泣くのは
少しだけ心が軽くなったところで、大人しく家に帰ることにした。
数時間後、私は自宅の机に小瓶を置いて、睨めっこしていた。
案の定、両親にはこってり絞られたが、不思議といつもより落ち込むことはなかったし、両親も言いたいことだけ言うと、さっさと寝てしまった。
「泣くのは甘えている証拠」
ミズキさんの言葉を思い出しながら、だが私は未だ、阿部先生の真意を図りかねていた。
泣く、という言葉に妹を思い出した。私は、家では滅多に泣かない。親の前で情けない顔を晒すのに、抵抗があるからだ。
それでも悔しかったり、痛い目に遭うと涙が出ることはあるが。
家でよく泣くのは、どちらかというと妹だ。両親に叱られる時もそうだが、学校で誰かと喧嘩したとか、ひどいことを言われたとかいう時も、学校ではなく、よく家で泣いている。
そこでハッとした。妹が家で泣くのは、両親に甘えているからだ。学校の友達ではなく親なら、適切な言葉をかけてくれると信じているから。
私が両親の前で泣かないのは、泣いたところで慰められることも励まされることもないし、むしろ気分を害するだけだと分かっているから。
なら、学校の先生の前で泣く私は、先生に甘えている。先生なら適切な言葉をかけてくれると信じているのだろうか。
泣けるということは、泣く姿を晒しても良いと思える相手がいるということだ、阿部先生はそう言いなかったのではないか。
泣けば許される訳じゃない、と言った阿部先生でも、私が許されたくて泣いている訳じゃないと分かっていたんじゃないだろうか。
そんな解釈では、私の独りよがりだろうか……。
少しずつ、少しずつ、心がほぐれていく気がした。
『言葉』を取り出して、一粒だけつまんでみた。ミズキさんはどう食べても良いって言っていたよな。
そのまま、一粒を口に入れて、がりっと噛み潰した。舌の上で何かが弾けて、ぴりっという辛味が全身を駆け巡った。
だが、さっきのように咳き込むことも熱くなることもなく、ただ美味しかった。
これは、消化できたということで良いのだろうか。
考えることが多すぎて疲れたのか、不意に眠気に襲われたので、その日はそのまま眠ってしまった。
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