薔薇の吸血姫とボクっ娘JK巫女さん3~セリスのフィアンセ?~

第4話「セリスのフィアンセ?メフィス=フェルシア」

 〇登場人物紹介〇

 メフィス=フェルシア

 ヴァンパイア。家同士で決めた。セリスのフィアンセで性格はクール?

 セリスを追って日本に来る。


 イメージイラスト

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16817330667596414215

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 くれない色の夕日が神社を染めあげる。ある日の夕方、玲香は巫女服を身にまとい、いつものように、竹ぼうきで境内けいだいを掃いていた。玲香の艶やかなぬばたまの黒髪が風に舞う。

「ふう。掃除も終わったし、そろそろ家に帰るかなー?」

 玲香は、ほうきを片付けて、拝殿はいでんの戸に鍵を閉めて帰ろうとした。



 その時、静寂を破るように大きな羽音が、頭上から聞こえて来た。

 驚いて、玲香が見上げると銀髪に赤い瞳、スーツ姿の美青年が空中に飛んでいた。

 その背には、セリスのような赤いコウモリの羽が生えている。

「お前、吸血鬼か……?」


 青年は、ふわりと地面に降り立つと眉根を寄せ、玲香に怪訝そうな表情を向けた。

「いかにも、私は吸血鬼だ。突然だが、水野玲香。セリス様を返してもらおうか!」

「何だと?何で、お前はボクやセリスを知っているんだ!」

 玲香は思わず身構え、目の前の男を警戒して、自身の霊力を高め始める。

「くくくっ……。人間如きが、私と一戦交えるつもりか?何と、浅はかな……」


 薄く笑う吸血鬼の男、まさに一触即発になりかけたその時。

「わらわの玲香に何をしておる? メフィス=フェルシア。そこになおれ!」

 セリスが階段を上って来て、玲香を庇った。


 その瞬間、セリスの瞳が赤く光り、人差し指が下を差す。メフィスと呼ばれたその青年は、まるで重力でも掛かったかのように地面にひれ伏した。

 だらだらと、額から脂汗を流すメフィス。その力に耐えきれなくなると彼は、その場にドサリと倒れた。


 ◇ ◇ ◇


 その日は、ちょうど。弟の俊は、近所の友達の家に勉強会で泊まりに行っていていなかった。

 学校もその子の家から登校し、明日の夕方頃に帰宅するらしい。


 ここは、玲香の部屋。倒れたままにしておくわけにもいかず、メフィスは玲香とセリスによって家に連れて来られ、ベッドに寝かされていた。

「玲香、なぜに。こやつを家に連れて来たのじゃ?それに、よりによって玲香の残り香が香るベッドに寝かせるなど。うらやま……いや、何と図々しい男じゃ!」


 ベッドで眠るメフィスを見ながら、セリスが心底悔しがる。

「お~い。本音が駄々洩れだぞ。セリス~」

 片手を前でひらひらさせて、玲香は思わず、苦笑した。


「うう……」


 メフィスは、ベッドの上でうなった。

 思わず警戒し、セリスを後ろ手で守りながら、顔を覗き込む玲香。その玲香の男前な態度に頬を染めて、玲香を見つめるセリス。


 メフィスは、目を開けると舌打ちして飛び起き、勢いよく畳に着地して、玲香に向かって身構えながら睨んだ。


 玲香の前に出て、片手を突き出すセリス。

「メフィス……。玲香に指一本、触れてみよ。そなたを灰にしてくれるわ!」

 セリスの赤い瞳がすっと冷たくすぼまる。


「私はずっと、水晶で見ておりました。なぜ、なぜなのです。セリス様!なぜこんな、げせんな人間の小娘に貴女のような、高貴な血族のお方が肩入れしているのですか!」


 必死に訴えるメフィスに玲香は、あまりの酷い良いようにジト目で、メフィスを見ながら言った。


「こいつ……。君のファンか、ストーカーか何かか?何なんだよ」

「こやつは、わらわの幼馴染で……。父上が決めた。フィアンセなのじゃ」

「えっ、なっ、フィアンセだと?」


 玲香は石で頭を殴られたようなショックを受けた。

「君、ボクを夫にするとか。言ってなかったっけ?嘘だったのか」


 落胆したような疑いの目をセリスに向ける玲香。

「ちっ、違う!信じてくれ。わらわが愛しているのは、そなただけじゃっ!」

 焦り、涙目で誤解を解こうとするセリス。その二人のやり取りを見て、勝ち誇ったような表情で椅子にふんぞり返るメフィス。


 ◇ ◇ ◇


 その時ドアが開き、玲香の母叶恵が姿を現した。

「話は、聞かせてもらったわ。その子はやっぱり、セリスちゃんの関係者だったのね」


 おっとりした声とふんわりした雰囲気で、玲香とメフィスをめっと叱る叶恵。

「駄目よ~、玲香ちゃん。メフィスくん。女の子泣かせちゃ。喧嘩も駄目、ちゃんと話し合いなさい!」


 その、ほのぼのしているのに妙に説得力と、迫力のある態度と内に秘める高い霊力にメフィスは冷や汗を流し、その美しい容姿に頬が赤く染まり、禁断の扉を開きそうになった。


「玲香ちゃんは、セリスちゃんを信じるの。」

 玲香は、こくんとうなずいた。


「メフィス君、玲香ちゃんは悪い子じゃないわよ?喧嘩しなくても、話せばきっと、分かってくれるから。そうしなさいね」


 メフィスも思わず、自然にうなずいていた。

「メフィス君、あなた。根は、悪い子じゃないでしょう?優しい目をしているし、おばさんには何となく分かるのよ」


 叶恵はメフィスの頬を片手でさすった。

「はい、叶恵様……。承知致しました。」

 メフィスは、叶恵の前に敬意を持ってひざまずいた。

「お話しが終わるまで、ここにいてあげるから。三人共良く話し合いなさいね」


 ◇ ◇ ◇


 セリスと玲香、メフィスは叶恵にうながされて冷静になり、しばらく話し合った。

 すると、メフィスは幼い頃からセリスのことを慕っており、突然のセリスの旅立ち。


 そして、日本での玲香を夫にする宣言等を、水晶玉で見て耐えかねて。愛するセリスが、どこの馬の骨とも、分からない。しかも、セリスと同性と言うことを知り、遊ばれているのではと心配になって日本に来たということが解った。


 だからと言って、このままメフィスと帰してしまったら、セリスと二度と会えなくなるかもしれない。

 玲香にとってもそれは、もっとも避けたいことだった。


 そんな、不安な思いに駆られた玲香は思わず、セリスの肩を抱き寄せ、そのバラの花びらのような赤い唇にキスをしていた。


 目を見開き、顔を朱に染めるセリス。

「ボクは、セリスが好きだ。今やっと、気がついた。ボクは彼女が、空から舞い降りて来たあの日から、一目惚れをしてたんだ。だから、メフィス。君の気もちも解るけど。セリスは君には、渡せない。」


 メフィスは、その光景に真っ赤になり、怒っていたが。玲香の真剣で、曇りの無いまなこを見て性別を超えた嘘偽りのないセリスへの愛情があると、感じ取った。

 メフィスは、フッと笑うと悲しげでそれでいて、優しさに満ちた瞳で玲香とセリスを交互に見た。


「――玲香。セリス様を頼む。その代わり、疑いの目を向けたり、泣かせるようなことがあれば私は再び、この国を訪れるだろう」

「了解だ。そんなことは、二度とないように肝に銘じるよ」


 メフィスは、セリスにひざまずき、首をこうべをたれた。


「セリス様どうぞ、お健やかに。私は、遥か祖国の地で貴女様の幸福を願っております」

「メフィス、理解してくれたのじゃな。父上によろしく言っておいてくれ。わらわは、必ず玲香を夫にすると」


 メフィスはうなずき、微笑むと深く頭を下げた。

「叶恵様、ありがとうございます。貴女には、どんなに感謝の言葉を尽くしても足りません。祖国に帰りましたら、お礼の贈り物を送らせて頂きます」

「気をつけて帰るのよ。硬いことを言わずにセリスちゃんに会いたくなったら、またいらっしゃいね」


 叶恵は柔らかに微笑むと、メフィスの肩をぽんぽんと二度軽く叩いた。

「はい。」

 メフィスは、最初のような硬い表情は緩み、三人に笑顔を向けた。


 ◇ ◇ ◇


 そして、次の日。メフィス=フェルシアは、早朝にルーマニアに戻って行った。

「騒がしい奴じゃったが。行ってしまったの……」


 朝陽に照らされ、セリスのヒスイ色の髪が、キラキラと光りながらなびく。

 そんな切なそうなセリスの横顔を見て、心配した玲香は問い掛けた。

幼馴染おさななじみが帰って、寂しい? 家族にもそろそろ、会いたいんじゃないのか」


 すると、驚いたような表情をしてセリスが玲香を見つめた。

「そうじゃな。少し、寂しいやもしれぬ。しかし……」


「しかし?」

「わらわには、愛する玲香や日本の家族がいるから大丈夫じゃ」


 セリスは、玲香に精一杯の笑顔を向ける。

 玲香はそんな、セリスがいじらしく思えた。


「ありがとう、セリス。こんな、ボクを好きになってくれて」

「玲香、わらわこそ……」


 ふたりの距離が徐々に縮まり、玲香とセリスの唇が重なった。

 玲香は、血液バッグのみではなく次の日から少しだけ、自身の血も分けることにした。

 その日から、ふたりの愛と信頼はより一層、深まって行った。

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