2.1:To Alaska - Epi14
運悪く、クインが晃一と同じシカゴに在住しているから、こんな
本部から連絡が来ても、勉強が忙しい、と無視をしておけば良かったなどと、今更ながら後悔しても、時すでに遅し。
それで、クインは素人の亜美を連れて、アラスカまで飛ぶ羽目になったのである。
「あなたもエージェントなの?」
「一応は」
「じゃあ――テロリストとか、撃退したりするの?」
「任務が回ってくれば」
亜美はそこまでの話を聞きながら、多少の理解はしたような、それでも、まだまだ謎なことがたくさんあるような、そんな気分ではあった。
それで、隣にいるクインを見やりながら、亜美もほんの少しだけ眉間を寄せていた。
このクインは、どう見ても、まだ若そうな青年であるのに、テロリスト相手に戦っているような兵士――というか、エージェントというような仕事をしているのである。
「ねえ、いくつなの?」
「それが?」
「ただの質問じゃない。まだ、若そうに見えるのに。それに、あの電話の相手だって、あなたのことは21歳だって、言ってたのに、エージェント――みたいな仕事してるの?」
「そう」
「そう――れって、怖くない?」
「さあ」
さっきから、クインの返答は、ただの相槌か、一言、二言程度の返事である。
亜美の質問に答える気もなく、いかにも面倒臭そうに、口をパクパクさせているような感じだ。
そこまで、亜美のことをあからさまに嫌がって、嫌味な態度を取らなくてもいいだろうに、最初から、随分な性格の悪さである。
「アラスカに、何があったの?」
このクインを相手にしていたら、個人的な質問は喋る気がないし、兄の晃一のことを尋ねても、知ってる極一部分しか話してくれない。
亜美の質問には態度が悪いし、拉致があかないので、亜美は質問の方向を変えてみた。
これから先、亜美を待ち受けている状況――なのか、現場なのか、一体、亜美はどんな心構えをすればいいのかも、全然、知らないままだ。
「テロリストを相手にする、って言うなら、テロリストがいたの? アラスカに? あんな――寒そうな土地で、何してるのかしらね。寒過ぎて、テロリスト活動ができるような土地柄でもなさそうじゃない」
隣からは、全くの無反応と無言だけが返されるだけだ。
「ねえ、無視し続けるのもいいけど、私はアラスカに行くのよ。そのお
うるさい割に、痛いところを突いてきて、クインは嫌そうに眉間をしかめたままだ。
「あんたは俺の言うことに従って、動くな、と言われたら、絶対に動くんじゃない」
そんな頭ごなしの命令に、亜美も不満気味だ。
「これは遊びじゃないんだ」
「テロリストがいるの?」
「確認中だ」
「じゃあ、いないのね。でも、お兄ちゃんが……行方不明になったから、いる可能性が高いんだ。――そうなんでしょう?」
口うるさい割には、亜美は勘が働く少女だった。
“組織”に属する本部のコントロールを口だけで丸め込もうが、その程度で丸め込まれるようなコントロールのスタッフではない。
だが、何度も、亜美が鋭い点を突いてきて、本部の上層部側も頭を抱えていたのは、隠しようもない事実だ。
亜美は事情も状況も判らないくせに、知らされる情報で、精一杯の理解をしようとしているのか、そこから憶測を立てようとしているのか、素人にしては、素人離れした考えが、すぐに上がってくるような感じだった。
「可能性は高い。だから、動くな、と言われたら、絶対に動くんじゃない。俺はあんたのお守りをさせられるが、一般人の安全を守る為に、言うことを聞かないバカを護衛するだけ、俺の命が削られる」
「――わかったわよ」
「アラスカに連れて行くからと言って、好き勝手な行動はするな。俺の指示に従い、絶対に、一人でも行動するな」
「わかったわよ。――クインは、テロリストをやっつけに行くの?」
「今の所、俺の任務は、あんたをアラスカに連れて行くことだけだ。テロリストの確認は、指示されていない」
「じゃあ、もし、お兄ちゃんを探す過程で――そんな状況になった場合は?」
「その時は、その時だ」
「じゃあ――」
「どんな状況になろうが、あんたがテロリストの巣に忍び込む、なんてことはない。身勝手に動くな、と言ったら、大人しく待っていろ」
「わかったわよ」
亜美の知りたい質問を全部答えてくれたわけではなく、頭ごなしに命令だけを押し付けていって腹が立つ。
それでも、今の亜美には、本当に、クイン以外には、兄の晃一探しの手がかりも、手助けもない状況なのだ。
「動かなけりゃいいんでしょう? 動くな、って言うなら、動かないわよ。心配しなくても、その程度は理解できるから」
「それを頭に叩き込んでおくんだな。これは遊びじゃない。些細なミス一つで、あんたの命なんか、簡単に消え去ることだってある」
「わかった、って言ったじゃない。遊びじゃないんでしょう? それは――理解したわ。何度も繰り返さなくても、わかったんだから」
まだ、疑わしそうに、全く亜美の言葉を信用していなさそうに、クインは冷たい目を向けていた。だが、微かに口を尖らせている亜美に、それ以上言っても無駄なので、クインはそこで説教をやめていた。
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読んでいただき、ありがとうございます。
Bu romanı okuduğunuz için teşekkür ederiz
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