2.4:To Russia - Epi32
だが、亜美は一般人の素人で、対テロリストのエージェントでもない。
それなのに、15分ほどは時間がかかったが、その後は、亜美は自然と眠っていたのだった。
兄の心配もあり、対テロリストの任務の一部も経験させられたのもあり、見知らぬ環境で一人きりにされている不安だってあろうに、亜美は反対のベッドで眠りに落ちていた。
今までが兄の心配ばかりで、夜も寝ていられる状態じゃなかった為、その疲労が重なり、今夜は、亜美が気付かぬうちに眠り込んでいたのだろうか。
どうせ、兄の晃一の心配だけで、神経が
食事もしっかり取っている少女である。
お
だが、本人が、毎回、毎回、口にして、兄の心配をしているその態度の割には、亜美はしっかりと食事を口にしていた。
機内食だって、しっかりと食べつくしていた。
心配で何も口にできない――という性格でもないらしい。
まあ、図太いのは、生き残ることができるから、遥々、ロシアまでやって来た亜美が神経質になって、ぶっ倒れる傾向はないようなので、クインも、その点だけは安堵するべきだろうか。
目が覚めたら、なぜかは知らないが、ものすごく喉が渇いていた。
「……あぁ……、喉乾いちゃった……」
「だったら、水飲めよ。移動の連続で、体内の水分が不足してるんだろ」
その声を聞いて、ガバっと、亜美がベッドで起き上がっていた。
起き上がった亜美の前に、水のボトルが投げられた。
「それは、どうも……」
自分の目の前にあるボトルを取り上げて、一口水を含んでみたら、クインの言う通り、ものすごく喉が渇いていたようだった。それで、ゴクゴクと、亜美は一気にボトルの水を飲み干してしまったくらいだ。
「今、3時間経った……?」
クインはただ自分の腕時計を確認するだけだ。
「まあ、大体な」
「そう、なんだ……。もう少し、寝ていたかったけどね……。なんで、あなたは寝てないの?」
「寝たけど」
「寝たの?」
「そう」
でも、亜美より先には起きていたらしい。
反対側のベッドを見ると、一応は、クインが眠っていた跡は残っているようだった。
「飯の時間」
「そう……」
モソモソと、ベッドから起き上がり、一度、ストレッチをした亜美は、最初に気になっていたバスルームに直行である。
今は、行方不明の兄捜しの任務でロシアに来ていて、旅行でやって来たのではないけれど、それでも、ちょっとは、ホテルの室内を確認してみたくなるではないか。
どんなアメニティがあるのかな?
バスロームって、お風呂がついているのかな?
シャワーとかって?
なんて、ちょっとくらい、ワクワクして覗いてもいいじゃない。
それで、亜美はバスルームに直行して、洗面台や、そこの引き出しなどとちょっと確かめてみた。
目の前には、大きな鏡がバスルーム全景を映しているほどだ。
実は、このバスルームには、ちゃんとお風呂がついていた、それも、大きな洒落たバスタブが置かれている。のんび~りと、バブルバスに浸かって、この大きなバスタブでリラックスしたら、どんなに気分がいいだろうか……。
兄の仕事や、亜美の学校が忙しくて、ここずっと、兄と二人で旅行に出たこともなかった。
兄の晃一を探しだし、見つけ出した暁には、これだけのストレスが溜まったので、リラックスできる旅行をしようと、兄に勧めてみるべきだろう。
のんびり、二人で旅行に行くのが、ストレス発散とリラックス療法には最善だ。
それから、ついつい、洒落たバスタブや、ガラス張りのシャワーボックスの中まで確認してしまった亜美は、ほんの少しだけ気分が上がって、バスルームを後にしていた。
すぐに、亜美の鼻に、食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「あれ? もう、食事ができていたんだ」
「そう」
クインは、すでに、室内にあるカウチの一つに陣取って座っていた。
クインの真似をして、亜美もクインの向かえのカウチに腰を下ろしていく。
「では、『いただきます』」
実は、佐藤家では、ご飯の時だけ、ちゃんと日本語を話す習慣がある。
『ごちそうさま』も、日本語で言う。
兄の晃一も、亜美も、二人ともれっきとした純日本人である。両親が、二人とも日本生まれの日本人だ。
でも、二人とも海外生活が長く、家では、余程のことがない限り、日本語を使用していない。全て英語が基本となっているから。
ただ、食事の挨拶は日本人らしくていいよねえ、と幼い亜美が口にしたことから、食事の時だけは、その習慣を取り入れるようになった晃一である。
突然、日本語が飛び出てきても、全くその点を指摘しないクインだ。フォークとナイフを取り上げ、さっさと自分の食事を始めてしまう。
白いお皿の上に乗っている食事は、スクランブルエッグにベーコンとソーセージ、それからトーストが2枚。バターとジャム。結構、普通の朝食メニューだった。
コーヒーのポットも運ばれてきたようだったが、ここでカフェインなんて飲んでしまったら、更に、亜美の体内時計がめちゃくちゃになってしまう。これ以上、睡眠を邪魔されるわけにはいかないのだ。
それで、オレンジジュースのグラスを取り上げていた。
食事中は、二人の会話は一切ない。移動中も、ほとんど会話なんてないんだけど。
それで、黙々と、食事を続ける二人だ。
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