Part 1.3:Premonition

1.3:Premonition - Epi07

 とうとう、兄の晃一は、二晩続けて家に帰って来なかった。


 おまけに、家に勝手に侵入してくるような輩までやって来て、亜美を保護しにきた、などと抜かすのである。


 カマをかけたら、そのまま引っかかって、兄の晃一の安全が考えたくない最悪の状態になってしまっていることも判った。


 兄の晃一は――もう、すぐにでも帰ってこられる場所にはいないのだろう……と言うことが判明してしまった。


 兄の晃一がいなくなってしまった。


 それも、亜美が全く知らない、知らされない、状況も判らない事情の元で、兄の晃一の命が危険にさらされているのも、間違いなかったのだ。


 そうなると、亜美に残された手は少ない。


 何も知らず、自分以外の人間が勝手に亜美の行動を決めて、一向に、兄の晃一の安全確認に繋がりはしない。


 誰も何も説明してくれず、勝手に押し入ってきて、亜美をどこに連れて行くつもりなのだろうか。


 あんな侵入者を、はなから信用するつもりなんてない。



「見知らぬ人間を信用するな!」



と、兄の晃一が、何度も何度も、昔から亜美に教えてきたことではないか。


 特に、には――と。


 一刻も早く、兄の晃一を見つけ出さなければならない。

 亜美が、必ず兄の晃一を見つけ出してやるのだ。どんなことになったって、絶対に、亜美が兄の晃一を探し出してみせるのだ。


 その決心があれば、後の問題は、全く問題でもなくなってくる。ただ、行動あるのみ。


 兄の晃一が、泣きじゃくって家に閉じ篭っているような妹を育てたと思ったら、大間違いだ。


 何かあった時でも、なんでも自分一人でできるように、解決する努力ができるように、そうやって、今まで育ててきてくれたのだ。


 昨夜、家を去ってから、亜美は考えに考え抜いて、もうすでに、次の計画を立て終えたところである。

 買い出しも終えた。いつでも、亜美は動けるのだ。


 亜美は暗い居間の中で、手に握っている電話の受話器を見ていた。


 兄の晃一が、亜美に内緒で話したことがある。



「――亜美。もし、万が一のことがあった場合――そうなるとは言っていないよ。だが、本当に、もし、万が一のことがあった場合、この番号に電話をしなさい。番号を忘れないように、今からしっかりと覚えておくように。いつでも必要になった時に、この番号に電話をするんだ。必ず、亜美の力になる」



 何度も何度も番号を復唱させ、亜美が頭で簡単に覚えられるまで、兄の晃一が執拗しつように繰り返したことである。


 ピッ、ピッ、ピッと、亜美の指は間違えずに、その番号通りのボタンを正確に押していく。


「ご用件は何ですか?」


 誰だとも名乗らず、まだ若そうな声のオペレーターが、たった一度、電話が鳴っただけで応答してきた。


「お兄ちゃんが、ここに電話すれって言ったの」

「どちら様でしょうか?」

「それ、本気で言ってるの?」


 亜美は感情的でもなく、ただ、暗闇を真っ直ぐ見据えながら、淡々としてそれを言い返す。


 一瞬の間があり、すぐにオペレーターの声が戻ってくる。


「ご用件は何でしょう?」

「お兄ちゃんが、ここに電話すれって」


「そうですね」

「お兄ちゃんはどこ?」


「まず、あなたの居場所はどこですか?」

「それ、本気で言ってるの? 時間の無駄だから、やめましょうよ。私はお遊びをしてるつもりはないんだから」


「Missアミ・サトウ。あなたの居場所を知らせてください。あなたは、今、危険な状況に置かれている可能性があります。あなたの兄、コウイチ・サトウから、あなたの身柄の安全を頼まれています」


 なぜかは知らないが、亜美は、そこで、わざとらしく溜息ためいきをついてみせていた。


「ねえ、時間の無駄だから、電話切って欲しい? 時間を引き延ばそうとしても、私には、そんなこと、全然、関係ないもの。今すぐ切って欲しいなら、そう言えば? 逆探しようが、誰かがここに来る前に、また消えてるんだから。お互いに、聞きたいこともあるし、知りたいこともあるんだから、わざとらしく、引き伸ばさないでくれない?」


「私には、知りたいことはありません」


「そう。じゃあ、次に消えても、後悔しないでね。私がただのガキで、ただのから脅しをしてるって思ってるんでしょうけど、いい気にならないでよね。こっちは、お兄ちゃんの命が懸かってるんだから、必死なのよ。何度も繰り返させないでよ。ちっちゃな子供にだって、二度しかチャンスは与えちゃダメなのよ。その後は、完全にダメっ――ってね」


 相手がその気なら、いつまでも、亜美の時間を無駄にする必要はない。

 ある程度の情報でも得られるかもしれない――と、電話をかけただけだ。


 大好きな兄が、「手助けしてくれるから」 と、執拗に亜美に説明したから、仕方なく、亜美だってこの番号に電話をしただけだ。


 だが、電話先の相手が亜美の手助けになるなど、亜美だって、はなから信じたことはない。


 電話の相手がすけになっているのなら、今頃、身内の亜美に事情の説明をちゃんとして、兄の居場所を知らせているはずだろうから。





 たくさんあるパネルに映し出された画面を見ながら、若い青年は、せわしくキーボードの上で手を動かしていた。


 その場所は、窓もなく、薄いグレーの壁が四方を囲んでいて、たくさんのブルーやオレンジの灯りが光っている部屋だった。


 四方を囲む壁には、たくさんのスクリーンが設置されていて、多種多様な画像が、随時、流れている。その中でも一際大きなスクリーンが、中央の壁一面を支配していた。





~・~・~・~・~・~・~・~・

読んでいただき、ありがとうございます。

Ushbu romanni o'qiganingiz uchun rahmat

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