第14話 妹
カオスな放課後を送った優吾が、自宅に帰ると父親の大吾がホシと戯れていた。ただいまの挨拶をして、優吾は2階の自分の部屋にスロープで向かった。
自分の部屋のノブに手をかけたところで隣のドアが開き、妹の彩が手招きしているのが見えた。
彩の方からコンタクトを取って来るなんて、めったにあることではない。何かやらかしたかと思いつつ、彩の部屋に入る。
彩の部屋には女の子らしく、ベッドにはパステルカラーのぬいぐるみが各種置いてある。これらが普通の女の子らしく見せるための、カモフラージュであることを優吾は知っている。
部屋で1番異彩を放っているのが、会議室にあるような大きなホワイトボードである。
数学の天才である彩には、ぬいぐるみなんかよりもホワイトボードに今も書き込まれている、方程式やら定理やらの数式に囲まれている方が居心地が良いのである。
「お兄ちゃん、正座」
「はい」
学習机の椅子に座った彩の前に、優吾は正座する。
以前に逆らった時は、オイラーの等式について延々と聞かされるはめになったので、2度と彩には逆らわないと決めた優吾なのであった。
「さて、なぜお兄ちゃんは正座させられているのでしょう?」
「わかりません」
特に、彩を怒らせる事をした覚えのない優吾は即答した。
「ほほう、しらを切るつもりなのね」
「いや、そんなつもりはこれっぽっちもないよ。ホントに心当たりがないんだってば!」
「自分の胸に手を当ててごらんなさい」
言われた通り、優吾は胸に手を当てた。
「どう、何か聞こえた?」
「まだ生きてる」
「そうね、鼓動があればねって!そういうことじゃないわよ!」
数学バカの妹が、ノリツッコミができるようになってお兄ちゃん、嬉しい。などとふざけた事を優吾が考えていると、
「コロされたいのかしら?」
と、彩からの冷気を感じて震え上がる。
「いえ、結構です」
「残念、コロシの方程式を実践で確かめたかったのに…」
そんな方程式あんの?スパイ映画みたいだと優吾は思い、
「俺をその方程式に当てはめるのはやめてくれ」
と、妹に土下座した。
「お兄ちゃん、今日の昼休みは何をしていたのかしら?」
「え、麗奈に呼ばれて生徒会室に行ってたけど」
「それから…」
「色々報告した後、麗奈にランチご馳走になった」
「なんですってー!」
妹の般若の様な顔を初めて見た優吾は、これが今回のお怒りポイントかと合点がいった。
「ちょっと惣菜パンだけじゃ足りないなって思ってたら、麗奈のランチを分けてくれたんだよ」
「なんて、うらや…じゃなくって不届きなのかしら」
「でも、美味しいって言ったら喜んでくれてたし、また食べさせてくれるって言ってたよ。今度は麗奈の手作りかもしれないな、テヘロン」
「マジでコロス!テヘロンとか言ってんじゃね~よ。どうせテヘ+ヘロン(数学者)なんだろーが!アニキ抹殺計画発動せし!」
「ちょっとした数学ジョークだよ。危ない計画発動すんな!」
「麗奈様ファンクラブをナメるなアニキ。ホームの端に立つときや、横断歩道では背後に注意した方がいいよ」
「マジで事故に見せかけて殺りに来てるじゃん」
「あ、階段や橋の上もね」
この妹マジで怖いと思って、優吾は彩の部屋を飛び出した。
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