2.4:To Russia - Epi35
確かに――極秘のミッションなどでは、変装を余儀なくされる場合もある。だが、クインはそういった変装が大嫌いなので、その手の任務には全く関わらないし、指令が降りても全部断っている方だ。
その事実を亜美に話してやる気はないが、この場で、亜美の変装の手伝いをするような技能が、クインにあるはずもない。
「こう、
「頭じゃないよ。髪の毛、だよ」
無駄な指摘は無視をして、クインはこの会話中も亜美に近寄ってくる気配さえない。
「ねえ、手伝ってくれないと、どうやって、上手く
この場合、背に腹は代えられない……。
それから、あれやこれやと、二人で四苦八苦しながら、やーっと亜美は
その間の苦労と言ったら……。
腰まである亜美の長い髪の毛を押さえているクインが、無駄に髪の毛を引っ張たり、くるくると丸めるのに一苦労したせいで、
「痛いよっ……。もうちょっと、丁寧にしてよね」
などと、毎回、亜美から文句が飛ばされ、それで、亜美の方も
まあ、
「これで、いいかなぁ……。もう、すんごい時間もかかったわ」
それ以上に、ものすごい苦労もしたが……。
やっと作業を終えて、亜美の髪の毛を触りたくないのか、関わり合いになりたくないのか、クインは、一切、亜美に言い返すこともない。
「出かけるぞ」
「どこに?」
「外」
ああ、そうですか。
変装を終えたから、外出なんですね。でも、まあ、街中に泊まっているから、外出も、街中を歩くのだろうか?
変装道具には、洋服だけではなく、冬用の洒落たコートも二枚ほど入っていた。そのコートの色に合わせたように、マフラーや手袋も。
用意万端だ。
本当に、楽なことである。
今日は鬘(かつら)を被ってしまったので、外出時に帽子を被らないことにした。帽子を脱いだ拍子に鬘(かつら)が外れてしまったら、大変なことになってしまう。
ホテルから外に出ると、外の気温も大分冷たくなっていた。
はあ……と、息を吐き出すと、その部分が白く変わっていく。まだ、マイナスにはなっていないはずだが、頬に当たる風は冷たいものだった。
「恋人のように振る舞えよ」
「それって、仲良く腕組む、ってこと?」
はた、とクインが、一瞬、そこで考えてしまった。
この亜美は見るからに
なんだか、それだけで疲れ切ったように、クインは
「だったら、腕を組め。それらしく振る舞ってればいいんだ」
「ふうん」
絶対に、クインの指示を理解していないであろう亜美には、クインもそれ以上(無駄な) 追究をしない。
亜美が、一応、クインの腕に自分の腕を絡めてきたので、クインはその腕で亜美の腰を抱き寄せるようにした。
「俺達はツアー客だ。何か聞き返されても、俺達はただ観光で遊びにきた、と答えるんだ」
「ねえ、だったら、個人的な情報はどうするの?」
「別に答える必要はない。適当に笑ってりゃいい」
ある程度、亜美の役目も理解したので、亜美は肩からぶら下げている大きなバッグの中から、変装道具と一緒に入っていたモスクワ市内の地図と観光用のパンフレットを開いてみることにした。
「ハンドバッグの中にデジカメが入ってたんだけど、やっぱり、一応、それらしく、写真も撮っておいたほうがいいのかな」
「まあな」
「じゃあさ、あなたと私の写真とかも入ってないと、怪しまれない? 万が一の場合は」
それで、亜美がごそごそとバッグをあさり、デジカメを取り上げた。
片方の腕はクインの腕の中なので、手袋をしたまま、片手でデジカメを上げて、パチッと、すぐ隣のクインの写真を撮っていた。
「ねえ、次は私の番よ。きれいに撮ってね」
くだらない要望ではあったが、役になりきらなければならないので、クインも片手で亜美の手からデジカメを取り上げ、特別、焦点も合わせず、亜美の顔をそのまま撮っていた。
「ねえ、きれいに撮ってくれたの?」
この状況でも写真はきれいに撮りたいらしく、クインの撮った写真をちゃんと確かめる亜美である。
「なんか、ドアップで、焦点も合ってない感じだけど――まっ、いっか」
「へえへ」
亜美達がゆっくりと通りを歩いているので、その通りを写すかのように、パチッと、亜美が写真を撮っていく。
「もしかして、ここって……、有名なレッドスクエア(赤の広場)?」
ホテルから出て歩いていく先では、段々と人の流れが多くなり、亜美の視界に入って来る――荘厳で色鮮やかな建物を見て、亜美の瞳がキラキラと輝き出す。
ツアー客だろうか。かなりの人込みができていて、建物の近くで写真を取ったりと忙しい。
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இந்த நாவலை வாசித்தமைக்கு நன்றி (indha novel vaasithamaikku nandri)
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