第3話 ミステリー研究部

「とまぁ、こんな感じのクラス会議が、優吾先輩が1年生の時にあったんですよね?」

「うっぷ…ぷぷ、猫キング可愛いすぎ」

「猫キングもそうですけど、この後に優吾先輩の2つ目のあだ名が出来たんですよね。」

「ヤベチー、口の軽い奴はハードボイルドに殺られて死すべし!」

「確か、あっちこっちで地雷が爆発した様な状況になったから、『誘爆誤爆の優吾』なんですよね」

「死すべし!死すべし!」

「パイセン、結構やらかしちゃんなんですね」

「いいだろ!結果的にウチの野球部は全国大会出場レベルになったんだし、俺は4人の名前を借りてミステリー研究部を立ち上げ、この憩いの部室をゲットした。まさにWinWinだろ」

 優吾は必死に自己弁護に努める。


「なるほど~、それでウチの部の幽霊部員に野球部の部長と副部長、それに料理部の部長がいるんですね~」

「野球部の副部長になった藤田さんには、ヤベチーとみことが入部した時に兼部は解消してもらったけどね。忙しくて力になれなくてゴメンって言われ続けられてたから、こっちが申し訳なくて…」

 みことが獲物を見つけた猛禽類の様な目をしている。美味そうな恋ばなにターゲットを絞ったようだ。こいつが犬だったら、絶対しっぽ振りまくっているであろう姿が目に浮かんだ。

「んで、パイセン。野球部の部長と料理部の部長はその後、どうなったんですか?」

「あ~関本と東雲か?あのあと2人で話し合って、関本の食事を東雲が管理する流れになったみたい。そうすると当然、家での食事や弁当が関係するから、関本のお母さんに2人で説明しに行ったらしいよ」

「いきなり、お母様にご挨拶ですか!これはもう、結婚しかないですね」

 なんで、みことはこんなに興奮してるんだ?と思いつつ、

「ところが家に行ったら、関本には下に男の兄弟が2人もいたんだって。小学生と幼稚園生だって言ってたな。2人とも関本と同じでかなりデカくなりそうだって、東雲が興奮して教えてくれたよ」

「男ばかり3兄弟に彼女登場!奪い愛か争奪戦か!ぐはっ」

「おいヤベチー、みことってこんなキャラだったか?」

「どうやら変なスイッチが入ったみたいですね。特に先輩の猫キングあたりから」

「そこからかい!」

 優吾のツッコミ。


「関本のお母さんは、娘が欲しかったんだって。それが3人とも男でガックリ来てたらしいよ。だから東雲が行って、関本の彼女じゃないにしろ料理を手伝いたいなんて言ったら、もう熱烈大歓迎だったらしいよ」

「て、ことはお母様の信頼と男どもの胃袋鷲掴みですね」

 やっぱ、みことは犬の様に尻尾を振る猛禽類だ。尻尾を振る猛禽類を優吾は知らなかったが、なぜかみことにはイメージ出来た。

 みことのあだ名を、ラプター(猛禽類)にしようかなと優吾は密かに考えていた。

「プロで通用する身体を作るんだからカロリーもだけど、たんぱく質・脂肪・炭水化物・ミネラル・ビタミンのバランスが大事だって言ってたな。あと成長期に合わせた食事メニューを考慮してるらしいよ」

「なんかそれって病院で出てくる食事みたいですね」

 矢部が、味が二の次になりそうな食事メニューに引き気味に言う。

「それがさ~すっげぇ美味いんだって!関本がマジ感激してたもん」

 その時の、関本のうるうるした眼を思い出しながら優吾が言う。

「東雲パイセン、さすがやりますね」

「そしたら、なぜかいつも帰宅の遅かった関本のお父さんが、早く帰って来るようになったんだって。最近じゃ、家族みんな体調がいいらしくて休みの日には夫婦でマラソンに挑戦してるって言ってたな」

「お父さんも取り込みましたか!もはや魔性の女ですね」

 みことがドヤ顔で言い放った。

「その時、幼稚園年長さんだったから今、小学生の末っ子ちゃんが、菜々子姉ちゃんは僕の嫁だ!宣言して兄弟喧嘩の火種になってるらしいな」

「年下も凋落か!家族全員、東雲パイセンにパラサイトですね」

「ですね。じゃねーよ!パラサイトとか人聞きの悪い事言うな。もう恋ばな禁止な!」

「パイセン、かんべんしてつか~さい」

「結局、関本先輩の御守りを盗った犯人はわからず仕舞いだったんですね」

「ハードボイルドな探偵は、時と場合によっちゃ犯人なんてどうでもいいのさ」

「いつからウチはハードボイルド研究部になったんですか?」

 矢部があきれ気味に笑う。


「ヤベチー言うね~!じゃあ、ミステリー研究部らしく、主人公もしくは語り手が犯人だったミステリー小説を1つ挙げよ」

「あたし知ってる~」

「みこと~、これはヤベチー問題だからね。答え言うなよ!」

「ラジャーです」

 みことが敬礼しつつ答える。

「おやおや、ハードボイルドを蔑ろにしたミステリー研究部員なんだから、こんな問題お茶の子さいさいだろ」

「それとも、みこと目当ての入部だからミステリー小説なんて読んだことないとか?」

「え!ヤベチー、そうだったの?あたしのカラダ目当てだったの?」

「そんな事ないよ!」と矢部、

「誰がそんな事まで言ったか!」と優吾。

 2つのセリフが不協和音の様に同時に響き渡った。

「テヘペロ」

「テヘペロじゃねーよ!この地雷女…いや甘いな、この爆裂女!」

 優吾が鋭いツッコミを入れると、

「爆裂女と誘爆誤爆男の組み合わせヤバくないですか。この部は火薬庫ですか?」

 矢部が素早く返す。

「ヤベチーナイス!だからこそ、爆発物処理担当の矢部隊員の存在が必要なんだよ」

「マジか~、あたし爆発物扱い。ヤバいっしょ!ドッコイショ! YO ~いっしょ!」

「ラップかよ?さてと、ヤベチーのために時間稼ぎしてあげたけど、なんか思い付いた?」

「ダメです、お手上げです」

「ハイハイ、アガサクリスティーのアクロイド殺しが有名っす」

 手を挙げながら、みことが答えた。

「結局、みことが答えちまったな~。ま、これは邪道とも言われるミステリーの手法の1つだったけどな」


「そういえば、あたし達が入部したての時にも生徒会長の麗奈パイセンが部室に来てましたよね」

「ああ、あれな。俺達も2年生になって、麗奈は予想通り生徒会選挙でダントツ1位になって生徒会長に就任した頃だったな」

「あれも何かの依頼だったんですか?」

「俺は生徒会の雑用係じゃねーよ!」

 よほど、不本意だったのだろう優吾が膨れっ面になる。

「でも、麗奈パイセンのお願いは断った事ないっすよね」

「それは…ほれ、あいつには部設立で世話になっちゃってるからな!」

「おやおや~、パイセン顔赤いっすよ。惚れた弱味っすか?これはまたまた恋ばなですか」

「ちげ~し、そんな意味の依頼じゃなかったし!」

 もはや、どっちが先輩なんだかわからない状況だ。

「やっぱ生徒会からの依頼だったんだ~!パイセンもうすっかり生徒会の犬ですね…キラ~ン!」

「キラ~ン!じゃねーよ、何いい笑顔してんだよ」

「パイセン、パイセン、その話も聞かせて欲しいですね」

「それより、喉渇かね?コーヒーブレイクにしようぜ」

 生徒会の犬扱いの優吾は、しっかり部費を調達して来ていて、部室を憩いの場にすべく電気ケトルを備え付けていた。

 インスタントコーヒーやスティックコーヒーも常備してある。なぜか、麗奈用のティーバッグもしっかりと置かれていた。

 優吾は自分用のマグカップに、お気に入りのコク深めな味のスティックコーヒーの粉末を入れた。

 そのマグカップにお湯を注ぎ、スプーンでかき混ぜながら、そろそろ後輩2人に協力してもらっても良い頃合いかなと優吾は考えていた。



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