1.4:Terrorist? - Epi12
「テロリスト――に見つけられるのも、困るんでしょう?」
亜美が
「それとも、お兄ちゃんが科学者だから、誘拐されたの? どっちにしても、私を囮にされたら、悪事を強要されても、お兄ちゃんは選択肢が残されてないかも」
電話の相手は、今から亜美が口に出す、
「あなた達は知らないだろうけど、お兄ちゃんは、何があっても、私を見捨てないの。地球が滅びようが、絶対に、私を助けてくれるんだから」
あたかもそれが事実だと信じ込んで、そんなくだらないことをはっきりと言い切った亜美に、クインは冷たい顔を向けるだけだ。
だが、クインの知らない情報で、上層部が頭を悩めている
亜美も知らされていないだろうが、亜美が、今、口にした問題は、本当に事実なのである。
亜美の兄の晃一が“組織”に加入してきた時に、上層部の面々の前で、それを大威張りで豪語してきた男なのだから。
その事実を身を
亜美の兄である晃一は、世界でも著名な科学者の一人だ。“組織”に属する科学者、でもある。
その科学者である頭脳を利用されて、テロリストに貢献されでもしたら、それこそ、一大事でもあるのだ。
なんだか、その場に集まっていた上層分の面々も、はあ……と、疲れ切ったような
「コウイチ・サトウの行方を捜そうが、無駄に終わるかも知れないですよ」
「それは私が判断することで、あなた達が決めることじゃないわ。ねえ、長話も無駄だし、私の説得もただの無駄だから、そういうの、やめようよ。時間の無駄だもん。その間に――刻々と、お兄ちゃんの命が削られてるかもしれないもの……」
それを考えるだけでも、亜美の身が引き裂かれるような苦痛だった。
「次の誰かを今すぐ派遣する? でも、その間に私は消えてるから。電話を切って欲しくなかったら、10数えるうちに、どうにかしてね」
もう、これは脅しでもなんでもなく、亜美が決定している次の行動なのだ。
それを本気だと受け止めないもよし。無視するもよし。それはあっちの勝手だ。
だが、亜美は、もう、待ってなどいられないのである。
「――冗談だろっ!」
電話を聞いているクインが、嫌そうに思いっきり顔をしかめる。
亜美はその様子を見ているが、だが、手を抜く気は一切ない。
「あと5秒だよ」
「わかっていますよ。今は、マッケンジーに指示を出していたもので」
亜美がカウントダウンする前に、また、電話口にオペレーターが戻ってきた。
「一般人が一人で行動するのは、避けなければなりません。狙われるかもしれない可能性を残しておくのは、リスクが高すぎる。それは判りますね」
「判るけど、今の状況では、それを聞くか聞かないかは、どうだろうね」
「マッケンジーを護衛につけます。それは譲歩できません」
「それで、いいよ」
文句が返ってくるものばかり思っていたのに、あっさりと亜美に同意されて、オペレーターの方も、亜美の言葉に裏がないのかどうか、慎重になってしまう。
「お兄ちゃんはどこ?」
「最後に確認された居場所は、アラスカです。指示は、マッケンジーに促すように」
「そう。じゃあ、丸焼きにしないであげる。でも、この人が約束を破った場合は、どうするの? 私を一緒に連れ出すような素振りをみせて、そこで気絶させるとか?」
「それはありえますね」
「じゃあ、この話は
「マッケンジー、今、聞いた通りだ。指令違反は許されない」
今まで、亜美と喋る時には、必ずクインの会話を切っていたのに、今はわざと亜美に聞かせるように、亜美とクインの両方に、オペレーターが話していた。
「指令違反をすると、どんなバツになるの?」
「それは企業秘密です」
「でも、それを信用すれって言ってるの? 私は刑罰の重さも知らないし、適当に誤魔化されたって、大した刑罰じゃなかったら、また話が振り出しに戻っちゃうわ」
「それは、あなた次第でしょう。信用しないのなら、それはそれで良し。あなたの要望は聞き入れられた。それを信用するかしないのかも、あなた次第だ」
いつまでも言葉遊びをやっているつもりはない、との暗黙な脅しも、亜美はちゃんと聞いていた。
「そう。じゃあ――この人に連れ出してもらうから」
亜美はそこで電話を切っていた。
亜美の視界の真ん前で、青年は、これ以上ないほどに渋面を見せて、おまけに、亜美を睨み付けているようにも見えないではない。
「私を気絶させるようなことはしないでね。なにも、スイッチは一つだけじゃないんだから」
あっさりとクインに脅しをかけてきて、いつでも焼き殺せるのだから――などと、
それで、更に、クインの顔が嫌そうにしかめられていく。
「15分やる。それで、準備を済ませるんだな」
「あら、ありがとう。じゃあ、待っててくれる間、冷蔵庫にジュースでもあるから、どうぞ好き勝手にして。忙しいから、お客様の相手もできないし」
ふざけるなよっ――と、ギリッと歯軋りしたクインの冷たい、今にも亜美を絞め殺しかねない殺意を感じても、亜美はさっさとそれを無視して、ソファーから立ち上がっていた。
「タイマーだって、設置したかったらしていいわよ。15分。きっかり、時間通りだから」
それをきっぱりと断言して、亜美が居間から立ち去っていた。
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読んでいただき、ありがとうございます。
Bu romany okanyňyz üçin sagboluň
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