3.3:An Escape - Epi49

 ゆさゆさと、体が揺らされて、亜美はぼんやりと重い目蓋まぶたを開けていた。


「時間だ。起きるんだ」

「……う、ん……」


 一気に体の力が抜けて熟睡していたものだから、目を覚ますのにも、時間がかかってしまう。

 おまけに、今までの疲労が一気に出たものだから、体がなまりのように重くて動かない。


「起きろ。中継地点だ」

「……う、ん……」


 クインに寄りかかっていたらしく、横に曲げていた首根が突っ張り始めている。しっかりと熟睡しなければ良かったものだ。


 よろよろと、動きの鈍い動作で亜美が起き上がり出し、クインに腕を引かれながら、椅子から立ち上がっていた。


 クインはまた扉を開けて、入り口の乗車台に亜美を連れて行く。

 ガタン、ゴトンと、列車は軽快に走り続けている。


 サッと、人の気配がないことを確認したクインは、手動用のレバーを引いて、列車の外扉を開けていた。


 ゴー、という轟音と共に、真っ暗闇の暗闇が素早く通り過ぎていき、また次の暗闇も通り抜けていく。


 げっ……と、さすがの亜美も、そこで顔をしかめてしまっていた。

 まさか、ここから飛び降りるというのではないだろう。


 007の映画を見過ぎではないのだろうか。そんな芸当が亜美にできるというのなら、聞いてみたいものだ。


 サッと、クインが腕時計を確認し、また亜美の腕を引っ張った。


 やっぱり、こんな急速度で走り続けている列車から、本気で飛び降りる気なのである。

 なんと、悲惨なことだろう。首の骨を折って動けない亜美でも見て、どうすれと言うのだろうか。


 その亜美の心の葛藤を察して、クインが、ふっと、笑った。


「しっかり受け止めてやるから、まあ、心配するな」

「私が飛び降りられると思う? どうやって?」

「いや――」


 グイッと、亜美が引っ張られたかと思うと、亜美はしっかりとクインに抱き締められていた。


「飛び降りるのは、俺の役目」


 それを言い終わらない内に、クインは亜美を抱えたまま、バッ――と、その入り口から外に向かって飛び降りたのだ。


 えぇ?――と、問う暇もなく、亜美はすでに空中に浮いていた。



(きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっ――――!!)



との亜美の心の中の大悲鳴は、誰にも届かず。


 ドン――と、地面に落ちたのだろうか。


 だが、クインにしっかりと抱き締められている亜美は、そのままの勢いで、バサバサ、ゴロン、ゴロンと激しく地面を転がり落ちていく。


 そんなことを繰り返しているうちに、ぎゅうぅっと、激しく目をつむっていた亜美は、なんだか動きが止まったようなので、そろーっと、片目だけを少し開けてみた。


「時間通りだな」

「よう、色男。相変わらず、女を引き連れて登場とは、ムカつくヤローだ」


 頭元で知らない声がして、亜美も不思議に顔を上げようとしたが、しっかりとクインの胸の中に抱き締められているので、上を見ることもできない。


「まあ、くなよ。女連れは、色男の特権だろ?」


 なんだか、少し笑っているようなクインの言葉が、胸の振動から伝わってきた。


 それからすぐに、クインが亜美を抱いたまま起き上がっていき、なんだか、地面に座り込んだような形の亜美は、そこで、クインの後ろに立っていた男――達に気が付いたのだ。


 漆黒の闇の中に、真っ黒の軍団がいる。


「ハロー、ブロンディ」

「金髪じゃないけど、一応、ハロー」


 そんなことを付け加える亜美に、手を伸ばしてきた男の口元が、微かに上がっていた。

 亜美の腕を取って、その男が、ひょいと、亜美を引っ張り上げた。

 その反動で、亜美は一気に立ち上がっていた。


「俺には?」

「知るか」


 相手にされないクインは、一人で立ち上がっていく。

 パンパンと、着ているズボンの後ろを払いながら、そこに集まってきている男達に目を向けた。


「これだけ」

「仕方がない。それでなくても、今は人手不足なんだ」


 なんだか不満げのクインを無視して、クインのすぐ隣にいる男性が、スッと、その視線を亜美に向けた。


 その男性は、集まって来ている男達のその中では、一番年上なのだろうか。落ち着いたその瞳が、静かに亜美を観察しているようだった。


 その風格からしても、集まってきた男達の中でも、リーダー的な立場にいるのは間違いなかった。


「アミ・サトウ」

「そう。あなたは?」

「俺は、ジョン」

「そう。初めまして、って言うべき?」

「その必要はない。まだ無事のようで、安心したが」


 なんだか、その口調を聞く限りは、とても亜美の安全の心配をしていたとは、到底、思えない感じだ。


「はあ、それはどうも」


 ジョンと名乗った男性は、まだ亜美を観察しているようだったが、ふいっと、視線をクインに戻していく。


「追っ手は?」

「今のところなし」

「だったら、着替えを済ませて移動だ」

「へえへ」


 他にいる男がクインの側に寄ってきて、なんだか黒いかたまりを差し出した。

 ところが、そのかたまりを、なぜか、亜美の方にも差し出してくるのである。


「着替えるんだ」


 それを言いつけられた亜美は、差し出してきた男の顔を、黙って見上げるようにする。


「恥ずかしいなら、後ろを向いてやってもいいが?」

「じゃあ、そうして。乙女の裸を覗くなんて、外道だもんね」


 皮肉で言われたのかも知れないが、そのままの通り亜美が言い返してくるので、男が微かにだけ眉間を寄せた。





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spas ji bo xwendina vê romanê

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