2.2:Black in White - Epi24
あれだけの速さで、かなりの勢いだったから、そこら中の新雪を巻き込んで、
全身埋もれてしまっている亜美には、
息が苦しく鳴り始め、咄嗟に亜美の顔側に移していた手を動かしてみる。
全身が
鼻と口が息できるように、指だけで、必死に雪を掘ってみる。
少しだけ、丸い空間ができて、そこで、亜美は息をちょっとだけ吐き出していた。
「……いやだ、もう……。助けてよ……」
少し手を動かして、目の辺りでも小さな空間を作っても良かったが、視界全部が雪に覆われて、見ることもできない封鎖された場所で、その状況を目で確認してしまったのなら、亜美は更にパニックしてしまうことだろう。
パニックで、過呼吸なんてなってしまったら、それこそ最悪だ……。
「……お願い、早く、助けてよ……」
まだ、もう少しだけ、呼吸は可能だ。
この15分から30分が決め手だ。
頼みの
まさか、クインまでも、
クインはキャビンの室内に爆弾を仕掛け、電子レンジを使用し、爆発させる発火剤とした。
そこまでは、全く問題もなく、さっさと仕事が終わり、それはそれで良かったのだ――が、キャビンから離れ、爆発を見守っていたクインの前で、とんでもない事態が発生してしまった。
爆発の爆音と暴風の影響で、クインが潜んでいる向こう側の新雪の一角に切れ目が入り――その場で、大きな塊が崩れ落ちてしまったのだ。
「Shit――!」
速攻で、クインはその場を離れ、
「A15をトレース。現在位置と移動位置を記録しろっ」
風上に立って、後ろを振り返ったクインの視界の前では、広大な一角が音もないのに、波のように下方へ滑り落ちていく光景が目に入る。
咄嗟にゴーグルを持ち上げ、ものすごい速さで波打って流れ落ちていく
その片手には、赤いマークのシグナルが、携帯のスクリーンの上でチカチカと光っている。
現段階では、亜美を救うことはできない。
「くそっ――」
まさか、キャビンから遠く離れた場所に一人残してきた亜美に、
雪崩が静止すれさえすれば、クインはすぐに亜美を救出する為に、探しに行くことができる。
そんな状態では、救出するよりも先に、亜美は窒息死してしまっていることだろうから。
クインの顔には厳しいほどの苦渋が浮かんでいる。
なんとしてでも、亜美を救出しなければならない。一刻も早く――
バックパックに入っていた救難道具の一つ、小さな折り畳み式のショベルで、さっきからものすごい量の雪を掘っているクインは、黒い塊を見つけ、その場に
ショベルを捨てて、手袋を履いたままの手で、そこらの雪を掘り起こしていく。
クインの携帯でトレースさせておいた亜美の居場所では、この下辺りで、亜美が埋もれているはずなのだ。
お荷物で、素人の護衛任務という厄介な仕事を押し付けられたクインであっても、仕事に関しては絶対に手抜きはしない。
いつでも、どこでも、慎重で、最大限の注意を払う。
だから、亜美の居場所を確認できるように忍ばせておいたGPSは、バックパックに一つ。亜美の携帯電話に。そして、持たせた小型無線にも。
クインの携帯のスクリーンには、GPSから送られてくるシグナルの赤い点が映し出されている。
二つ固まっている点と、少し離れた場所に一つ。
だから、まず初めに、点が二つ固まっている場所を掘り出してみたのだ。
必死で雪をかき分けていくと、亜美の手袋が出てきた。それを見つけて、クインが更に周囲の雪を掘り上げていく。
亜美の片腕が上がった状態で、亜美はこの下に埋もれている。
真っ逆さまに埋もれている状態ではないのだ。それなら、生きている可能性が断然高くなってくる。
もっと掘り起こすと、亜美の頭らしき部分も見えてきた。
新雪だけあって、雪の量が半端ではない。それでも、まだ、雪崩が起きたばかりで、新雪が
顔の部分の雪を取り除き、屈み込んで、亜美の呼吸を確認してみると、微かにだがまだ息はある。
それでも、動きが細く、肌も冷たくなってしまっている。
雪崩が落ち着くまで10分ほど。その後すぐに、GPSを辿って亜美の居場所を絞ったおかげで、捜索には時間を取られていない。
亜美の頭を掘り起こしたのが、4分ほど。ギリギリである。
亜美を見つけた場所から半径1mほどの円形の穴を掘り上げ、新雪が崩れてきても亜美を掘り起こせるように、その場もショベルで安定させる。
その作業を続けて、更に10分ほど。
まだ膝位まで埋まっている亜美を抱き上げ、引っ張り出すと、亜美の全身が要約地上に現れた。
亜美のジャケットのジッパーを外すと、顔の横から小型無線機が転がり落ちてきた。
意識を失っているが、呼吸はある。心音もある。心拍数も落ちていない。
「賢い判断だ……」
突然の雪崩に驚いて、きっとパニックしていただろうに、救出した亜美は、木の真横に埋もれていた。
咄嗟であっても、あの場の状況判断で木にしがみついた亜美の機転に、そして、目印となるように、真っすぐ上に向かって手を上げたまま立っている姿勢を見て、クインも安堵を見せていた。
亜美の状況判断は間違っていない。
口うるさそうな少女を連れ歩いて、はた迷惑もいいところだったが、それでも、こんな非常事態で、亜美はサバイバルの為に、冷静な状況判断をしていたのだ。
「よくやった」
唇の色がなくなって、低温化現象が始まってもおかしくない。
この場では動くこともできないのなら、安全な場所の移動と、亜美の体を温めることが最優先事項だ。
まずは、その場を確保して、亜美の荷物の捜索はその次である。
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読んでいただき、ありがとうございます。
Tack för att du läste den här romanen
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