富さんの姉様福さん
九条様が
よすがの家の
よすがは、ひと月もの間家を空けていたお詫びを大家さんにして、引っ越すことを告げた。
大家さんは、よすががこれ以上帰ってこなかったら、家を取り壊して立て直すつもりだったそうだ。
本来なら金のかかることはしたくないはずの、大家さんでさえ、
だが、そんなわけで、よすががさしだしたひと月分の家賃と
あまりにもあっけなく、いつの間にか
四方に新しい落ち着いた
九条様が、引っ越し祝いだと、新しい寝具まで用意してくださったので、あの
これはにゃまとが、布団が
部屋はきれいで、まるでお姫様になったような心地だ。
それに、ひと月ほどいた
妖の屋敷に似ていて落ち着くというのもおかしな話だが、それくらいよすがにとっては居心地のいい部屋だったのだ。
にゃまともすっかりなじんで、早速に、これも九条様がくださった新しい座布団に丸まって寝てしまった。
さっきまでは人間の姿で手伝っていたが、もう終わったとばかりに、黒猫の姿で気持ちよさそうに寝ている。
荷物が片付いたころに、九条様がやってきて今日中には全部が終わると、言ってくれた。
よすがも、職人が行き来する家で、落ち着かない状態で暮さなくてもよくなることはありがたかった。
「荷物も片付きましたので、舞を
「おお、よろしくお頼み申す。だが、その前に家の中を見ていただけますかな。よすが殿の家となるわけですから、完成した状態を確認しておいてほしいのです。もし、何か気になることがありましたら、今のうちに言ってもらえれば、すぐに直せますからな」
「家の中を全部見るのは初めてです。とてもわくわくします」
「そうですか。案内しますぞ」
家のリホームが完成してみると、不思議だが、この屋敷は、妖の屋敷と間取りがそっくり同じだ。
よすがは不思議に思い九条様に聞いてみた。
「九条様、このお屋敷は、富さん達のお屋敷と
「ああ、そうなのですよ。この屋敷とは
「そうなのですか! 屋敷も元通りになったことですし、どこかに隠れていたのなら出てきてくれるといいですね」
「よすが、富さん来るにゃんか?」
にゃまとが、目を輝かせて聞く。
「そうじゃなくて、富さんの
「富さんの姉様にゃん?」
「富さんの姉君なら、私も、よすが殿も大歓迎ですから」
「僕も大歓迎にゃん」
九条様はにゃまとの頭をやさしくなでながら頷いた。
「本当に、富さんの姉様に会ってみたいですね」
「おそらく、富さんのように十人力なのでしょうな」
「あ! もし、福さんが戻ってきてくれるなら、家の仕事をする家人は必要ないのでは…?」
「そうですな…。一人で何でもこなす人ですからな」
「家人を
「いや、よすが殿がそう言うなら私は構いませぬが、不便ではありませぬか?」
「いえ、ちっとも、もともと一人でやってきたのですから、自分のことだけなら問題はありません。ですがこんなに広いお屋敷となると、
「そうですな…。それでは、家人はもう少し様子を見て決めましょう」
「はい、ありがとうございます。では、お堂に行ってまいります」
「よすが殿お待ちくだされ、私もお
「九条様は、先ほどからご家来がお待ちになっていらっしゃいますよ。お屋敷にお帰りになったほうが良いのではないのですか」
「家来どもには、先に帰るよう言ってあります。私にはよすが殿の舞を見るのが一番の
そんなわけはないだろうと思いながらも、あまり
にゃまとも、何も言わなくても当然のように、九条様の後をとことこついていき、二人並んで座った。
今日も舞うのは春の
よすがが、舞を終わると満足そうに微笑まれる。この顔を見られただけで安心する。
今日も、ちゃんと舞うことができた証のようなものだ。
二人で座って
お社様だった。こんなに
「二人に返してあげようと思いまして。福さんです。仲良くしてください」
お社様は、そういうと袖の中からこの前のように光る玉を取り出してそっと床に置いた。すると、その光は人の形になった。
「富さん!」
よすがはびっくりして声を上げた。
「もしかして、福さんですかな」
さすがに九条様は
短いおかっぱ髪にふっくらとした頬。頼りになるお母さんふうの
「私は
「ええ、私たち、ひと月の間、富さんのところでお世話になったのです。とてもよくしていただいて感謝しています」
「そうか、富は元気だったか」
「福さんのことを心配していましたぞ」
「この屋敷を
「おお、もちろんです。ぜひ住んでくだされ。よすが殿とも話していたのですぞ。福さんが戻ってくれるのを待って居ようとな」
「はい。私は福さんに会えてとてもうれしいです」
「そうか。では、これからよろしく頼む」
いつの間にかお社様もいなくなっていたが、福さんも、すっとどこかへ行ってしまった。
「よすが、福さんにゃんか?」
にゃまとが不思議そうにくりくりの瞳でよすがを見上げて聞く。
「うん。富さんにそっくりね」
よすがと九条様は、思わず顔を見合わせてニッコリ笑った。
福さんが来てくれたことが嬉しかった。
「よすが殿、これで家のことは何も心配がいらなくなりましたな」
「ええ、よかったです」
九条様のご家来衆は、先には帰らず、九条様の邪魔をしないようにお堂の遠くから様子をうかがっていたようだ。
三人がお堂から出てくると、ぞろぞろと集まってきた。
よすがは、今日お世話になった九条様の御家来衆にお礼がしたくてせめてお茶でもと、広間に上がってもらった。
「今日は本当にありがとうございました。無事引っ越しも終わり、こうして今日からこちらで住まわせていただくことができます。お礼に
よすががそう言いかけたところで、ササっと、酒や、つまみが出てきて並べられる。
どうやら、さっそく福さんが動いてくれたようである。
「ま、まあ、福さんありがとう。皆さん、どうぞ、今日はくつろいでいってくださいね」
皆は、突然どこからともなく表れた酒やつまみにきょろきょろと見まわして驚く。
「座敷童の福さんじゃ。福さんは、富さんの姉君だそうだ。話したであろう」
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