「えっ」


 見覚えじゃなかったら、今の人……。


 そう思いながら振り返ったときの、一瞬のことだった。


「あの人だったら絶対こうするっ!」

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