1-2◆渡会 楓の秘密
事故に
入学して
見学に行った時は、ちょうど一五〇〇と三〇〇〇の記録会をやっているところだった。短距離は単純に、足の速さである程度の限界があるが、中距離は序盤・中盤・終盤、三段階の戦略も勝負では重要だと、案内してくれた先輩が言っていた。終盤のスパートで一気に抜き去る様子に、目を奪われた。
実際に走ると無心になれる事も大きかった。呼吸とペースの配分を、絶えず気にし続ける。余計なことを考えない。走ることは、私の
自宅から総合公園までの往復コース、約二〇分だ。公園まで住宅街をぐるりと
公園に入る時に渡る細い道路には、横断歩道があった。しかし、この横断歩道は押しボタン式のため、歩行者は常に赤信号になっている。押して必ず待つ必要がある。私はこの時間帯この細い道路には、ほとんど車が入ってこないことを、ランニングをはじめてから数カ月で学習した。なるべくなら、足を止めたくない。
そこで、横断歩道の手前で斜めに道路を横断し、公園に入ることを
そこに突然、ブレーキ音とともに車が現れた。私は
車に肩が触れるまでは、全てがスローモーションになった。肩が車に当たった瞬間、時間が加速して進み、
心臓が、これまでにないほどに、どくどく言っているのが分かる。ぶつかった車から男の人が降りてきて、青い顔で話しかけてきた。痛いとか、大丈夫とか、単純な返答しかできない。
男の人の顔を見上げた時、どこかで見たような気がしたが、思い出せない。そのまま病院に連れていかれた。一通りの処置が終わって、見たことがある
まさか自分が事故に
「そんなこと言って……中田ってまぁ、理屈っぽいけど、割と人気あるんだよ。背も高いし、顔良いし? 二人でドライブ、楽しいでしょ?」
「ね、どんな感じなの? 何話してるの? もうそろそろ教えてよ」
「別に、普通に優しいし……、お勧めの参考書のこととかだよ」
「普通に優しいかー、……参考書ってさ、あたしら物理取ってないじゃん」
「す、数学のだよ……」
菜月の眼が笑いを
「
「えっ? 違うよ……、協力とか、そんなのないよ……」
自分でも間抜けな返事だと思う。菜月に先生のことで、あれこれ言われる度に、
自分の抱えている感情を、知られるのが怖いと思っている。それに菜月の言うような気持ちは、もっと同年代の誰かに抱くべきものだと……。
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