Part 2.1:To Alaska

2.1:To Alaska - Epi13

 大急ぎで、大慌てで、ありとあらゆる、そして、考える全ての必需品を、亜美は大きなバッグパックに一気に詰め込んで、約束通り、15分以内で支度を終えていた。


 まさか、その15分の間にトンズラするんじゃないよね……との必死に心配している亜美の心境など、クインはつゆ知らず(最早、我関せず状態)。


 急ぎ、支度を整え終えて居間に戻って来た亜美が、まだその場に立っていたクインを見て、どれほど安堵して肩を落としていたかなど、この機嫌の悪いクインになど、到底、判りもしないだろう。


 あからさまに嫌そうに、おまけに、剣呑に、居間に戻ってきた亜美を睨み付けているだけだ。


 それで、亜美の荷物がどうの、多すぎるがどうのとも、なんの一言もなく、



「行くぞ」



 ただそれだけの一言である。


 無愛想で、全く嫌になってくるが、最後の頼みづなとなりつつあるクインに文句を言うこともできず、亜美は、さっさと居間から出て行ってしまったクインの後を追っていた。


 それから、どこに行くのかと思いきや、やはり、行き先は国際空港で、クインの荷物は一つもなく、カウンターでチェックインを済ませて、亜美はクインと共に飛行機に乗り込んでいた。


 飛行機が問題なく、時間通りに離陸して、ビジネスクラスの一角の席で一息ついた頃、亜美は隣に座っているクインに向いていた。


「ねえ、なんで、何にも荷物がないの?」

「別に」


「別に、って何で? アラスカに行くのに、防寒用具もなければ、他の荷物もなんにもなし。どうして?」


 必要以外の余計なことには、一切、喋る気がないクインの様子がありありで、だからと言って、その程度の嫌がらせで諦めるような、腑抜ふぬけな亜美ではないのだ。


「ねえね、どうして?」


 全くへこたれず、クインを見ながら、質問の答えが返ってくるまで質問し続けていそうな気配に、クインの眉間が更に嫌そうに揺れる。


「うるさいと思ってるなら、そんな簡単な質問くらい、答えてくれたっていいじゃない。別に、企業秘密、っていうんでもないんでしょう? なんで?」


「支給されるからだ」

「誰に? ――その、よく判らない、会社に?」


 そこで、亜美はもう一つの重要な点に気がついて、この質問だけは、どうしてもしておかなければならないことを思い出していた。


「あなた――達、何者? なんで、お兄ちゃんが、あなた達――のインターナショナルの会社に働いているの?」


「それは、兄貴に聞け」

「でも、ここにいないじゃない。どうして、お兄ちゃんが行方不明だって、判ったの? いつ?」


 その質問の部分になると、亜美も必死である。

 ガシッと、咄嗟にクインの袖を掴んで、真剣そのものだ。


 クインは嫌そうにその亜美の手を見下ろすが、それで、引き下がる亜美ではない。


「どうして、お兄ちゃんがいなくなった――って、通報が入ったの? ねえ、どうして……? ――お兄ちゃんから、連絡が、あったの……?」


 言葉の端々はしばしがほんの少しだけ震え、真剣そのものの眼差しで、亜美は、まだ、クインにしがみついたままだ。


 クインはそれを目線だけで嫌そうに見下ろしながら、溜息ためいきをついていた。


「連絡はない」

「だったら……どうして?」」


 ちらっと、亜美を横目で見たクインは、また、溜息ためいきを吐き出していた。


 もう、どうでもいい――だったのか、どうにでもなれ――だったのか、そんなジェスチャーだった。


「あんた、何も知らないんだな」


「知らないわよ。お兄ちゃんが――隠してたなら、知らないわ……。別に、お兄ちゃんがどんなことをしていようが、お兄ちゃんはお兄ちゃんだし、お兄ちゃんが大好きな事実は変わらないのに……」


 そこで、恥ずかしげもなく大宣言するところが、クインには理解できない行動である。


「“組織”は、対テロリストを目的とし、テロリスト活動及び、その危険性を排除、撃退することを使命に運営されている」

「組織? ――インターナショナル、の組織? 秘密結社、とか?」


「別に。知ってるやつは、“組織”の存在も知っている」

「それに――お兄ちゃんが?」


「コウイチ・サトウは、“組織”のエージェントの一人だ」

「テロリスト――を排除、する為に?」


 あまりにぶっ飛んだ話になって、なんだか、亜美もついていけない話の方向だ。


 ショックで驚いている亜美を横目に、クインはただ淡々と次を話していく。


「“組織”に加入しているエージェントは、その時々により、“組織”内から指令が渡される」


 その任務を遂行するOpでは、定期連絡として、ある一定期間内に、エージェントは連絡を入れなければならない。


 『報告』 でも同じことだ。


 連絡が届かなければ、それから、『行方知らず』 という警告が出される。


「コウイチ・サトウは、その定期連絡内の時間を過ぎても、連絡をしていない。そして、連絡が途切れたままだ」


 こくっ……と、亜美が乾ききったつばを飲み込んでいた。


 兄の晃一がいなくなって、何かひどいことが起きたのかもしれない……と心配していたが、それ以上の状況の悪さが浮かび上がってきてしまった。


 自分の心配を必死に堪えている亜美の神経でも、兄の晃一の安全がどうなったのか……と考えるだけでも、目眩めまいがしてきそうだった。


「今の状態では、コウイチ・サトウは、『行方不明』 という警告になっている。それで、俺があんたを保護するのに飛ばされた」


「――どうして、あなたが?」

「同じ地区だったから」


 偶然にも、行方が判らないエージェントと同地区に登録されているエージェントがいることが判り、“組織”の本部から、クインに亜美を回収するように――との命令が下ったのだ。





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読んでいただき、ありがとうございます。

Bu romany okanyňyz üçin sagboluň

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