2.4:To Russia - Epi31

* * *



 慌ただしかったのか、そうでないのか、もう、亜美はロシアのホテルに到着していた。


 今夜? ――深夜? 今朝? からステイする場所は、このホテルらしい。


 クインが亜美と同室で、一緒の部屋で寝ようが、もう、今の亜美には、その程度の些末な問題を問題だと考えないほどに、今の状況に慣れてきたのだろうか。


 兄の晃一がその事実を知ったのなら、爆発寸前で怒り狂っているだろうに……。


「まず、仮眠を取れ」

「仮眠って、どれくらい? 2~3時間? それとも、しっかり8時間は寝ていいの」


 すでに目が据わり始めている亜美は、つんけんどんな口調でそれを聞き返す。


 アンカレッジの国際空港に無事に到着した亜美は、クインと、その他の“組織”のメンバーらしき数人に連れられて、空港のラウンジにやって来ていた。


 でも、誰もいなかった。


 普通なら、空港のエアラインのラウンジでは、結構な数で飛行機待ちのお客がいるものだが、その場所には人っ子一人見られないほど閑散としていた。



 この場所は、“組織”の貸し切りですか?



 とは質問してみたいが、もう、その努力もやめた亜美だった。


 それから、一般のエアラインを使用して、ロシアへ飛び立っていく。疲れている亜美には、ビジネスクラスの席を用意されて、その行為だけは有難く感謝して受け取っていた。


 そのおかげで、少しは足を伸ばして寝ることができた。11時間ほどの空の旅では、二度の食事が出てくる。亜美が寝ている間に、デザートも出たらしいが、亜美は熟睡していたので、そのデザートを食べていない。


 食事が出てきて、睡眠の邪魔をされて、それで、ぼーっと半分寝かかって、また次の食事で睡眠が邪魔される。

 まあ、亜美の体内時計はめちゃくちゃな状態だ。


 でも、モスクワのSheremetyevo 国際空港(SVO)に到着すると、予想外に、亜美の入国手続きも、荷物の検査も、あまりにスムーズに終わってしまった。あまりに、スムーズ過ぎるほどに。


 これは、もしや、“組織”のコネか何かを使って、今回、ロシアへの入国は簡単になったのかもしれない。


 その時に、ふと、亜美も思い出したが、実は、亜美は旅行用ビザの申請だってしていない。

 ロシア行きが決まったのは、つい昨日(?)。うん、まあ、昨日と言うか、半日前くらいだ。

 それなのに、亜美は全く問題なくロシアに入国できてしまった。


 一応、その点だけは、“組織”のコネなのか、協力だったのかに、感謝する亜美だ。


 それで、空港を出ると、なんだか、今日この頃あまりに見慣れた光景になった真っ黒なSUVに乗った、真っ黒のジャケットを着た男が、亜美達を迎えに来ていたのだ。


 用意万全、用意万端、である。

 どこもかしこも、全部がお膳立てされているような状況で、もう、驚きはしない。


 ホテルに到着するのも、それほど時間はかからず、着いたホテルの場所も、結構良さそうな場所だった。

 部屋も悪くない。ツインルームだ。


 こういった、飛行機や、宿泊先、そんなのを諸々自分で準備していたら、きっと、ものすごい費用がかかったことだろう。


 兄の晃一が、“組織”という国際的な会社で、“エージェント”などというものをしているから、その身内で妹の亜美の我儘わがままだとしても、今の所、費用は全部“組織”持ちという形になっている。


 だから、兄の心配はしていても、その他の雑事も、必要な移動方法も心配しないで済んだ亜美だ。



(一応、ありがとう、ございます、って言っておくかなぁ……)



 亜美の移動は簡単なものだ。誰かが全部お膳立てして、用意してくれいるので、何一つ口を出す必要がない。


 文句をこぼしているクインを除いては、今の所、順調? ――とも言えなくはない……。まあ、災難な目には遭ってしまったが……。


「仮眠は3時間ほど」

「へええ、そうですか」


 部屋のバスルームも確認したい気分が半分。でも、仮眠が優先と言われてしまっている状況も半分。


 バスルームは、目が覚めたら確認することにして、亜美は今着ている洋服も着替えず、もそもそと、ベッドの中に潜り込んでいく。


「電気消してね」


 まだ、入り口側に立っているクインは、仕方なく、室内の電気を消してやった。

 暗がりが降り、入り口前の小さな蛍光ランプだけが灯されている。


 そして、ベッドに潜り込んだ亜美の気配から、亜美は眠りに落ちたようだった。


 テロリストを相手にしていると、国境も関係なくなってくるし、時間帯も全く関係なくなってくる。


 だから、エージェントとなる一員は、寝ない訓練をするのではなく、いつでも、どこでも、必要な時にすぐに眠れる訓練をする。


 30分の仮眠時間が与えられたのなら、その時間帯に、30分のパワーナップ(昼寝) をして、無駄な体力を使わず、体力を温存するのである。


 徹夜だろうが、その限られた時間に眠ることができなければ、エージェントとしても役には立たない。

 すぐに、エネルギー切れで、全く使い物にならないエージェントなど、必要ないからだ。


 だから、エージェントになる一員は、最初に目をつむって、すぐに眠れる訓練をする。


 その仮眠だけで、体力を温存し、次の何十時間の試練をくぐりぬけ、テロリストを攻撃し、撃退させるのだ。





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