第5話悪霊退治にいざ参る
「よすが殿大丈夫ですか?」
九条様の声にホッとするが、同時にこんな気持ちを気取られてはいけないと、わざと平気なふりをした。
「はい。私は大丈夫です。九条様は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。行きますぞ下がっていてください」
九条様は、よすがの安全を確かめると
次の瞬間、悪霊の鋭い
悪霊は、その鎌の様な腕を振りかざし、何度も引き裂こうと襲い掛かってくる。
九条様が、刀でその鈎爪を打ち返すが、悪霊はひるむ様子が一向にない。
「九条様これを、」
よすがが、九条様の刀に残り少なくなった聖水を振りかけた。その刀で鈎爪を受け止めると、ジュッと音をさせて煙が上がる。悪霊は、慌てて飛びのいた。
「悪霊はよほど聖水が苦手らしい」
「はい。ですが、あの巨大な悪霊に、少しばかりの聖水をふりまいても、倒す事は難しいかと思います」
「うむ。おそらくさっきの奴らのように、逃げるだけであろうな。弱点は何かないだろうか」
にゃまとも、
「効果があるか分りませぬがやってみましょう」
何と、この期に及んで、何か策があるとはなんとも頼もしい限りだ。
よすがは、すっとそこに立ち
彼女は扇を開き、舞い始める。扇がひらひらと
安らかな眠りに
救いを求めよ
こんな修羅場で、舞を舞えるとは、何と
「いや、いや、今は見とれてはだめだ!」
九条は、自分を戒めながら、悪霊に集中する。
よすがの声は、静かに屋敷を
その一瞬を九条様は見逃さなかった。九条様は法力を込めて刀を一刀両断に悪霊の頭から真っ直ぐに振り下ろした。邪悪な悪霊の姿が真っ二つに割れると、中心にあった本来の魂が抜け出てくる。
よすがは、さらに声を上げて歌う。
まほろばに、
光の子となりてかけのぼり
とことわの安らぎの国へいざ
やがて、よすがの歌に送られてその魂は空に上っていった。おぞましい姿はサラサラと崩れて消えてしまった。それに習うように、側にいた沢山の悪霊どもの姿も崩れ、一緒についていった。
この悪霊は、もしかしたら、かつてのこの屋敷の主だったのかもしれない。無数のあやかし共も、主に仕えるものだったのだろう。それで、よけいにお
共に
同時に鼻を突いた
「九条様、お怪我はありませんか?」
「うむ。大丈夫だ。そなたもだいじないか?」
「はい。何も問題ありません」
それにしても九条様は、とても頼もしい
九条様は、よすがにじっと見つめられてどうしていいのかわからず思考が固まる。こんな時はどうしたらいいのだ? 心の中でぐるぐるしていた。と、とりあえず、何か言わなければ場が持たない。
「よすが殿、疲れたであろう帰って休まれるがいいですぞ」
ぎこちなくありきたりな言葉しか出てこなかった。もっと気の利いた言葉はないものかと悔しくなりながらも、頭に血が上って何も思い浮かばなかった。
よすがは、無事役目を果たせてほっとした。これで帰れる。にゃまとに帰ろうと言おうとしてそばにいないことに気が付く。
よすがは辺りを見回してにゃまとを探す。いつでも、よすがの側をはなれたことのないにゃまとの姿が見当たらない。
「よすが殿どうなさった?」
「はい、…にゃまとの姿が見当たらないのです。何時も側を離れた事など無いのですが」
よすがの呼び出しの呪文にも姿を現さない。よすがは、あせった。
「そなたの式神か?」
「はい…。呼びかけに答えないなんて、まさか、にゃまとも、一緒に昇天してしまっていたら、どうしよう、もう、戻ってこないのかもしれない… 」
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