オレ、先輩の事を幸せにします!(2)

「ん? どうした? ノリ」


チアキ先輩は、オレの顔を覗き込む。

オレは、先輩を引き留めはしたものの、何を言っていいのかわからず立ち尽くした。


「えっと……その……」


ちらっと、チアキ先輩の顔をみた。

唇を尖らせて、なんだよ、早く言えよ、と少し頬を膨らませる。


ああ、可愛い過ぎっす、先輩!

やっぱり、オレは先輩が好きなんです。

先輩! 大好きだ!


ああ、心の中ではいくらでも告白できるのに……。



チアキ先輩は、黙りこくっているオレに言った。


「なぁ、ノリ……」

「なんすか? チアキ先輩」


「ノリ……お前さ、声でてるぞ……」

「へっ?」


「俺の事を好きって……」


しっ、しまった……。

心の中で叫んだつもりが、声に出ていた、とは。


血圧が急上昇して、頭が真っ白。

ああああ、なんてことを……。


オレは、気を付け!のポーズをして頭を深々と下げた。


「すっ、すみませんでした! チアキ先輩!」


怒られる!

絶対に、怒られる。


オレは、ちらっと、チアキ先輩の顔をうかがった。

じっと、オレの顔を見ている。


しばらくして、チアキ先輩が、「いいよ、頭を上げろよ」とオレの肩を叩いた。

怒ってはいないようだ。


「あの……怒らないんすか? 先輩」

「ん? 別に……」


「あれ? だって、前に先輩の事を可愛いっていったら激怒して……」

「ああ、あれな。あれは、周りに同級生がいたからな……恥ずかしくてな」


え?

あれ?

何か、オレ勘違いしている?


そこへ、先輩がぽつりと言った。


「……ちなみに、俺も好きだから。ノリ、お前の事を」


えっ!?

今、なんて?


オレは、意外な先輩の一言に一瞬言葉を失った。

頬をほんのり赤く染めて、上目遣いにオレを見るチアキ先輩。


あぁ、なんて可愛い人なんだ……。


オレは、思わず先輩の肩を引き寄せると、思いっきりハグをした。

華奢な先輩の体が密着する。


ずっと、憧れていた先輩とついに……。


体中が熱を帯びる。

歓喜でアドレナリンが分泌され、ハイになるのが分かる。


よし、このまま、キッ、キス……しちゃっていいよね?


チアキ先輩は、オレの胸の中でぽつりと言った。


「痛いよ……ノリ」

「すっ、すみません、チアキ先輩」


オレは、はっ、として先輩の体をそっと離した。


しまった……。

いくら何でも、ちょっと調子にのりすぎた……。



チアキ先輩は、顔を真っ赤にしてオレを見上げた。


「いいよ……キスして……」

「えっ?」


「だから、キスしたいんだろ? ノリ」

「あれ? まっ、まさか……また声に出てました?」


チアキ先輩は、無言でコクリとうなずいた。


うぉーー。やべぇ!

またしても、言葉に出てたのか……。


でもまてよ……。

いま、キスしていいって……本当にいいのか?


チアキ先輩は、頬を赤らめながら、口を突きだしている。

ああ、可愛い……先輩、いただきます!


オレは、チアキ先輩の唇に唇を合わせた。


やった……キス!

ファーストキスを憧れの先輩とだなんて……。



それにしても、やわらけぇなぁ。先輩の唇……。

このまま、ずっと、ずっと、こうしていたい。


一緒にいたいよ……チアキ先輩。

ああ! 男同士だけど、結婚したい。



心臓がはちきれんばかりにドクンドクンと鼓動を打つ。


オレは、長いキスを終えて、唇を離した。

チアキ先輩は、目をゆっくり開けると、トロンとした目でオレを見た。


「……先輩、可愛いっす」

「うっ、うん。ありがとう……で、ノリ。いつにする?」

「いつ?」


チアキ先輩は、あれ? という表情をした。


「結婚だよ。今、俺にプロポーズしただろ?」

「げっ! オレ、また何か言ってました?」


「言っただろ! ずっと一緒にいたいって! 答えはイエスだからな! 責任とれよ!」

「ぶはっ……」


オレは、いったいなんてことを……。

でも、結婚OKってこと!?


まぁ、男同士ってことで、いろいろ障害はあるにしても……それはそれで。

やべぇ、嬉しすぎる。


って、ちょっと待って!


よく考えたら、キスしていたのに、喋れるはずがない。

これは、おかしい。


オレは不審に思い、チアキ先輩の顔をうかがった。

チアキ先輩は、ヒュー、ヒューと鳴らない口笛をして、挙動が明らかに変。


オレは、じっと先輩の目を見つめると、先輩はすっと目を逸らした。


ま・さ・か……。


「チアキ先輩!」

「なっ、何? ノリ?」


「オレ、実は、何も言ってないっすよね? 嘘ですよね? オレが喋ったって?」


チアキ先輩は固まる。


「えっと……」


しどろもどろのチアキ先輩。

これは、もう、答えを言ったようなものだ。


オレに鎌をかけていた、ってことなんだ。

オレは声を荒げて言った。


「先輩! ひどいっすよ!」

「ごっ、ごめん……悪気はないんだ……」


「じゃあ、なんだっていうんです?」

「えっと、えっと……その……」


小さくなるチアキ先輩。

やべぇ……めちゃ、めちゃ、可愛い。

もっといじめたくなっちゃう。


ふぅ……。

オレは、ため息をついた。


「チアキ先輩、オレの事を結婚したいほど愛している、からですよね?」

「えっ!? どうしてそれを?」


「だって、先輩。声、出てましたから」

「うっ……。本当に? ああ、まじで?」


チアキ先輩は、ちくしょう!っと頭を抱える。

ぷっ。

オレは、その姿を見て思わず吹き出す。


「あはは。うそですよ! チアキ先輩。お返しです!」

「えっ? そうなのか? なんだぁ。ははは」


オレとチアキ先輩は大笑い。


だって、二人とも互いの思っている事が手に取るように分かるんだ。

そんなことができるのって、愛し合っている、って証拠……。


オレもチアキ先輩も同時にそれが分かった。

安心して幸せ。

もう可笑しくなったってしょうがない。


しばらく、笑った後は、互いに目を合わせた。





無言だけど、チアキ先輩が何を思っているかわかる。


オレとチアキ先輩は顔を近づけた。

そして、何も言葉を交わさずに自然と唇を合わせた。


愛しています。チアキ先輩。

俺もだよ。ノリ。


そう無言で囁き合った……。

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