Part 1.4:Terrorist?

1.4:Terrorist? - Epi11

「お兄ちゃんの居場所を教えて? そこに、私が行くから」

「あなたが現地におもむいても、できることはほとんどないでしょう」

「それも、私が判断するから、一々、指摘しないでいいよ。あなた達の判断じゃないから」


 勝手にそれを言い返されて、オペレーターの方も溜息ためいきものである。


 亜美は頑固なうえに、絶対に、を曲げない性格のようである。


「一般人を巻き込むことは、好ましくないので」


「一般人? じゃあ、じゃないのって、この場合、何て呼ぶの? そのじゃないヤツに、お兄ちゃんが捕まったの? だから、私を保護するってこと? そのじゃない奴――ら? ――が危ないから?」


 説明したことをそのまま言い返してきて、おまけに、その言葉の意味の裏まで勝手に憶測してくる亜美に、電話のオペレーターの青年も、顔を少ししかめてしまう。


 オペレーターと亜美の会話を聞いている上層部の面々も、渋い顔をしている。


「テロリスト」


 亜美には近寄らず、亜美に言いつけられた見えない境界線の向こうで、『クイン』 と名乗った青年が、淡々とその一言を言った。


「テロリスト? お兄ちゃんが? ――テロリストが、お兄ちゃんを誘拐したっていうの?」


 あまりに信じられない話なので、亜美も疑わしそうに、それを一気に聞き返していた。


 クインが余計なことを口にしたので、オペレーターも、電話の向こうで言い顔はしない。


 何かの振動音がして、亜美の目の前で、サッと、クインが着ているジャケットの内ポケットから、自分の携帯電話を取り上げた。


 電話を耳に持っていくが、クインは何かを喋り出すのではない。


「黙るのはそっちの方だ。いい加減、この状況を把握してもらいたいのは、こっちの方だ。目的のアミ・サトウの抵抗により、多大な被害を受けているのは、俺の方なんだからな」


「なに? そっちのオニイサンにも電話してるの? だったら、3人でグループ会話ができるわね。どうせ、私の声だって、電話からも聞こえてるんでしょう?」


 慎重にクインを見返しながら、亜美は電話のオペレーターに皮肉を言う。


「ほら? そこのオニイサン、現状を説明してあげたら? 私が駄洒落だじゃれでも、冗談を言ってるんでもないって、説明してあげてよ」


 亜美に言われたから、クインが言うことを聞くのではないが、それでも、クインだって、いい加減、傍迷惑はためいわくな仕事を押し付けられて、我慢の限界なのである。


「俺の目の前には、1万ボルトの特別高圧電流が流れている。一歩、境界線を越えるだけで、俺は丸コゲだ。なにが、妹を保護し安全を確保しろ――だ。水鉄砲だけなら、まだかわいいものだが、たかが、一般人を保護するのに、高圧電流で丸コゲになるような仕事は受けたつもりはない。文句があるなら、違うヤツを派遣するんだな」


 あからさまに剣呑けんのんに吐き捨てるクインの文句を聞きながら、オペレーター側も、一瞬、シーンと沈黙が下りていた。


 まさか、特別高圧電流の罠まで張り巡らせていたなど、上層部だって考えもしなかったのである。


「そういうことよ。私を甘く見ない方がいいんじゃない? 仮にも、お兄ちゃんの妹が、なんにも知らずに、ただ大人しく見知らぬ人間についていくとでも思ったの? 悪党なんて、どこにでもいるのよ。見知らぬ男とは口をきかない。決してついていなかない」


 もう、何度も何度も、耳が痛くなるほどに、あの大好きな兄が亜美に教え込んだ教訓だ(すでに、ドグマに近い……)。


「そんなの、常識でしょう? 私が――目の前のオニイサンを殺すことになっても、この場合、家に勝手に忍び込んで、押し入ってきたそこのオニイサンの過失だろうから、正当防衛になるわよね。どうするの? 私を気絶させて捕まえろ、って命令しないの?」


 目の前にいる亜美の声は、クインにだって聞こえているし、わざわざ、電話越しから聞く必要もないのだったが、クインはまだ電話を自分の耳に当てている。


「お兄ちゃんがいなくなったのは、どこ? どこで、連絡ができなくなったの?」


 だが、返事は返ってこない。


 それでひるむようなら、亜美だって、初めから、こんな大それた罠など仕掛けはしない。


「じゃあ、送りつけたきたオニイサンは丸コゲのようね。それに――いつまでも、私がお兄ちゃんの居場所を知らない、掴めないままだと思ったら大間違いよ。入るなよ、とは止められているけど、お兄ちゃんの研究室は、一つじゃないんだから。そこに忍び込むのが必要なら、私はするからね。それで、お兄ちゃんの居場所を突き止めるわ。ここのオニイサンが丸こげで、その間に、私のようなに、勝手に一人で動き回られたら、困るんじゃないの?」


 亜美の兄は、若いながらも、世界でも著名な科学者だ。兄の研究室がいくらかあるのは周知の事実だが、だからと言って、そこに亜美が忍び込んだとしても、兄の晃一の居場所を突き止めることができるとは限らない。


 兄自身が探知機でもつけているならまだしも、そんなもの、兄が常備しているとは思えないし、足取り――このクインの話が本当なら、テロリストに関わっている事件の情報を、亜美が簡単に探し出せるような場所に、晃一が残しているはずはなかったのだ。


 だが、これだけの(ど派手な) 嫌がらせをして、クインを追い返している亜美で、おまけに、組織内でもサイエンティストの晃一の家だけに、男達が知らないどんな仕掛けがされているかなど、判ったものでもない。


 だから、亜美の脅しだって、どこまで本当なのか、電話の向こうの男達にだって、図りきれないはずなのである。


「どうするの? 私に勝手に行動されたら、困るんじゃないの? でも、このオニイサンは、また、今夜も私を見失うから、次に私が浮上するまで、あなた達だって探せないわよ」


 これだけ必死の亜美を前に、いつまでも、ダラダラと亜美を引き延ばすような邪魔は、もう許せない。




~・~・~・~・~・~・~・~・

読んでいただき、ありがとうございます。

Дякую, що прочитали цей роман(dyakuyu, shcho prochitali tsey roman)

~・~・~・~・~・~・~・~・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る