いつでもお待ちしております

 次の日も、私はミズキさんのお店にいた。


「いらっしゃいませ、麻里様! よく眠れたようですが、無事消化できましたか?」

「多分、できたと思います……」

「それなら良かったです。今日はどのようなご用件で」

「いや、特に何かあった訳じゃないんですが、昨日のお礼と、あと聞きたいことがあって」

「なんでしょうか」

「ここって、昨日みたいに贈り物が届いてない日でも来ていいんですか? 喫茶店として使えるんですか?」

「もちろんでございます!」


 ミズキさんはこの二日間で一番明るい表情をして、大きく頷いた。


「じゃあ、また来ます」

「いつでもお待ちしておりますよ」


「あと、あの……」

「なんでございましょう」

「ミズキさんって、苗字はなんですか? 年上なのに下の名前で呼ぶってなんか居た堪れなくて」


 ミズキさんは、一瞬動きを止めたあと、可笑しそうに笑い出した。


「ど、どうしたんですか」

「これは失礼いたしました。フルネームで自己紹介をするべきでしたね。私、瑞木直人と申します。瑞木、が苗字ですよ」

「え」


 ミズキさんは、まだくすくすと笑っていた。


「あ、え、すみません! ミズキって名前の友達が何人かいるので、つい名前だと決めつけて」

「いいえ、お気になさらず。苗字と名前についても、私は気にしませんよ。直人と呼び捨てにしていただいても構いませんし、それに年齢もさほど気にしないでください。麻里様とほとんど変わらないようなものですから」


 妖しげな笑みを浮かべてミズキさんはそう言った。何歳かは教えてくれるつもりはないらしい。


「そ、そうですか、分かりました」

「今日は何か食べて行かれますか?」

「何があるんですか?」

「何でもお作りしますよ」

「じゃあ、オムライスが食べたいです! 大好きなんです」

「いいですねえ、喜んでお作りします。少々お待ちください」


「『言葉』、お付けいたしましょうか?」


「いや、今日はいらないです」


 ミズキさんはまた爽やかに頷くと、楽しそうにカウンターへ入って行った。

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