2.4:To Russia - Epi34
* * *
「あっ、ブロンドだ」
用意された変装道具の中に入っていた
それを見て、一瞬、亜美も興奮して目を輝かせてしまう。
亜美は純日本人である。黒髪、黒瞳。今まで髪の毛を染めた経験だってない。
今回は、金髪の
洋服も一式揃っていて、靴も揃っている。一足だけなんてものじゃない。ちゃんと、何種類かの洋服に合わせたようなお洒落な靴が一式だ。
なんでもかんでも至れり尽くせりの“組織”のサービスだけれど、亜美のスリーサイズだって、一度として教えた覚えはない。なのに、自分の体に合わせてみた洋服のサイズは、ピッタリに見える。
一体、いつどこで、亜美のスリーサイズなんて確認したと言うのだろうか。まさか、所々で会う、“組織”のヘルパーらしき男達が、亜美の体をじーっと観察して、スリーサイズを当てた――なんて、気味の悪い考えが浮かんできてしまい、つい、身震いしてしまう。
「いやいや、気味の悪いことは考えないようにしましょう」
自分の判らないことは質問したくてしょうがないのだが、誰一人、その亜美の疑問に答えてくれるお助けマンはいない。
いそいそと、お洒落な洋服に着替えてみて、バスルームの鏡の前で見える自分の姿に、亜美も大満足だ。
「この服も、お洒落よね。こんなの着たことないわ」
亜美はまだ高校生だ。普段着ている洋服は、おこずかいを貯めて、自分で買った洋服が多い。
だから、買える範囲も値段も決まって来るけれど、バイト代とおこずかいを合わせて、可愛い洋服を買っている。
今、試してみた洋服は、ちょっと大人っぽく見えるだろうか。
メイク用品も一式揃っている。
亜美は、親友のキャシーと一緒に、デパートや薬局の化粧品コーナーで、興味心からサンプルの化粧品を試したことがある。
でも、自分一人で、フルメイクを挑戦したことがない。高校には、毎日、しっかりと化粧をしてくる女生徒もいる。まだ若くてピチピチの肌に、しっかりとファンデーションを塗りたくり、口紅もしっかりと塗って来る女生徒はいるものだ。
亜美は、昔から、兄の晃一に、
「お化粧したい気持ちも判るが、まだ子供のうちは、肌を隠さないで、健康的に見せているのが合っているよ。それに、亜美はそのままでも十分に可愛いよ」
と毎回言われ続けているので、それをまともに真に受けている亜美は、お化粧をして学校には行かないのだ。
今回は、口紅くらいは塗ってみるが、お化粧には時間をかけたくない亜美だ。
さてさて、今度は、待ちに待った金髪の
持ち上げてみると、亜美の地毛くらいの長さはある、長い
「亜美の髪はきれいだねえ」
兄の晃一が、いつも亜美の髪の毛を褒めてくれるので、亜美の黒髪は今では腰に届くほどの長さになっている。
サラサラと癖のない真っすぐとした髪の毛ではなかったが、それでも、つやつやと黒光りして、健康的で、一応、後ろ姿でも髪の毛がきれいに見える方だと、亜美も思っている。兄の晃一も、そう、自慢しているではないか。
ただ、問題に突き当たってしまった。
でも、亜美の地毛だって、随分な長さなのである。
「あのさ……、手伝ってほしいんだけど」
バスルームから出て来た亜美の視界の前に、どうやら、着替えを終えたらしいクインが待っていた。
「あれ? あなたも、着替えたの? 結構、まともに見えるのね」
「まともに見えるって、なんだよ」
亜美の失礼な発言に、クインもむっとした顔を見せる。
「これ、どうやって被ったらいい?」
クインの文句を無視して、亜美は手に持っている金色の
その
「そんな顔、しなくたっていいじゃない……」
「そんなもの、頭の上に乗せればいいんだろ?」
乗せた程度で鬘(かつら)が被れるはずもない。
その感情がモロに顔に出ている亜美が、憐れんだ様子でクインを見返す。
「あのさ、テロリストのエージェントって言ってなかった?」
「それが?」
「それなら、たまにはさ、こう、極秘作戦みたいなのもあるんじゃないの? そういう時に、変装とかしないの? 銃とかばっかりで戦ってるなら、兵士と同じでしょう?」
わざわざ、“組織”という団体まで作って、テロ対策のエージェントを雇うくらいなのだから、普通の国家機関である兵士と同じ役割なら、対テロ組織など作る必要はないだろうに。
亜美に変な指摘をされて、クインの顔が益々嫌そうにしかめられる。
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