バブみ道日丿宮組

それっていったい?

 むしゃむしゃする音で目が覚めると、

「知らない天井だ」

 薄暗いところだった。

 天井とはいっても、暗くてほとんど見えない。

 起き上がり、周囲を確認する。

 知らない場所だ。

 二畳ほどのスペースに、小さな窓。そして出入り口と思われる鉄格子。

 これはあれだ。

 

 ーー牢屋。


 はて、捕まるようなことをしただろうか。

 意識を失う前のことを思い出そうとして、目をつむるとむしゃむしゃする音で気が散って集中できなかった。

「はぁ」

 やれやれめんどくさいな。

 鉄格子の扉を開かないと思って押してみれば、開いた。

 サビかなにかで重いぐらい。

 僕を誘拐、拉致? したやつは詰めが甘いようだ。

 手と足を縛り、目隠しでもさせておくんだったな。

 牢獄から出て、廊下らしきとこに進む。

 暗いのは嫌だな。

 スマホスマホと、ポケットに手を突っ込んでみればそれがあった。

 ほんと誘拐犯は手抜きじゃないか?

 地図アプリで場所を確認。

 すぐにどこだかわかった。

 学校のすぐ隣にある元刑務所。

 怖さを元々感じてなかったが、拍子抜けした。

 歩いて帰れる距離だし、警察とかに連絡するまでもないだろう。

 カメラを起動して、ライトをつける。

 ないよりはマシ程度だが、まぁいい。音の正体でも確認しに行こう。

 危ないからよせだとか、逃げるのが先だとか言われそうだが、気になってしまえば眠るのに影響がでる。それは由々しき問題だ。却下する。

 廊下は、結構な距離があるようでライトの範囲以上見えない。

 僕が入ってた牢屋と同じものがいくつも廊下を中心に並んでる。

 ちなみに誰かが入ってたりはしなかった。

 長い廊下を歩き、厳重そうな扉が見えてきた。

 いかにも刑務所という感じのセキュリティが強そうなそれも鍵なんてかかっておらず、簡単に開いた。

 これってあれだよな。

 一人で肝試ししてるっていう……。

 恥ずかしいやつっていうか、寂しいやつじゃん。僕は一人が好きだけど、好きでやってるんだから、なんか言われても困る。

 扉の奥には、手術室のような寝台が中心にあった。

 警備員がいるような部屋ではないようだ。

 むしゃむしゃ音は強くなった。

 どうやら、寝台の向こう側にそれがあるらしい。

 さてご対面。

「ん?」

 まるがあった。

 髪があった。

 いわゆる頭がそこにあり、動いてた。

 あぁ……これはホラーでよくあるやつ。

 気づかれたら、ガブッと噛まれたりするやつだよね。

 蹴飛ばすか。先手必勝というし。

 でも、そんな気分にはなれなかった。

 どう考えても危機的状況だというのにでもだ。

「こんにちわ」

 能天気すぎだろ、挨拶なんて。

 頭がゆっくりと振り返る。

 見慣れた顔が視界に入ってきた。

「僕?」

 それは僕の顔をした頭だった。

 口にはなんらかの肉のようなものがある。

 頭がここにあるのだとしたら、僕の『頭』はどうなってるんだろうか?

 両手をあげて、ゆっくりと頭がある部分へと近づけてく。

 どくんどくん。

 少し焦りがでてきた。

 これでなかったらとか思うと、少しだけワクワクした。

「あぁ、あるよねぇ」

 ぺたぺたと触れてみれば、皮膚の感覚があった。唇も鼻も耳もある。ついでに髪もある。

 頭はなくなってなかった。

 ただ……なんか違うような気がする。

 スマホを逆にして、撮影。

 ついでに僕の顔をした頭も撮影。

 写真を確認。

 うん、僕じゃなかった。

 これは幼馴染の彼女のものだ。

 ってことは身体もそうなのか?

 ぺたぺたと触ってくと、凹凸があったり、陰茎がなかったり、変化があった。

「えぇ……」


 ・・・・・・・・・・ 


「って夢を見たんだけどさ、なぜか夢精してたんだよね」

「最低なんだけど」

「ほら、好きな女子が出てきてえっちとかするとなるじゃん」

「でも、朝も元気だったよね?」

「それはそうだね。おかげで学校遅刻しそうになったし」

「その夢はどうして身体が違ったの?」

「わかんないや。そういった願望があったのかもしれないし」

「私になりたかったの? 頭だけになりたかったの?」

「新しい自分ってやつかな」

「なにそれ」

 もう時間ないんだから早く服着てねと、全裸の彼女は着替えを始める。

 ここはラブホ。

 ホラーなんて関係のない癒やしの場なのだ。


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バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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