2.1:To Alaska - Epi17

 クインが嫌がっても、答えが返ってこなくても、亜美は勝手に一人で質問し続けていればいいのだろうか。


 でも、そんな空しい行為をし続けていても、更にストレスが溜まるだけである。


 モグモグと、冷たくなったサンドイッチを飲み込み、冷たいジュースで一気に流し込む。

 おいしいのかどうか判らないが、お腹には一応の食事が入った。今は、それでいい。


 そして、外に出ると、今朝、モーテルに送り届けてきた男とは違った男が待機していて、またも、真っ黒な4WDが部屋の真ん前に停まっている。


 なんなのかしら、テロリストと戦っているというこの“組織”って?


 パスポート一つで身軽に飛び回って、ジャケットは用意されている、車の送迎は完璧、食事は勝手に出てきて、クインの荷物まで支給されている。


 今朝のクインは、亜美とは違っているが、それでも、大きなバックパックを背負っていた。

 もちろん、なぜかは知らないが、真っ黒なバックパックである。


 黒づくめの“組織”?

 ヤクザじゃあるまいし?


 でも、ギャングとか、そういうシンジケート団とか組織って、なぜか、黒のスーツを着込むから、この“組織”も黒集団?


 もしかしなくても、亜美の質問は増え続けるだけだから、今からしっかりと携帯にでもメモしておくべきだろうか。それで、リストを作って、後から、兄の晃一に質問攻めをするなど?


 次に連れてこられた場所は、駅だった。


 切符も買わずに、切符が用意されていて、亜美達はただ列車に乗り込むだけ。

 アラスカ列車の一つ、デナリ・スター列車にと。


 もう、ここまで来ると、便利だとか、用意周到とかの次元じゃなかった。


「変なのね、あなたの働いている会社って」

「別に」


 まさか、これが普通だ、とでも言いたいのか。


 テロリストなんて、非道・非情極まりない悪党などと戦っているから、その他の社員サービスと待遇がいいのかもしれない。


 うん、きっと、そういう理由だろう。


 クインが全く説明をしてくれないから、亜美は列車に乗り込んでから、自分の携帯電話で、情報収集をしていた。


 アラスカ州の説明や、マップの確認や、今乗っている列車の時刻表やルートの確認などなど。


 〇ーグルマップでの現在位置から、一応、自分の居場所も確認して、列車が通る付近の山の場所も確認してみる。


 そういった準備と努力は良かったのだが、亜美の誤算と、考えが甘かったのが――周囲には山だらけ……という事実だ。


 アラスカ山脈に囲まれていて、そのど真ん中を行くのだから、山がたくさんあっても不思議はない。


 それで、どの山に行くのか、その当ても絞ることは不可能なので、そこで、亜美はそれ以上の情報収集を諦めていた。


「セスナ、って……まさか、あなたが運転するの?」

「違う」


「じゃあ、誰か違う人? ――会社から派遣された人?」

「そう」

「ああ、そう」


 全てが全て、“用意万端”の会社らしいから。


「そこから……山の中、に行くの?」

「そう」


 どうやら、亜美の憶測は間違っていなかったらしい。


「雪があるのに、大丈夫なの? 吹雪、になるとかさ……」


 隣に座っているクインが、少しだけ窓の方に視線を向けた。


「一応、予報では、それほど天候が荒れることはないと聞いているが」

「そう……。それなら、いいんだけど……」


 さすがに、観光客があふれるスキー場などの山とは違い、ここら一体にそびえている山々は、大自然の魅力溢れるワイルドライフだ。


 下手に、山道などに入ったものなら、雪におおわれて道に迷う可能性だって大だろう。遭難……なんて、悲惨な目に遭うかもしれない。


 雪がひどく振って吹雪にでもなったら、セスナでなんて、空は飛べなくなる。


 この広大な大地を見る限りでも、悪天候に影響されて大自然に飲み込まれてしまうのは、人間の方だ。

 おまけに、大自然溢れる山麗地帯や森に湖、まさに、“ワイルドライフのアニマルようこそ!”の世界のはずだ。


 熊に、巨大なアメリカ大鹿、トナカイ(Caribou)、オオカミだって未だに健在らしい。熊は冬眠しているだろうから、今は除外できるかもしれないが、それだって、突然、大型の動物に遭遇してしまい、向こうが驚いて逃げてくれるのならまだしも、逆に襲い掛かって来てしまったのなら……?


 最悪のケースを考えすぎてしまう……。


 やっぱり、どう考えたって、亜美の方だって、さすがに、慎重になってきてしまう。


「どこで降車するの?」

「デナリ・パーク(Denali Park)」


 珍しく、亜美の質問に答えが返ってきた。


 早速、自分の携帯電話を取り出し、セーブしておいたアラスカマップで、場所を確認してみる。

 観光地としても有名な場所だが――だが……、やはり、大自然に囲まれた山々が連なっている。


 セスナで飛ぶくらいだから、きっと……町からかなり遠く離れた場所になるのは間違いない。

 悲鳴を上げただけで、誰かが助けにきてくれる……なんてことは、絶対にあり得ないだろう。


「そこから、車で移動なんでしょう? そして、セスナでしょう?」

「そう」

「そう、しか言えないのね。たったの一語じゃない」


 亜美の皮肉にも、無言が返されただけだった。





~・~・~・~・~・~・~・~・

読んでいただき、ありがとうございます。

ነዛ ልቢ ወለድ እዚኣ ስለ ዘንበብኩምላ አመስግነኩም

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