4-3◆渡会 楓の願い
デザートのマンゴーのスープを食べ終わったときに、
『知っている』『相澤楓』『名前を変えても』『無駄』
並ぶ言葉を見た時、罰が当たったと思った。同時に水族館で出会った、愛ちゃんのお母さんのことを思い出した。やっぱり私の人生に、ずっとついて来る事実なんだと思うと、恐怖と一緒に悲しさが湧いてきた。裁判も何もかも終わっているのに、私は一生加害者の娘なんだ。ぼんやりと白いテーブルクロスを眺めていると、テーブルの上にコーヒーが置かれた。白い湯気が止め処なく、昇っては消えていく。
「ごめんね。コーヒーのミルクもらった?」
祥子さんが戻ってきて、私に声を掛ける。黙って首を横に振る。
「お父さんって、今……どうしてるかな」
「どうしたの……? 何かあった?」
「飲酒運転とか、してないし……、女の人も自分で飛び出してきたんだよね? いつまで悪く言われるんだろ……そもそも飛び出してこなかったら、お母さん死なずに済んだよね」
結果的に運転していた父が、二人の命を奪ったけど、その罪に見合った罰を裁判で下された。一体これ以上何を求めて、私にあんな言葉を送り付けるのだろうか。
「何か言われた? 誰?」
祥子さんがテーブルの上に身を乗り出して、辺りを見回す。私は、スマホの画面を見せる。祥子さんは眉を
「名前も分からない誰か……。もうやだ。何が正しくて、誰が悪いのか、分からなくなってきた……」
「ちょっと貸して」
スマホを私の手から奪い取ると、差出元の番号を押し、電話をかける。呼出し続けるが、相手は出ない。
「こんなメール無視よ。こんな人間こそ捕まえて欲しいわ。この画面のスクショ私に送って。番号変える?」
高校生になるときに、この番号を新しく取った。前の私なら、番号を変えたいと言う、たぶん。けど今は、嫌だ。知らない誰かに自分が否定されることを、受け入れ続けることのように思えた。
「変えない。逃げたと思われると嫌だ」
目の前に置かれたコーヒーに口をつける。甘いフルーツのような香りがするのに、味は苦い。
「そっか……。逃げたくないか。ねぇ……
祥子さんがスマホを私に差出しながら聞く。水族館での出来事から、会いたいと考えたりもした。けれどこうして本当に会える選択枝を出されると、すぐに答えが出てこない。
「こういう奴らって、適当な情報で楓のこと責めたりするから。逃げたくないと思ってるのなら、今の達兄に会って、話をして、ちゃんとした核を持っておくことが、大事だと思う。」
その通りだ。私の中で思いがまとまってない。私の中に軸みたいなものがなくて、悪者を探してぐらぐらしている。
「祥子さんは、あれからお父さんと会ってるの? お父さんのこと……」
「直接は一回だけね。あとは電話でちょこちょこ話してる。楓が気にするようなことは何もないよ。達兄のことは悪く思ってない」
私を真直ぐに見つめて、微笑む。祥子さんも瞳の色が薄い。私たちは血の
「……会う。ちょっとまだ、上手く話せるか分からないけど、話したい」
「分かった。大丈夫よ、私入れて三人でセッティングするから」
祥子さんは美味しそうにコーヒーを飲むと、にっこりと笑う。私もコーヒーに口をつける。けどやっぱり苦い。あんな風に美味しく飲める日が、来るのだろうか。
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