6-6◆渡会 楓の憂鬱
一人になった私は、長く息を
気になって
たしか懲役と禁錮では、禁錮の方が刑罰としては軽いし、さらに猶予がついている。随分軽くなったということだ。
もう一度裁判記録に戻る。主文の次は理由となっている。被害者の動きは、自殺行為に近く、予測することが困難だった、と推論できることから減刑となったらしい。父にも前方不注意の非はあるとなっている。
読み進めると、検察による事故状況の説明が、証拠を交えながら行われていることが分かる。証拠も証言者もこの記録には省略されている。検察と弁護人が
検察は、父が飲酒をしているらしき姿を見たことを、父の同僚の証言から主張している。しかし、弁護人がその同僚を証人として呼び、飲んでいるところを直接見たのではない、と言う事実を証人から引き出し、飲酒の事実はなく、証言は採用できないと結論付けていた。この辺りは、父の言っていたことと合っている。
次に、被害者が突然飛び出してきたと言う父の供述について書かれている。検察は父が被害者を見落としたとしているのに対して、弁護人は回避できないタイミングで飛び出してきているとして、自殺だったことを主張していた。
検察は被害者に自殺の
しかし弁護側は、被害者は当時新人教師だったが、かなり多くの仕事を抱えていて、月七十五時間以上の残業が続いていたこと、経験のない運動部の指導を任されていたこと、セクハラ、交際相手との不仲など、突発的に自殺してしまっても、おかしくない状況だったという反論をしていた。
交際相手は、被害者が自殺をするような人ではないと訴えていたが、逆に自分が卒業研究で忙しく、被害者と
直近の被害者の心情など、分かる筈がないと言われている。
この記録は人名を全て黒塗りにされている。文章の中に人が増えてくると、読みづらいし分かりにくい。私はファイルを
「あ……
飯島浩太という人は父の職場の医師で、父が飲酒していたと証言していた。資料の方には、院内での信頼低い、被告に度々態度を注意されている。女性からの評判悪い。事故当日以外も本人は繁華街で
この人は、父にあまり良い感情を持っていなかったのではないだろうか。被害者と面識ありとは、どういう
ユウタという人物は、優亜をクラブで
今は記録を読むことに集中しなくては、と思い直し、裁判記録に戻る。更に、事故を回避できたかどうか? という議論に進んでいく。
ここでは現場写真を示しながら進めていて、文章だけでは良くわからない。また資料に戻ってぱらぱらと捲って、現場をイラストにした図や写真があるページを見つけて手を止める。
黒いタイヤの跡がついている横断歩道の写真。位置を変えて、その白線上の水たまりに落ちている、ネックレスを写した写真。
横断歩道から離れた場所にある赤黒い跡。そのすぐ傍にベージュの革カバンと、周囲に散乱したその中身。カバンについた赤黒い血の跡。
人の輪郭が、白線で描かれている写真。そして、助手席を写したものも。他にも色々あるが、写真はあまり見る気になれず、イラストの方を参考にしながら読み進める。
検察は父が、注意義務を
被害者、行永さんの方が悪いと言うような印象を受ける。判決では、自殺と断言していないが、自殺行為に近いとなっていた。遺族の人たちは裁判の結果に納得したのだろうか? 死んだ家族をこんな風に責められたら、私だったら許せないかもしれない。
もう一度、現場の状況が描かれたイラストに戻る。この状態、何か違和感がある。さっきは、殆ど見ないようにした写真を見返す。やっぱり何かがヘンだ。
行永さんについて書いてあるページはないか、資料を
「……! そんな……こんなことって……」
私は思わず手を止めた。そのページには、こう書かれていた。
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