薔薇の吸血姫とボクっ娘JK巫女さん2~思い返すは母の温もり~

第3話「玲香とセリスの母の日」

 〇登場人物紹介〇

 水野俊みずのしゅん

 玲香の弟。小学2年生の元気な男の子。

 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛


 窓から眩い陽光が差し込む。鳥のさえずりが聞こえて来る。

 朝、玲香がベッドで目覚めようとすると身体が重たく。



 目を開けると何と、セリスが自分の上にのしかかっていた。


「何するんだ。セリス!?」

「ふふ、甘くかぐわしい香り……。のども渇いておるし、少し吸わせてもらおうかの」


「なに、心配はいらぬ。夫になる人の命を取る気はない。痛いのは最初だけじゃ」

「くっ!」

 セリスの両目が赤く光り、鋭い牙が玲香の首筋に迫る。



 玲香は、抵抗をする。冷や汗が頬を伝う。その時。

「姉ちゃ~ん!お客さんも朝だよー」

 元気な声でドアを開けたのは、玲香の弟の水野俊みずのしゅんだ。


 俊は綺麗な少女が、姉の上にのしかかっていると言う。

 子供には、衝撃的で刺激が強い光景を見て一瞬、固まったが。

「朝のおかず、テーブルに出してあるから」と一言言うと、ニマニマ笑い

「姉ちゃんも隅に置けないね」と付け足してドアを閉めた。

「待て、俊。これは!」



 玲香が慌てて、飛び起きるとセリスは、ベッドから落ちずにふわりと宙に浮いた。

「今どきの子供は、マセとるの。しかし、愛らしい弟じゃ。さすが、玲香の弟。あやつの血も味見してみたい」


 セリスが、ぺろりと舌なめずりをすると、玲香はやめろと言わんばかりのきつい視線で彼女を見た。

 休日の朝食は、いつも玲香と母のかなが作り置きしているおかずと。プラス玉子料理だ。


 玲香は母が神社に出かけているので、俊が選んだ保存容器に入っている総菜を器に移した。

 今日は、ツナとほうれん草のごま和えとゆで卵だ。

 準備をしているうちに、トースターに入っている食パンがこんがり良い色に焼けた。


 玲香は、先程の罰にセリスは、朝食抜きにしようかとも考えたが。

 それで、家族の血を吸われては敵わないので、しっかり食事を取らせた。

「でさー。今日、母の日だよね。ママのプレゼント。姉ちゃんは、何にするつもりなの?」


 出がけに俊に問われた。

「それは用意してあるから。後は、帰りに花屋に寄って、カーネーション買ってくる。あと、スーパーにもな」


 玲香は、付いてきたがるセリスに留守番をさせ、スーパーと花屋に行こうと商店街を歩いていると何と、後からセリスが追いかけて来た。



 陽の光の事を心配すると、セリスの一族はハイクラスなヴァンパイアの為。

 普通の吸血鬼のような陽光、十字架、ニンニクはあまり効かないらしい。

 彼女は、羽を隠して上手く人に化けていて

 今朝のことでセリスは、反省したらしく。玲香に謝って来た。



 だが、吸血鬼であるがため。血を定期的に摂取しなければならないらしく。

 玲香に相談してきた。

「うーん……。そうなのか?分かったよ。血液バッグを注文してやるから」

 玲香はスマホで検索して、血液バッグを注文した。

「すまぬな、玲香。本来なら、新鮮な血が良いのじゃが……。背に腹は代えられぬしな」



 セリスはそう言うと、ため息を吐いた。

 玲香とセリスはスーパーでお茶や寿司、唐揚げやエビフライ等が入ったパーティーセットを購入し、花屋に寄ると赤いカーネーションとかすみ草の花束を買った。

 セリスは世話になるからと、玲香に半分お金を出して、自分用にもバラと白いカーネーションを購入した。


 ヴァンパイアは、バラや強い香りの花を観賞と食用に好むらしい。

 そして、白いカーネーションを見つめる。

 セリスは、儚げでそれを察した玲香はそんな彼女を切なそうに横目で見た。


 家に帰って来た玲香とセリスは、一足先に部屋の飾りつけや、支度をしていた。

 俊と買ってきた総菜やサラダ、寿司をテーブルに並べ始めた。

 俊の買ってきたチョコレートケーキと取り皿も置く。



 そのうちに叶恵が神社から、帰って来た。

「玲香ちゃん、俊ちゃん。セリスちゃん。ただいま~」


 叶恵のおっとりした声が聞こえ、神主の浄衣じょういと呼ばれる着物を着た彼女叶恵が食卓に入って来た。

「お帰り、ママ!」


 まだ、甘えたい盛りの俊が叶恵に抱きつく。

「あら、俊ちゃん。ただいま~。今日はごちそうねえ」


 叶恵がにこにこすると、玲香が言う。

「母の日だからね!さっ、母さん。着替えて来てくれよ」

 叶恵が着替えて来ると、玲香達は席に着いた。


「あっ、そうそう。お父さんから電話があって。玲香ちゃんと俊ちゃんのこと。

 元気かって、聞いてたわよ。セリスちゃんのことも伝えておいたわ」

「父さん、元気そうで良かったよ」

「パパ、今度いつ帰って来るんだろ~?」


 玲香と俊の父親、水野俊彦みずのとしひこは現在、東京に出張しており、週に一度、連絡をして来る。

 玲香と俊は、来月の父の日に何か、プレゼントを送ろうと思った。



 ◇◇◇



 玲香と俊は食事をした後、叶恵にカーネーションと金色の箔押しがされた。お洒落な財布と俊は、花柄のハンドタオルを贈った。


 玲香がふと、気がつくといつの間にか。セリスの姿が無く。

 玲香と叶恵が探すと、玲香の部屋で花瓶に白いカーネーションを生けて両手を組み、祈っていた。

「何だ、セリス。部屋に戻ってたの?」



 ほっと胸を撫で下ろし、どうしたのかと玲香が聞くと、セリスはふっと寂しそうに笑い。

「そうじゃ、せっかくの親子水入らずに水を差しては、と思うてな。それに今日は、母の日じゃし。母上と一緒にいて差し上げたいと……」

 彼女セリスは、金のロケットペンダントに入った母の写真を愛しそうに見つめた。



 叶恵がセリスに近づき、抱きしめた。

 目を見開き、驚くセリスに叶恵は言った。

「そんなことないわ。セリスちゃんが良かったら、一緒に母の日をしましょう。セリスちゃんのお母様と一緒に……」


 気がつけば、セリスは自然と自身の母のことを話していた。

「わらわの母上は、ハンナと言う名の人間での。元は、父上のメイドをしていた。ヴァンパイアの血を引くわらわとは、寿命が違って、とうの昔に亡くなっておるのじゃ……。」

「わらわは、生き過ぎたのやもしれぬな」


 そう言うとうつむき、目を潤ませた。

「セリス……」

 玲香がいつもと違うセリスに、声を掛けづらそうにしている。


 すると、叶恵がもう一度、今度は先ほどより、強く抱きしめた。

「そんなことないわ!お母様は、セリスちゃんに元気に生きて。天寿を全うして欲しいときっと、思っているはずよ」

「だから、ねっ?」

「私が、あなたの日本でのお母さんになるわ」

「本当に?」


 セリスは、何とも言えない嬉しそうな表情で頬を桜色に染め、叶恵を抱きしめ返した。

「良かったな。セリス」

「良かったね。セリスさん」

 玲香も、セリスを心配して見に来た俊も、嬉しそうにうなずいている。



 セリスは玲香達と洋間に戻り、改めて叶恵とセリスの母親、ハンナの母の日を祝った。

 青いガラスの花瓶には、赤いカーネーションと白いカーネーションが一緒に生けられ、セリスはこれまで生きて来た中で一番、賑やかで嬉しい母の日をすることが出来た。


 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

 〇登場人物紹介〇

 ハンナ=ローゼンブルク

 セレスの母親、人間で元は父親のメイドだった。ずっと昔に亡くなっている。

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