5-2◆須藤 優亜の願い

 やっと四限目が終わったので、すぐにトイレに駆け込み、メイクを直す。今日はいつもよりナチュラルにしてみた。ピンクのグロスを塗り直して、胸元の開きを少し広げる。制服のシャツはいつも第二まで開けている。


 本当のところ、窮屈きゅうくつなので上までボタンを留めることができない。チェックを済ませて、職員室に行く。中田は既に席にいた。


「先生」

「なんだ、随分ずいぶん早いな。昼飯食べた後でもいいけど?」

「いい。ダイエット中だから」

「また、そんな事を……」

 やや呆れた表情であたしを見上げる。


「いいの。停学でちょっと太ったから」

 中田は何か言いたげに口を開けたが、代わりにふっと溜息ためいきを吐く。

「わかった。じゃ、話聞くから。その椅子使って」

「うーん、あんまり他の人には聞かれたくない」


 何の話をしようかと、家に帰りながら考えた。色々と思い返していたが、ちゃんと二人きりの時に仕掛けなかったから、反応が悪かったに違いない。二人になってちょっと傷ついたふりでもして涙を見せようと思った。あたしに説教した事を後悔させて、へらへら言い寄って来させるのだ。


「そうか。……授業の準備あるし、物理準備室行くか」

 ノートPCとテキストを持って中田が立ち上がる。あたしもその後ろに続く。あたしの話を親切に二人だけで、聞いてくれるらしい。けど、あたしは知っている。男の親切で見返りなしは、存在しない事を。



 物理準備室は初めて入った。中庭に面した窓際に事務机と椅子があり、事務作業も出来るようになっている。広さはあまりないが、据え付けの実験机が二つあり、丸椅子が、それぞれの机の上に四個ずつ置かれている。


 左を見ると、壁一面にガラス戸棚があり色々な機器が入っているのが見える。廊下側には、移動式のワゴンに乗った大きな機械が置かれている。


 中田は丸椅子の一つを事務机の向かいに置いてあたしに勧めると、ガラス戸棚の方に歩み寄り、板レールの上に金属球がいくつか乗ったモノを取り出し、丸椅子が無くなった実験机の上に置いて、事務机の方に戻る。


「何、それ」

 実験机の方を指さして聞いてみる。

「あぁ、ガウスガンだよ。うちのクラスは二週前にやったけど」

 言われてもすぐに思い出せない。確か、運動量保存則をやっているから、その辺りの実験だろうか。

「そうだっけ……。そう言えば見たかも?」


「ちょっと、窓開けるよ」

 中田は自分の右側にある窓を開ける。ひんやりとした風が教室内に入って来て、あたしの左頬をでる。窓の外を見ると中庭が見えた。準備室は中庭に面した特別教室棟の二階だ。中田はあたしの方に向き直った。


「あのさ……交番から、直接先生に連絡あったの?」

 相変わらず、真直ぐこちらを見てくるので居心地が悪い。本題に入る前に、ちょっと緊張をほぐしたい。って、あたしは緊張している? このあたしが……そんなわけない。

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