第15話 探検依頼

 優吾が妹の彩の怒りに触れてから、数日が経っていた。

 新しい部員が2名入部したことにより、ミステリー研究部は正式部員5名となった。

 研究部顧問には例の件の後、鷹峯凛子先生が着いてくれている。脅してないよ、自主的にやってくれてるんだよと、優吾の弁。

 部長である優吾は、お礼をかねて兼部してくれていた野球部の部長・関本和也と料理部の部長・東雲菜々子に会った。

「関本さんは体格ガッチリしたね~。4番でエースだもんね。東雲さんと藤田さんの目の付け所はバッチリだったね」

「だろ~、もっと褒めてくれても良いよ。私の自慢の作品だ」

「俺は作品なのか!でも、自分でもビックリしているよ。体のコンディションは最高だ」

 関本と東雲の関係は相変わらずのようだ。

 そこで優吾は正式部員が5名になったので、名前貸しとして兼部してくれたお礼を言い、退部届けを生徒会に提出するつもりの旨を伝えた。

「いや、俺はそのままでいいよ。別に困ることないし、むしろミステリー研究部で何かイベントないのか?野球ばっかりだから、何か気晴らししたいんだよ」

「私も料理部とミステリー研究部の兼部で問題ないわ。あと残り1年もないしね」

と、2人はミステリー研究部に所属したままで良いと言ってくれたのである。

「ホント?野球部副部長の藤田さんみたいに忙しい中、負担かけてると思ってたから嬉しいよ。じゃあ卒業までよろしく頼む。イベントありそうだったら、声かけるね」

 そう言うと、優吾は2人に手を振って別れた。


 次は生徒会室にいるだろう麗奈に話さなきゃなと思いつつ、優吾は校舎をつなぐ中廊下を歩いて行く。

 生徒会室では、生徒会長の蒼未麗奈と副会長の鳥海蔵之介が打ち合わせを行っていた。

「ちょっとお邪魔するね~」

 間の抜けた挨拶をしながら優吾が入って行くと、

「ちょうど良かった。ミステリー研究部部長のあなたに相談したい事があったのです」

「いや、そのミステリー研究部なんだけど正式部員が5名になったんで、麗奈が兼部してくれなくても大丈夫になったって伝えに来たんだよ」

「え?」

「へ?」

 麗奈と優吾で変な疑問符の掛け合いになった。そして、蔵之介は生徒会長がこんな声を出すのかとビックリして2人を見つめていた。

 コホンと咳を1つしてから麗奈は、

「生徒会活動と部活動との両立は兼部とは言わないわ」

「そうなの?」

「そうよ」

「ですから、わたくしは元々ミステリー研究部の正式部員なのですよ」

「マジで?」

「マジよ」

 この夫婦漫才みたいなのは何なんだろうと、蔵之介は思い始めていた。

「じゃあ、部長やってくれない?」

「イヤよ」

「即答かい!」

「そうよ。その正式部員からの相談なんだから、断らないわよね部長さん」

 あっれ~?生徒会の紐付きから逃れるために、部員集めしてたのに、すでに懐に入られていたのかと優吾は思い、

「相談内容によるな」

と、せいぜい強がったのであった。


「あ~やっぱり!優吾部長ならそう言ってくれると思ってた」

 麗奈キャラ変してね!と優吾は思った。

 ちょっと待て、俺やるともなんとも言ってないよな。もしかして、また相談という名の強制執行なのか?優吾は頭の中でスパコン並みに、自問自答を繰り返していた。

 悲しいかなスパコンと違うのは、答えが導き出せないという致命的な欠陥があることだけだ。

「ウチの裏の敷地に洞窟があって、蒼未家を継ぐ者は代々、その洞窟内の祠にお参りしなきゃならないしきたりがあるの」

「ダンジョン攻略するのか?」

「ダンジョンじゃないから、洞窟だから」

「おんなじだろ」

「え、鳥海君そうなの?」

「さぁ?」

「まぁ、どっちでもいいよ。それで何か制限はあるのか、人数とか?撮影禁止とか?」

「特に細かい決め事はないって、おばあさまは言ってたけど…あ、そうだ同世代の人しか一緒に入れないって言ってたわ」

 優吾はそれを聞いてしばらく考えると、

「よし、やろう。ミステリー研究部にバッチリな案件じゃないか。ドキュメンタリー的に撮影して、文化祭にも出せそうだ」

「いいの?」

 麗奈がビックリして言い返して来る。

「いいも何も、やっと本物のミステリーっぽい案件じゃないか。それとも他に気になる点や危険性があるのか?」

「そんなに深い洞窟じゃないし、危険はないと思うの。実際、おばあさまやおかあさまは無事戻って来ているんだから…」

「それじゃあ、問題ないんじゃないの」

「うん、だけどね。あるはずの祠が見つからないんだって」

「え?だって祠にお参りしに行ったんだよね」

「そうなの。伝承ではその洞窟の奥に祠があるからお参りせよってあるらしいんだけど、かなり前の世代から祠がないって話になってるらしいのよ」

「それじゃあ、洞窟の奥まで行って帰って来るだけなのか?」

「いくら探しても、祠が見つからないんだから、しょうがないんじゃないかしら」

 優吾は少し考え込むと、

「なぁ、その祠が確認できなくなった頃って調べられるか?」

「おばあさまに頼んで、学院図書館の書庫に入れば史料はあると思うわ」

「よし、そこから始めよう」

「本当にやってくれるの?」

「祠がなくなるなんて、それこそミステリーじゃない。ただ洞窟入って出て来るだけじゃ、TVのやらせ探検隊以下になっちゃうからね」

「わかったわ、史料の件はおばあさまに確認しとく」

「こっちはミステリー研究部の部員に声かけておくよ。あ!顧問の凛子先生にも、話通しておかなきゃいけないな」

と優吾が言うと、それまでほとんど聞き役だった蔵之介が、

「凛子先生への連絡は僕に任せてくれ、それで凛子先生が参加する事になったら、僕も参加させてもらって構わないだろうか?」

 と、尋ねてきた。

「もちろん、ミステリー研究部としては大歓迎だよ。麗奈の方は問題ないか?」

「ええ、問題ないわ。よろしくお願いね、鳥海君」

 相変わらず凛子先生が絡むと対応が素早いな分別の蔵ちゃんは、と優吾は感心したが、麗奈と同世代ではない凛子先生は洞窟の中に入れない。凛子先生とボディーガード役の蔵之介は洞窟の外での待機部隊に決定だなと思った。


 それから優吾は、ミステリー研究部の面々に連絡を取り、日程の調整、役割分担を決めると、麗奈に許可を取ってもらった学院図書館の書庫に1週間ほど通いつめて、蒼未家の史料を調べまくった。


 いよいよ明日、洞窟に入るというタイミングで優吾は麗奈を書庫に呼んで、最終の確認を行うことにした。

「史料を調べたんだが、蒼未の家は代々、巫女みこを輩出していたようだね」

「ええ、今でこそ出藍学院の経営を主体としているけども、本来の生業なりわいは巫女だったと聞いているわ」

「ただ、巫女と言っても神社に仕えている巫女さんとは違って、シャーマンだったようだね」

 優吾に問いかけられた麗奈は、綺麗な形の顎に指を触れて少し考え込むと、

「代々受け継がれて来た方法で、占いを行っていたと聞いているわ。その時代の権力者の依頼を受けることも多かったらしいの」

「まるで邪馬台国の卑弥呼だな」

「実在するのかは知らないけれど、卑弥呼は邪馬台国を治めていたのでしょう。権力者そのものではないかしら。でも、占いを行う巫女としては分かりやすい例えね」

「だろ~!洞窟の奥に行ったら、巫女さんが合格祈願の御守りや破魔矢売ってたら怖いじゃん」

「それはそれで初詣に行く手間が省けていいかもね」

「ありなの?」

 麗奈がこんなジョークに付き合ってくれると思っていなかった優吾は、からかうつもりが逆に驚かされていた。

「それで肝心の祠がなくなった時期はわかったの?」

 麗奈が核心に迫る質問をした。

「ああ、おおよそわかったよ。史料によると麗奈のひいひいひいばあちゃんが1940年の7月に失踪してるらしいんだ。ひいひいひいばあちゃん…ひいを数えるのが疲れるから五世の祖って言うね」

「最初から五世の祖で良かったんじゃない」

「まあ、それは置いといて五世の祖のおばあちゃんが失踪した後にひいひいばあちゃん…高祖母ね。が洞窟に入った時には祠がなくなっていたと記されているよ」

「ということは、五世の祖が失踪した前後で祠がなくなったのね」

「タイミング的にはそうなるね」

「五世の祖が失踪した場所や理由はわかっているのかしら?」

「史料には当時の新聞も保存されていたんだけど、家にいるのを旦那さんが見たのを最後に行方がわからなくなったとされてるね。ちなみに旦那さんは麗奈のひいひいひいじいちゃんだよ」

「ひいひいひいおばあさまと共に祠も行方不明になったという事ね」

「そう、なかなかのミステリーじゃないか」

「高祖母、曾祖母、おばあさま、おかあさまと4世代に渡って祠を目にしていないのね」

「そう言う事になるね。あと蒼未家の都市伝説になっている、家を潰しかけた男系当主はこのひいひいひいじいちゃんだよ」

「そうなの?確かに代々女系で続いて来た当主を男性が引き継いだ時に、家が滅びかけた事があるとはおばあさまから聞いていたわ」

「都市伝説じゃなかったんだな」

「蒼未家にとっては、恥じるべき事柄だから公にはしてなかったのよね」

「そりゃ、そうだよな~。家を潰しかけた奴の事は秘匿するよな。ところで、史料には蒼未家の巫女装束は独特だと記されているんだが、明日はそれを着て洞窟に入るのかい?」

「ええ、しきたりとしてそうなっているから、祠のあるなしに関係なく着用するようにおばあさまに言われているわ」

「そうなんだ!実はウチの妹がそういった衣装に興味があって、明日一緒に来ても良いだろうか?まだ小学6年生だから洞窟の中には入れさせずに、凛子先生と一緒に外で待機させるから」

「ん~、そうね。問題ないと思うわ」

「ありがとう、助かるよ。主に俺が…」

「そうなの?」

 麗奈は意味がよくわからないといった感じで、

首を傾けた。


「よくやったアニ」

 自宅に帰った優吾は、さっそく妹の彩に明日の洞窟探検の件を打診してみた。その答えがこれである。

「だろ~、かわいい妹の事はお兄ちゃん、片時も忘れてなんかないからな~」

「ん?そう言うキモい、重たい、あざとい、ごますりは要らないから」

「無下もないな」

「そりゃそうよ。でも、憧れの麗奈先輩に会えるなんて!しかも巫女のコスプレなんてレア過ぎる」

「コスプレじゃないけどな」

「あ~もう、今から鼻血出そう」

 彩が自分の世界に入ってしまったので、優吾は早々に退出する事にした。妹のご機嫌は取れたようなので、明日に備えて早く寝る優吾であった。







 

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