4-2◆渡会 楓の願い
白いテーブルの上に黒い丸皿が置かれる。丸皿の上には、トマト、ゴーヤ、焼きトウモロコシ、パプリカなど色鮮やかな野菜が一口大に切られて散りばめられている。野菜の間に赤や黄色のソースが点々と置かれている。
「美味しそう。なんだか花火っぽい、この盛り付け。家だとできないよね」
「すごい……、
「一番外に置いてあるのを使うの、これとこれよ」
祥子さんのまねをして、外側のフォークとナイフでトマトを口に運ぶ。濃い甘みが広がる。厚切りのパプリカをソースに付けて食べてみる。甘酸っぱいソースの味でパプリカの瑞々しさが良くわかる。
「うわ、野菜の味濃い! ここ会社の同僚から紹介してもらったんだけど、人気なの分かるわ」
フォークとナイフを器用に使って次々と野菜を口に入れていく。惚れ惚れするような美しい食べ方だ。私も
「祥子さん、お小遣いって何があったの?」
数日前に、会社からお小遣いが出たから、社会勉強も兼ねて、少しいいところにランチを食べに行こうと言われた。まさか、お皿の周りにこんなに沢山、フォークやナイフが並んでいるお店だとは思わなかった。
「社内の業務の効率化とか、コストダウンとか、そういうのに貢献が大きかった案件のメンバー全員に、毎年ちょっとしたお小遣いがもらえるのよ。去年私の担当してたプロジェクトが選ばれったってわけ」
にっこりと笑うと、祥子さんはゴーヤをぱくりと食べる。
「祥子さんって、やっぱり凄いんだね……。先生も褒めてたよ」
「先生って、あの先生? 私のこと話してたの?」
祥子さんが驚いた様に目を丸くする。
「英語の発音がキレイとか、バリキャリで、若く見えて素敵だって……」
「それはどうも。……大丈夫? 何か
先生に祥子さんとの関係がバレたことは、まだ話していない。私を水族館に連れて行ってくれた日の帰りに、先生は祥子さんに通院完了の挨拶をしてくれた。その時も、私の母親として話を合わせてくれた。
「ううん。されてないよ。先生は良い人だから」
「ちょっと……顔の良い男は、簡単に信用しちゃだめよ。まぁ、
祥子さんはニヤリと笑って、炭酸水を飲む。
「たいした怪我じゃなくて、本当良かったけど……。ちょっと出来すぎてるもんね。楓に怪我させたあの男前が、同じ学校の先生で、通院まで面倒見てくれるなんて、惚れちゃうよね」
私は祥子さんを見ながら、お皿の野菜を急いで口に運ぶ。言葉を返すのに少し考える時間が欲しい。祥子さんはそんな私の様子を、面白そうに眺めている。
「憧れるくらいなら良いの。けど……あんまり深入りしないでね。大人って、楓が思うよりずっと弱いから」
「……弱い?」
「そう。お姉に似てお人好しだから、心配してるの。まぁ、通院も
祥子さんは、自分のお皿のナイフとフォークを少し持ち上げて見せた。私は別に、先生に守ってほしいわけじゃない。けれど、祥子さんが私のことを心配する気持ちもわかる。先生と私の立場は世間から見ると、恋愛対象として望ましくない。
「分かってるよ! それに私、子供扱いされてるし……。そうだ、最近知り合った同じ二年の子が、社会人と付き合ってるって言ってて。もう、超美人で大人っぽいの」
「え? そんな子もいるんだ? 何歳上なの?」
「一〇だって!」
「えー、うっそ?」
食べ終わったお皿が下げられて、次のお皿がやってくる。高森牛のランプ肉らしい。グリルして、ココナッツのソースがかけられているという説明がされ、お店の人が下がる。祥子さんの真似をして、外側のフォークとナイフを取る。
「ランプ肉って何?」
「あー、肉の部位よ。確かお尻の上の方。うーん……! あっさりしてる、美味しい。甘いね」
「……!」
私は言葉にならず、息を吸い込む。美味しい。美味しすぎて胸が痛む……こんなに美味しいものを食べさせてくれる祥子さんに、申し訳ないと思うせいだ。来週、先生と会う約束をしてしまった。会うことを言えば反対されるだろう。私は祥子さんが思うような、お人好しなんかではなくて、先生の優しさに付け込んでる。また、二人だけの時間が欲しくて、会いたいと、お願いしてしまった。こんなことを知ったら、祥子さんは私に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます