私は夢を見た。

リウクス

 3歳。

 私は夢を見た。

 イルカさんになる夢。

 美しい身体をしならせて、優雅に海を泳ぐ夢。


 4歳。

 私は夢を見た。

 魔法少女になる夢。

 キラキラのドレスに、ピカピカのステッキで、悪者を退治する夢。


 5歳。

 私は夢を見た。

 空を飛ぶ夢。

 誰よりも自由な鳥になって、空を駆け巡る夢。


 6歳。

 私は夢を見た。

 パティシエになる夢。

 甘くて美味しいケーキで、みんなを幸せな気持ちにする夢。


 9歳。

 私は夢を見た。

 絵本作家になる夢。

 私の描いたお話を読んで、みんなが笑って泣いて、心がぽかぽかになる夢。


 12歳。

 私は夢を見た。

 アイドルになる夢。

 眩しいスポットライトに負けないくらい、ステージの上で歌って踊って輝く夢。


 14歳。

 私は夢を見た。

 先生になる夢。

 教壇に立って、面白い授業でみんなを夢中にする夢。


 16歳。

 私は夢を見た。

 大好きな彼と夏祭りに行く夢。

 花火が打ち上がると同時に、彼が私の耳元で「好きだよ」って呟く夢。


 18歳。

 私は夢を見た。

 第一志望の大学に受かる夢。

 教育をしっかり学んで、いつか子どもたちに愛される先生になることを志す夢。


 19歳。

 私は夢を見た。

 今年こそは受験に合格する夢。

 合格発表の掲示板の前で、自分の数字を見つけて喜ぶ夢。


 20歳。

 私は夢を見た。

 楽しいキャンパスライフを送る夢。

 今度こそ彼氏を作って、お泊まりなんかしちゃったりして、翌日眠たい顔で授業に出る夢。


 22歳。

 私は夢を見た。

 翌年の就活に向けて、たくさん資格を取る夢。

 英語やビジネススキルを磨き、各社人事の目を引く人材になる夢。


 23歳。

 私は夢を見た。

 どこでもいいから内定を取る夢。

 こんなことなら大学を妥協しなければよかったと後悔しながら、一般企業への就職を実現する夢。


 24歳。

 私は夢を見た。

 早く仕事に慣れる夢。

 新しいこと、やりたくないこと、面倒くさいこと、会いたくない人、すべての痛みに慣れる夢。


 25歳。

 私は夢を見た。

 働かない夢。

 あと何十年か頑張って、働かずに余生を過ごす夢。


 26歳。

 私は夢を見た。

 土日にしっかり休める夢。

 緊張が体から抜けて、まったりと休日を満喫できる夢。


 27歳。

 私は夢を見た。

 夢を見る夢。

 あの頃に戻り、好きなように眠って、好きなように夢を見る夢。


 28歳。

 私は夢を見た。

 ちゃんと息ができる夢。

 胸の圧迫感が無くなって、呼吸も落ち着いて、普通の人みたいに生きている夢。


 29歳。

 私は夢を見た。

 病気が治って復職する夢。

 早く仕事に復帰して、会社の人に迷惑をかけない夢。


 30歳。

 私は夢を見た。

 楽になる夢。

 責任も、重圧も、焦燥も、頭痛も、何も感じない夢。


 31歳。

 私は夢を見なかった。

 夢は目を閉じて見るものだから。

 眠れない私は夢を見ない。


 32歳。

 私は気がついた。

 私でも夢を見られる方法。

 どうしてもっと早く気がつかなかったんだろうと、気分が明るくなった。


 32歳。

 私は夢を見た。

 薬をたくさん飲んで、目を閉じた。

 何もかも忘れて、何もかも消える夢。


 32歳。

 私は夢を見た。

 怖い夢。

 あの頃見た夢が蘇って、好きだったもの、好きだった人を思い出す夢。

 もう目を開けることはできないのに、もう一度生きてみたいと思わされる夢。


 身体が震えて、苦しくて、後悔して、抜け出したくて、でも何もできない現実。


 嫌だと叫ぶ心。

 それに応じない身体。

 眼前に広がる虚無。


 恐怖。

 不安。

 消える感覚。




































































































































































   

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は夢を見た。 リウクス @PoteRiukusu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ