第2話 勇者&魔王 停戦
心地良いそよ風が吹いている…
草の香りもする。恐らく俺は今、草原にでも転がっているのだろうか…
はっとして目を覚まし、辺りを見回した。景色におかしな所は無い。だが何故だか妙な違和感と居心地の悪さを感じる。などと考えていると
『うーん…』
声のする方を見ると、さっきまで戦っていた相手である魔王が転がっていた。
相対していた時は恐怖を覚える相手だったが無防備な姿を見るとなんともかわいらし…じゃない!ここで奴の息の根を止めなければ!
意を決して近付く。しかし、こんな呆気なく終わりで良いのだろうか。勇者たる者が魔王を不意打ちで仕留めたとして、胸を張って国に帰れるか?それにこいつなら自分達に何が起こったのか分かるかもしれない。そんな事を考え、取り敢えず剣を納めて声をかけた。
『おい、起きろ!』
『もう朝なのか…?』
寝ぼけた様な声を出す魔王。少し語気を強めてもう一度声をかける。
『さっさと起きろってば!』
『起きとるわい!無礼な奴じゃな!』
そう言うと飛び起きる魔王。
『ってお主は何奴じゃ!?』
『忘れたのか?さっきまで戦ってただろ?』
『あぁ、思い出したわい!なんじゃ、さっきの続きでもするのか?』
そう言うと嬉しそうに笑みを浮かべる魔王。
『そんなことしてる場合じゃないだろ。ここは何処だ?俺たちに何が起きたんだ?お前の仕業じゃないのか?』
『そういっぺんに色々言うな!頭がこんがらがるじゃろ!』
捲し立てた俺にめんどくさそうに返答する。
『まず此処が何処だかも、何が起こったのかも我にはわからん!何故なら我の仕業ではないからな!』
キッパリと胸を張って答える魔王。
『お前の仕業じゃないなら一体何が…』
『だから我にも分からんと言うておるじゃろが!お主もしつこいのう!』
完全に手詰まりだ。何も分からないんじゃどうしようもない。落胆しているとそこに
『なんじゃ彼奴は?』
魔王の指差す方を見てみると、森からオークが出てきた。オークは力は強いが知能が低い生き物で敵意を示さなければ襲っては来ない筈だ。
『取り敢えず離れよう』
そう言ってこの場から立ち去ろうとした時、
『彼奴に此処が何処なのか尋ねてみよう!』
『バカかお前は!オークなんかに道が分かるかよ!』
『また無礼な言葉を…まぁ良い。我は魔王じゃぞ?魔物と意思疎通ぐらい容易い事じゃ!』
そう言って勇足でオークに近づいていく魔王。
『お主!ちょっと聞きたい事があるのじゃが、我らは今道に迷っておってな!此処は一体何処なのじゃ?』
『…ココハオレタチノモリ。ハイッテキタヤツハコロス。』
『殺すじゃと⁈無礼者め!我を誰と心得る!我こそは現魔王であるノクティラ・フォン・アスタぶふっっ!』
『なっ⁈』
名乗ってる途中にオークにブッ飛ばされる魔王。
『おい、大丈夫か⁈』
『ふっ!この程度何とも無いわい!今のは少々油断しておっただけじゃ!彼奴がその気なら』
そう言いながら構えを取る魔王。
『こうじゃ!!』
ドンッ!と大地を蹴る音が聞こえた次の瞬間、強力な拳の一撃がオークの胴体に突き刺さる。
『ブ、ブモー!!』
オークは雄叫びを上げながら森の中へと逃げ帰っていく。改めて恐ろしい力だ。
『すごいな。流石は魔王様と言った感じだな』
そう声を掛けたが魔王は妙な顔をしていた。
『どうしたんだ?』
『いや、つい力を込めすぎて殺めてしまったかと思ったのじゃが、彼奴ピンピンしておったの』
確かにそう言われれば変だ。あんな一撃を食らえば俺だってただじゃ済まない。
『無意識のうちに手加減でもしていたんじゃないのか?』
『そ、そうじゃの!きっとそうじゃ!我は優しいからのう!』
そう言いながら高らかに笑う魔王。魔王のくせに優しいだなんて良く言う。
『で、これからどうしようか。戦うってのは無しだぞ?そんな状況じゃないからな』
『仕方あるまい。一旦御預けじゃ。して、どうしようかと言われてもどうすればいいんじゃ?』
『まずここが何処なのかを調べなきゃならないだろ?こんな森見た事無いし、オークが出て来るって事は魔王領じゃないのか?』
『分からん!何故なら我は城から出た事がほとんど無いからな!実を言うとオークという生き物をこの目で見たのも初めてなのじゃ!』
まいった、まさか魔王がこんな世間知らずのおバカさんだったとは…
『はぁ、しょうがないか。取り敢えず人を探さないとな。何処かに村があるだろうから歩いて探そう。その為にはまず森を抜けないとだな』
とは言ったものの道標も何も無い状況で村を探すなんて無謀だ。神にでも祈りながら適当に歩くしな無いか、などと思っていると
『それならあっちじゃ!』
魔王が自信満々に森のとある方向を指した。
『なんでそんな事が分かるんだ?』
『ふっふっふ!我は魔王じゃぞ?魔力の探知など造作もない!あっちの方向にいくつかの魔力を感じる。恐らくは村でもあるのじゃろう』
『お前そんな事も出来るのか!癪だが、そう言うなら信じてお前に着いて行くよ。』
『ちょいちょい、お主!』
魔王が不機嫌な顔をしている。
『ど、どうしたんだ?』
『さっきからお前お前って失礼だとは思わぬのか?我は魔王じゃぞ?』
『じゃあ魔王様とでも呼べと言うのか?』
『そんな事は言っておらぬ!お主は魔族では無いからのう。それに仰々しい態度は好かぬ。』
『じゃあなんて呼べば良いんだ?』
『な、なまえで呼ぶのはどうじゃ?』
そう言いながら魔王は少し恥ずかしそうな顔をしている。
『そういえば魔王は代々アスタロト家なんだったな。じゃあアスタロトって呼べば…』
『ちがーう!それは苗字じゃ!名前と言ったじゃろう!我が名はノクティラ・フォン・アスタロトじゃ!』
『そ、そっか…じゃあよろしくな、ノクティラ』
そう言うとノクティラはニヤニヤしている。
『なんだよその顔は』
『名前で呼ばれるのなんて初めてでな。少々こそばゆいのう』
そう言いながら照れ笑いを浮かべているその顔は、まるで無邪気な少女の物の様だった。こいつがかの有名な冷酷で残忍な魔王なのか?こいつと話していると俺は噂とのギャップに戸惑うばかりだった。
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