2.2:Black in White - Epi22

 クインは足を進め、キャビンの入り口にたどり着いていた。ドアはカギがかかっているのか、ドアノブを回しても、ドアは開かない。


 力技でドアを蹴破っても良かったのだが、スノージャケットを着込み、厚手のブーツでは動きが散漫になってしまう。


 この場合は、仕方がないが、お助けグッズに頼るしかないだろう。


 クインは背負っているバックパックを下ろし、中から小箱を取り上げた。手の平に収まるほどの、小さな箱だ。


 蓋を開けると、中にはチューイングガムの包みが並んでいるだけだった。

 その一つを取り上げ、クインは包み紙を外しもせずに、包み紙ごとガムを扉に張り付けるようにした。

 ドアノブ付近で、指に力を加えてガムを練り込んでいくのだ。


 それからすぐに、シュッーと、小さなガスが放射され、ボスっ――という音と共に、ドアノブが破壊されていた。

 速攻型、TNT小型爆弾チューインガムである。


 おかしなことに、AIの専門学者で亜美の兄である晃一が、(趣味で) 発明した組織のお役立ちグッズだ。


 クインの個人的な意見としては、あの男が作ったものは、極力触りたくはないのだったが、今回は、背に腹は代えられない。


 ドアが開いたので、クインはすぐにキャビンの中に身を潜めた。

 部屋の中は真っ暗だ。だが、微かにだけ、耳に届く機械音。たぶん、ジェネレーターかなにかで、このキャビン内の電気を供給している音ではないだろうか。


 バックパックを床に下ろし、またも、クインはバッグの中から何かを取り出した。

 プラスチックの小さなスキャナーのようで、それを携帯電話に取り付けると、即席、スキャナーの完成である。


 赤外線のような赤いレーザーを放射し、簡単に部屋内の光線が届く範囲をスキャンしてみる。結果は、特別、異常な報告もなければ、問題もない。


 対侵入者防止に、何か特殊な仕掛けでもしてあるのかと思いきや、そうでもないらしい。


 人里離れ、民家も置けないこんな山奥で、ほぼ、未開の土地である山麗地帯。上空からの移動でなければ、移動もほぼ不可能に近い場所で、まさか、キャビンを建てている大バカ者がいるなど、誰も思わないだろう。


 だから、テロリストだって、侵入不可能で、厳重な警戒態勢を敷く必要性を感じなかったはずだ。


 地下に続く入り口も、簡単に見つけることができた。階段を下りていく場所も、その先も、特別な仕掛けや防犯装置が設置されている気配がなかった。


 防犯カメラも置いていない。

 携帯電話に取り付けたスキャナーの反応は、ほぼ、正常で止まったままだ。


 それなら、クインの仕事も簡単になってくる。


 暗い地下室を調べてみても、証拠品となるようなコンピューターやマップのようなものはなかった。

 隅にある机の上には、何個か封筒が置いてあるようだった。


 なぜ、この時代で手紙? 封筒?


 おまけに、こんな交通手段もなく、行進手段も限られている場所なのに。それなら、むしろ、サテライトなどのネットワークを使用できるようにして、電子通信でコミュニケーションを取るはずだろう。


 不思議に思い、クインに取り上げてみた。封が切られていたので、中の書類なのか、手紙もすぐに取り出すことができた。


 だが、出てきた書類の字は、読むことができない。

 仕方がないので、携帯電話で書類の写メを取り、翻訳を頼む。

 数分もしないで、すぐに、その結果が送られてきた。


「Call Control」


 口頭の指令で、携帯電話の画面が光る。


「コントロール」


 ワンコールもしないで、相手が電話に出てきた。


「テロリストの拠点で発見した手紙の解析は?」


 無言だ。だが、電話の向こうで、クインが指示した情報でもチェックしているのだろう。

 すぐに、無機質で、機微の欠片もないコントロールの声が聞こえてくる。


「ソロヴィノフ? どこかで聞いた名前だ」


「ラディミル・ソロヴィノフ。国籍、出身、ロシア。現在32歳。性別、男。登録されているビジネスは、国際貿易、及び、オイルタンカーの保有・運航の海運事業です。近年の公表された個人総資産額、アメリカドルで約1.5億ドル(約134億円)」


 そんな一般的な情報を知りたいのではない。


「それで?」

「ラディミル・ソロヴィノフは、現在、カリサット財団のチーフ・オペレーターを兼任」

「それは?」


「カリサット財団は、過去十年内でテロリスト団体と認識されている団体の一つで、現在56番に登録されています」


 組織が管理するテロリスト情報やリストの中で、30番台以降は、小型・中型の組織や団体に分類される。


 個々の団体でテロリスト行為を先導・率先したり、突発的に出現したテロリスト行為を起こす暴力団体などもある。


 50番台なら、小型のテロリスト団体で、そこのオペレーターをしているのなら、テロリスト活動の資金繰りや、人脈管理などの仕事をしているはずだ。


 それが、なぜ、こんな人里離れたアラスカの山のど真ん中で、秘密のキャビンなど建設したというのだろうか。


 アメリカ・ソヴィエトの冷戦状態でもあるまいし、アラスカなどにテロの拠点を設置しようが、あまりに僻地過ぎて、テロ活動どころではないだろう。


 おまけに、長い冬が始まれば、移動とて不可能で、とてもではないが役に立つような場所でもない。

 少々、納得がいかないものではあるが、一応、クインはテロリストの拠点の一つを確認できたのだ。


「他には?」

「二日後、ロシアの首都、キエフにて開かれるチャリティーパーティーに出席する旨が書かれています」

「チャリティーパーティー? まさか、その為にサトウをロシアまで連れて行った、なんてことはないだろうな」


 それはクインの独り言だったのかもしれないが、電話の向こうのコントロールからは一切の返答もない。


「指示は」

「テロリスト拠点を破壊せよ、との使命です」

「それだけか」

「他の秘匿情報の入手は可能ですか」

「Nil」


 それなら、さっさとその場を破壊せよ、と暗黙の命令だけが返される。


 クインは嫌そうに溜息をこぼしながら、このキャビンの大きさを爆発するには、何を使用するか、どれだけの大きさにするか、素早く頭の中で計算を済ます。


 辺りは人里一人いない、完全に隔離された雪山地帯。完全破壊で、跡形もなくキャビンを消し去っても、全く問題は見られない。


 テロリスト共が戻って来たその場で、キャビンが完全に消滅しているのを知ったのなら、どんな顔をするのか見てみたいものだ。





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読んでいただき、ありがとうございます。

இந்த நாவலை படித்தமைக்கு நன்றி

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