第4話悪霊退治にいざ参る
「いえ…、御礼などには及びません。それよりも、悪霊を払って、このお
「この屋敷にはびこった悪霊どもは、私が
「危険です。このお屋敷には沢山の悪霊が集まってきています」
「大事ない。私も、多少の
「私もご一緒させてください。悪霊を払うお手伝いをさせてください。決して足でまといにはなりません」
よすがも、何度か悪霊騒ぎに巻き込まれ、退治に手を貸した経験があった。今回もきっと力になれると思っていた。
「いや、これはこの屋敷の持ち主である、私の仕事。本来なればもっと早くに手を打つべきだったのだ。あやかしが出ると噂は聞いていたのだが、後回しになってしまったは、私の落ち度。かかわりないあなたを危険にさらすわけにはいかない」
「ですが、助けを求められたのは私です。ここは、乗りかかった船。私にも、何かできるはずです」
何と
「いや、あなたには舞いを
「このままでは、お社様を、お救い出来たとはいえません。安全な様子を見ませんと安心できません」
よすがは、一緒にあやかし退治をするといって、断固として引かない。どうしたものか。
しかし、目覚める前に見ていたのは夢だったのか…。春の
先ほどの様子と違い今は白拍子の衣装を身につけているよすがは、あの時の舞姫にそっくりで、九条は胸の高鳴りをこらえる。もし、そうなら、あの時はできなかったが、今なら手を伸ばせば届くほどにすぐそばにいる。抱きしめることができる?
いやいや、それはないだろう。あの白拍子ははかなげで、抱きしめたら崩れ落ちてしまいそうな、か弱い女性だった。こんなに
だが、声が、
似ている気がする…。どうしたものか。心臓がいたたまれないほど大きく波打って、とても側にいられなくなり立ち上がって距離を取った。
よすがは、九条様の、奇妙な行動に、そんなに嫌がらなくても、足手まといにはならないのにと少しムッとする。
九条は、離れたところで、また、ちらりとよすがを盗み見る。本人かどうか聞いて確かめればいいことなのだろうが、今は、そんな話をしている場合じゃない。
女子を連れてあやかし退治など、足手まといに他ならない! 断じて連れて行きたくはない。しかし、取り付かれていた自分を助けてもらったという弱みもあって、強くは断れなかった。
結局、渋る九条様を説き伏せて一緒に外にでる。
お堂の外に出た
不気味な姿をした、人とも思えないような
それとともに
(無理だわ! 臭いし、気持ち悪い。来なければよかった。何故こんなことに巻き込まれなければならないのか。こんなところにはほんの一時もいたくない。私に関係ないではないか。今直ぐに何もかも投げ捨てて逃げてしまおうか…。)そんな思考がよすがの脳裏をかすめて、よすがはふらふらとお堂からはなれそうになった。
「よすが殿、私の側を離れるでないぞ」
九条様の声に、はっと我にかえる。いけない! 負の感情に支配されかかっていたと気づく。自分から無理を言って九条様についてきたのに、どうかしていた。
悪霊の負の感情に飲み込まれてしまえば、自ら悪霊と化すのはあっという間だ。まんまと
九条様は、今度は
だが、そんなことを考えているどころではない。事態は
九条様は、
人の形をしていても悪霊である。ためらっていては危険だった。
「九条様、この聖水をお使いください。本殿へ急ぎましょう。其処にこの者共を操っている者がいると思います」
なるほど、このおぞましい姿のあやかしが見えていて、さらににひるむ様子もなく、冷静な判断は、女子とも思えぬ
無理にも一緒に行くというだけあるのかもしれない。
「ああ、ひるんだ隙に一気に駆け抜ける」
「はい。にゃまと、行くわよ」
「はいにゃ!」
思わぬところから、声が聞こえて九条は驚く。さっきは子供かと思ったが、やっぱり猫だった。
「…その猫はしゃべるのか?」
「にゃまとは、
「な、なるほど…」
式神を持っている、白拍子とは、一体どんな生き方をしているのか? と疑問に思う九条だったが、今はそんな事に気をとられている場合じゃない。気を取り直して前を向く。
いざ、悪霊退治に参る!
聖水をばっと振りかけると悪霊たちは恐れてざっと引く。そのすきに駆け抜けた。
お社様のお堂から渡り廊下を通って本殿に入ると、既に黒い気配が漂っている。つつ闇なだけでなくひんやりと冷たい風がうなじを吹き抜けていくような気がして、ぞくりと寒気がする。春先とは思えないような冷気に鳥肌が立った。
渡り廊下から一歩中に入ったのと同時に後ろの戸がぴしゃりと閉まる。驚いて振り返るが、戻るわけにはいかないのだから、閉まった戸に気を取られている場合ではない。
奥の廊下を見ればうじゃうじゃと何やら別けのわからない黒いものがうごめいている。よく見ると長い髪の毛のように見える。うごめいて蛇のようでもあり不気味で、足がすくんだ。足を踏み入れたくない気持ちがあふれ出してきた。弱気になってはだめだ! 無理についてきたんだから、見なかったことにしようと、よすがは他に気をそらすことにした。
部屋を分ける
しかし、九条様は、ひるむ様子もなくずんずん進んで廊下に踏み込んでいく。さすがは武将だ、こんな光景にも
そして、案の定、床にうねっていた蛇の様な髪が足に絡まってきた。 ぞわぞわと鳥肌が立つ。
しわしわのあの、骨と皮しかないような垢だらけで汚い手の、黒い尖った長い爪が、ぎちぎちとつかんで締め付ける。触るだけでもばい菌が付きそうと思っていたあの長い爪にぞっとする。うう、さわらないでほしい!
その汚い爪が肌に食い込んで痛みが襲う。さらにそれ以上に氷のように冷たい感触の手とますます強く感じる腐敗臭に腐った死体に抱き着かれているのではないかと想像を掻き立てられ恐怖が湧き上がる。二人は、声も出せずに障子に張り付けられてしまった。
にゃまとはさすがに素早く捕まらなかったようで、よすがをつかんでいる手に噛みついたり引っかいたりして一生懸命助けようとしてくれる。
九条様が、障子に刀を突きたてると、「ぎゃあ」という悲鳴を上げて手は
障子戸から拘束を逃れられたが、さっきの汚い手を思い出すと体中がぞっとして身震いした。
にゃまとも、
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