1.3:Premonition - Epi08
中央にはガラス張りの大きな机があり、それを囲む椅子。そこから離れたプラットホームのような一段高い場所には、コンピューターの画面がズラリと並び、そして、たった一人きりだけ座っている若い青年が、コンピューターの画面と睨みっこしながら、そこに待機していた。
見る限り、その若い青年以外、誰一人いないようであるのに、コンピューターの画面だけが暗闇の中で妖しげに光っている。
青年の耳にはマイク付きのヘッドフォンをしていて、電話はヘッドフォンで受け取っているのだ。
待機していた青年の元に、外線の電話が入ってきて、すぐにその居場所を逆探知した青年は、コンピューターのスクリーンに映し出された名前をまず確認する。
その名字を見て、青年は、電話の相手が亜美であることをすぐに理解していた。
そして、コンピューターの画面に出されているアプリケーションから資料を当て出し、亜美のファイルの優先順位を確認すると、『Priority(最優先)』 がマークされている。
おまけに、『Red Alert(緊急非常事態)』 扱いで、だ。
すぐに、亜美を扱っているエージェントの名前を叩き出し、亜美と話している間も会話を止めず、
そして、ファイルのメモには、『Urgent(大至急)』 のスタンプまで押されていて、上層部にもすぐに連絡をしなければならない、との注意書きが残されていた。
電話の相手である亜美は、“最重要事項”扱いである。
緊急指令もキーボードに打ち込むと、すぐに、青年の耳に新たな電話の回線が繋がれてきた。
「どこだ?」
カチカチと、素早く青年がキーボードを叩きながら、画面に映し出されている逆探知された場所の範囲内で、亜美がいるであろう場所を徐々に制限していく。
「――お兄ちゃんはどこ?」
そして、同時に、反対の耳からは、まだ亜美と繋がっている回線が。
「まず、あなたの居場所はどこですか?」
左のヘッドフォンからは、亜美の声が。右には、エージェントが。
エージェントと話をしている声は、亜美には聞こえない。面倒なので、エージェントの方の回線は、繋げっぱなしである。
スーっと、青年が座っているコントロール室の自動ドアが開き、背広を着た年配の男性が入ってきた。
そして、そのすぐ後ろに、全身黒ずくめの男達が二人、気配もなく部屋に入ってくる。
「居場所はどこだ?」
三人は中央に置かれている大きなテーブルの周りで腰をかけ、視界の前一杯に広がる大きなスクリーンに視線を移す。
そのスクリーンには、キーボードを忙(せわ)しなく叩いている青年のコンピューターの画面が映し出されていて、青年が動かしている内容がはっきりと見ることができた。
「500m四方確認。ストリート名は、ハミルトン通り――家に戻っています」
亜美の逆探知の発信場所は、驚いたことに、亜美自身の家からだったのだ。
「では、二度のチャンスをダメにしたので、もう、これで終わりですか?」
青年は亜美との会話を続け、エージェントとも会話をし、室内に入ってきた――組織の上層部とも、会話をしている。
“コントロール”に配属される人員には、耳が3つも4つもなければならないのだ。
通常なら、ヘッドフォンが二手に分かれていても、随時、3~4の会話が同時に、そのヘッドフォンに流れてくることが多い。
おまけに、こうやって上層部が集まったり、エージェントの司令塔が席を共にする時などには、そこからの会話にも耳を傾けていなくてはならない、ものすごい集中力が要求される仕事だったのだ。
「コウイチ・サトウから、あなたの身柄の安全を頼まれています。どうか、抵抗なさらず、私達の指示に従ってください」
「お兄ちゃんがね、二晩続けて、連絡もなしにいなくなることなんてないの。今夜もいれれば、もう三日になるわ。だから、もうこれ以上は待たない。お兄ちゃんが、万が一の時はここに電話しなさい――って言ったから、電話しただけ」
「そうですね」
「でも、なんの手助けにもならなかった」
「私達の指示に従って、安全な場所に移動してください。それが、コウイチ・サトウから頼まれていることです」
「だったら、お兄ちゃんは? いなくなったんでしょう?」
青年は、チラッと、中央に視線を投げた。
中央の椅子に座っている男達は、スクリーンを見上げながら、亜美の声を室内のスピーカーから聞いている。
だが、青年が視線だけで確認しても文句が返ってこなかったので、一応、その情報だけは提供することにした。
「私達も捜索を続けています」
「それはどこ?」
「Missアミ・サトウ。詳しい状況の説明はできませんが、コウイチ・サトウの捜索は私達に
「じゃあ、お兄ちゃんは安全じゃないんだ。狙われてもいない私が、なんで、安全な場所に移動しなくちゃいけないの? 狙われる危険があるってことでしょう? それとも、その可能性?」
「ただの可能性でも、無視することはできません」
「じゃあ、どうして、関係のない私が狙われるわけ? お兄ちゃんが、まだ生きてるんでしょう? 私が
やはり、昨夜、エージェントが話してきた通り、亜美はすでにそこまでの疑いを持ち始めている。
「家の前に到着」
右耳からそれを聞いて、青年は手を休めず、エージェントの居場所も、画面に一緒に映し出した。
「Missアミ・サトウ。あなたの家に迎えを送ります。彼の指示に従い、安全な場所に移動してもらいたいのです。質問がある場合は、彼にそれを促してください」
現場に送り付けているエージェントに了解も取らず、青年自ら勝手に決め付けて、亜美の相手はエージェントにさせるなど、セコイ手である。
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読んでいただき、ありがとうございます。
رەھمەت بۇ روماننى ئوقۇپ تۇرۇڭ
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