2.1:To Alaska - Epi15

* * *



 亜美達が乗ったシカゴからアラスカ行きの飛行機は、シアトルで一時トランジットを余儀なくされ、そこからアラスカ行きの次の飛行機に乗り換えである。


 そして、計9時間近くも飛行機に乗っているのに、同日、夜遅く(ほぼ深夜) に、亜美はアラスカ州アンカレッジ(Anchorage)に到着した。


 初めて来るアラスカ州に到着した感動やら、興奮やら、そんな浮かれた気分になれなくて、かなり残念な亜美は、ほとんど無言だけを継続しているクインの後について、パタパタと廊下を走っていた。


 クインと言えば、シカゴの空港でもそうだったが、自分の足の速さを全く止めず、止める気配も気もなく、亜美が後ろからついてこようがこまいが、さっさと自分一人だけで直進していく、なんとも腹の立つ男だ。


 亜美は、バックパッカーズがよく背負っている大きなバックパックを持って(かついで) きたので、その荷物を回収に、ラゲージエリアで荷物待ちである。


 その間、クインは亜美の後ろに立っているだけで、話しかけてくる様子もない。亜美を監視しているだけで、一切、クイン自身から話しかけてくることはなかった。


 アラスカに到着した時間は深夜を過ぎている時間でも、シカゴの時間ではすでに朝方の3時ほどである。


 機内では、一応、睡眠をとってみたが、それでも、時間外に起きて行動しなければならないだけに、寝不足なのか、寝起きで頭が疲れているのか、そのどちらとも言えない亜美だった。


「今は夜中だけど、これからどこに行くの?」


 そして、亜美の質問には無言だけが返される。

 この態度、どうにかならないものか。腹が立つ!


「ねえ、無視し続けるのは構わないけど、自分一人だけが目的場所を知ってるからって、私が行き場所を知らなくて準備ができなければ、寝たり起きたりで、行動が鈍くなるじゃない。遅くなったりしても、無駄でしょう?」


 プンプンと、腹を立ててはいても、仕方なく、亜美は自分の怒りを発散していない。八つ当たりをしても、状況と問題解決にはならないから。


「ねえ、いい加減、その態度、改めたら? 護衛している人間を無闇矢鱈むやみやたらにあちこち連れ回しても、疲労させるだけで、ただ問題になるだけじゃない。予定を知っていたら、心構えもできるし、そういう準備だってできるじゃない。まさか――とは思うけど、私を疲労させるのが目的なんじゃないでしょうね」


 素人の亜美を連れ歩く羽目になったクインだけに、目的地に到着する前に、亜美を疲れさせて、役に立たなくしようだなんて……まさか、このクインは考えているのだろうか。


 くいっと、クインが首だけを後ろに回し、亜美をギロリと睨みつけた。ロボットでもあるまいに、くいっと、その音が簡単に想像できるほど正確に、首だけを回す芸当をする、クインもクインだろう。


「迎えが来る」

「迎え?」


「そう。それから、仮眠。朝に移動」

「朝って、一体、いつ起きればいいの?」


 それを聞かれて、クインが自分の腕時計に視線を落とした。


「3時間程。それから朝食で、次に列車。車。セスナ」


 全く説明になっていない予定だけを羅列して、クインはそれで終わりである。


 役に立つ情報なのかそうでないのか、亜美も閉口ものだ。


「セスナ……? ――っていうことは、車で運転できない場所か、歩いていける場所じゃないのね……」

「そう」

「そう……」


 まあ、テロリストらしき悪党がいる場所が、人込みの多い街中にいるのは不向きだろう。


 そうなると、人里離れた田舎か――果ては、アラスカなのだから、山の中……という現実が差し迫ってくる。


 なにしろ、アラスカと言えば、広大な大自然に恵まれた山麗地で有名だ。山がたくさん連なり、湖と川がたくさんある。


 真冬のアラスカ山脈の観光もできたら、どんなに素晴らしいことだろうか……。


 壮大な山脈を見渡し、大自然が広がる広大な大地に景色。雪が積もっているのなら、辺り一面が白銀と化し、それは、さぞ美しい景色が見られることだろうに。


 だが、今の亜美の目的は、自然観光をエンジョイすることではない。残念なことながら……。


 その簡潔な会話をしている間、パーキングを過ぎ去っていき、道路のコーナー付近で、4WDの黒い大きな車が停まっていた。その横に立っている一人の男。


 真っ黒で襟がしっかりとあるフード付きの長いジャケットを着込み、ただ、無言で亜美達の方を観察している。


 クインの視線がチラッとその男に向けられたが、特に警戒する様子も見せず、クインは真っすぐ車の前に向かう。


「ジャケットは後部座席に」

「それは、どうも」


 その短いやり取りだけで、他の会話もなし。説明もなし。


 クインは後部座席のドアを開けて、中からジャケットを取り出した。車の横で待っていたような男が着ているジャケットと同じ、真っ黒なジャケットだ。


 まさか、お揃い?


 なんて、そんな考えが、亜美の頭にも浮かんでくる。それとも、テロリストと戦う会社――“組織”からの支給品?


 聞きたいことも、質問したいこともたくさんある亜美なのに、新たに表れた男も、クインも、絶対に亜美の質問に答えてくれることなんてないな、とすでにその事実は亜美もはっきりと認識している。





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読んでいただき、ありがとうございます。

Bu romanı okuduğunuz için teşekkür ederiz

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