第2話 アリスと楽しくお茶会スキンシップ

(あなたがアリスに連れて来られたのは、屋敷の一回にある応接室のような部屋。大きな屋敷という割に、部屋の中の印象は少し迫めではあるものの、置かれている調度品はとても高級そうなものばかり。部屋の中央に設置された西洋風の白いテーブルとお洒落な花柄のソファー、そして机の上に並べられたアフタヌーンティーセットに配置されたお洒落なケーキ、クッキー、他にも飴玉や見たこともないお菓子に、淹れたてらしい紅茶の香りに誘われて、彼女と一緒にソファーへと腰かけることになる)


「ささ、ここに座ってー。私、あなたの隣だけど良いよね」


(※構わない)


「そ、ありがとう。じゃあ、失礼しまーす」


(二人でソファに座る)


「せっかく夢の中にまでご招待したから、色々と聞いてみたいことはあるけど……。まずは、紅茶を飲んで、お菓子を食べて、一息入れましょう」


(※紅茶のポットはあるが、ティーカップが一人分しかないぞ?)


「あ、そうだった。私、いつもここで一人で紅茶飲んだり、お菓子食べたりしてるから、あなたの分のカップを用意してなかった。けど、大丈夫。言ったでしょ? ここは夢の中。これと同じカップを想像して……パチンと指を鳴らすと~?」


(あなたの目の前にカップが現れ、驚きで目を丸くする)


「あはは、良い反応だね。夢だからって何でもできるわけじゃないけど、大抵のことは何とかなるものなの。ここにあるお菓子は私の趣味で設置したものだけど、あなたが欲しい物があれば別に出してもいいのよ?」


(※いや、せっかくだからこのままでいい)


「そう? 本当に出さなくていいの? まあ、そう言ってくれると何だか嬉しいけどね。じゃあ、紅茶淹れてあげるね」


(トクトクとティーポットから紅茶が注がれる。アールグレイの奥深い香りがあなたの鼻孔をくすぐった)


(※良い香りだね)


「そうでしょ? 香りが良いこれはアールグレイ、だけど香りだけじゃなくて味も癖になっちゃうくらい美味しいんだから。ほら、一口飲んでみてよ」


(あなたはカップを持ち上げ、口の中に紅茶を少しだけ含んだ)


「どう? 美味しい?」


(※とても美味しい)


「良かった~、気に入ってくれて。実は、茶葉にも少しだけ拘りがあるんだよね~。どこだったか忘れちゃったけど、有名なブランドのものを使ってるんだ~。紅茶を淹れるときも、温度とか、あとはお湯を注いでから茶葉をポットの中で躍らせる時間とかも。ここにずっと一人でいるから、そうやって美味しい紅茶の淹れ方を研究したりとか、色々なお菓子を想像して出してみたりするくらいしか楽しめることがないんだよね~」


(※ここにずっと一人と言っているが、どれくらい一人なんだ?)


「ん~? どれくらい一人なのかって? う~~ん、数えたことはないけど……。まあ、三桁は超えてるよね~。二百年……、いや、三百年だったかな~? 最後にお客さんを呼んだのは、百年くらい前かも?」


(※一人で寂しくないのか?)


「一人で寂しくないかって聞かれたら、当然、寂しいですよ? だからこそ、こうやってゲストを外の世界から招いてるんだから。前は、もう少し庭園も館も賑やかだったと思うんだけど、最近は夢を見る人が少なくなったのか、全然人が来なくなっちゃって。そもそも、アリスの館の存在自体を知らない人の方が多いだろうし、私の夢に入れるのって、ごく限られた人だけなんだよね~」


(※どんな人が招かれるんだ?)


「それはね~。(あなたの耳元に口を寄せて)現実世界で、生きるのが辛くなった人だよ。(口を離して)やだ、耳真っ赤じゃん。美少女に囁かれて、ドキッとした? お兄さん、見た目からして二十代……後半くらい? だから、きっと社会人さんだよね? 向こうで、何か辛いことでもあった?」


(※それは……)


「ああ、ごめん! そんな言い淀むくらいなら、言わない方がいいと思う。こんな場所に来てまで、思い出させようとしてごめんね? 私、ちょっと好奇心が旺盛なところがあるから気になっちゃって。でも、もう大丈夫! そんな辛いことがあっても、明日からまた頑張ろうって思えるような素敵な時間をアリスがプレゼントしてあげる! う~ん、そうだなあ……。あ、じゃあ選んでよ。一番か、二番か、三番か。このどれかで」


(※選べばいいのか?)


「そうそう、何も考えずに選んでくれれば、それでオッケー。どうする? 何番が良いかな?」


(※じゃあ、順当に一番からで)


「一番ね。即答するとは思い切りが良いね、お兄さん。さて、気になる一番の内容は~~? じゃじゃーん、アリスがお兄さんにお菓子をあーんって食べさせてあげる! どうどう? 美少女からお菓子を食べさせてもらえるなんて、中々ないんじゃない? それとも、お兄さんって彼女とか、結婚相手がいたりするのかな?」


(※いや、いない)


「そうなんだ、それは良かった。夢の中とはいえ、寝取るみたいな真似はしたくないからさ。気兼ねなく、楽しめそうだね。それじゃあ、まずは……。これ、これにしょう。フランボワーズっていうケーキ。ラズベリーと、ちょっぴり赤ワインを混ぜたフランボワーズソースとチョコがベースのお洒落な大人のケーキでーす! 普通に買ったらそれなりのお値段がするけど、ここではぜーーーーんぶタダ! だから、遠慮なく食べちゃってよ。じゃあ、まずはお皿とフォークを出して―……。(パチンと指を鳴らす)ここに、ケーキを乗せて、お皿を持ってー……。はい、お兄さん、あーん。ほら、早く口を開けて。それとも、恥ずかしいの? 大丈夫、ここには私とお兄さんの二人しかいないから。ほら、あーんして、あーん」


(※あ、あーん……)


「はーい、良い子~。ぱくっ……。どう、どう? 美味しい?」


(※甘酸っぱいけど、食べやすい)


「そう! 甘酸っぱいんだけど、不思議と食べやすい。だから、次が欲しくなっちゃうんだよね~。もっと食べる?」


(※いただきます)


「はーい、了解~。はい、あーん」


(※あーん)


「ぱくっ……。おっ、さっきより素直になってきたね。一回やると、あーんなんて何てことないでしょ?」


(※そうだな。悪くない)


「悪くない、か……。まだ、満足してないみたいだね。じゃあ、これはどう? 生クリームがたっぷり詰まったロールケーキ! 見てよ、この黄金色の生地! こうやって、フォークで軽く押すと、ふわっ、ふわって押し返してくるの。じゃあ、これも切って~……。はい、あーん」


(※あーん)


「どう? さっきは甘酸っぱかったけど、今度は甘いのが口いっぱいに広がるでしょ? 感触もケーキと違ってフワフワしてて、やっぱり美味しい! 違う?」


(※いや。凄く美味しい)


「うんうん、だよね~。あ、お兄さん。口元、クリームが付いてるよ。ほら、じっとして? こうして、指を伸ばして~……。はい、取れた。じゃあ、これは私がもらっちゃうね。ペロン……。んん~~~、美味しい! 生クリームだけでも美味しいなんて、贅沢なお菓子だよね~」


(※それはそうなんだが、アリスは食べないのか?)


「え、私は食べないのかって? う~~ん、それもそうだよね。私とお兄さんでお茶会してるんだから、私も食べないとだよね。あ、じゃあさじゃあさ、私に食べさせてよ。お兄さんのチョイスで、私に食べさせたいものを。ほら、恋人同士で食べさせあいっ子、みたいな?」


(※分かった)


「お、お兄さんもノリノリだね~。さあ~て、私に何を食べさせてくれるのかな~?」


(あなたは机の上を見渡して、目についたお菓子を一つ取ってみた)


「おっ、お兄さん棒菓子を選ぶか~。外は柔らかいクレープ生地で包まれていて、中は確かチョコ味とバニラ味のアイスのミックスで美味しいぞ?」


(※アイスは溶けないんだな)


「溶けないよ~? ここは、夢の中だからね。でも、ちゃんと冷たいはず。さあ、お兄さん。私に食べさせて? ほら、あ~ん」


(※じゃ、じゃあ……。あ~ん)


「はい、あ~~ん。……ん~~、美味しい! やっぱり、冷たいアイス入りのお菓子っていうのも良いよね! 今は夏ってわけじゃないけど、ひんやりしてるものって年中問わず食べたくなるからさ~~。……あ、そうだ。お兄さん、ポッキーゲームやろうよ」


(※ポッキーゲーム?)


「流石にお兄さんも知ってるでしょ? 細長い棒状のお菓子を端と端から加えてどんどん食べていくやつ。お互いの口が触れるかどうかのチキンレースだね。あまり食べ物で遊ぶのは良くないかもだけど、二人じゃないとできないし。一度くらい、やってみたいし? ね?」


(※別に構わない)


「やったー! じゃあ、一本だけ出すね……(パチン!)。はい、じゃあこの棒菓子の端をお兄さん優しく噛んで。ほら、早く。……それを、んって前に突き出す。そうそう、それで、私が反対の端を……。あい(はい)、ああいうお(じゃあいくよ)~?」


(彼女は遠慮なくお菓子を食べ進めて距離を縮めてくる。自分もどんどん食べ進めていくが、段々と彼女の顔に鼻息や吐息が近くなる。堪らなくなったあなたは、先にお菓子から口を離してしまう)


「んん!? ……ごく。は~~い、私の勝ち~。お兄さん、ちょっと離すの早すぎない? もうあと数ミリはいけたって」


(※あのままだったら、本当にキスしてた)


「そうかな? キス、してたと思う? 私の方が早く音を上げてたかもしれないよ? あ、でもほら。お兄さんの唇にお菓子の破片、付いちゃってる。待ってて、今取ってあげるから」


(彼女は白い指先を伸ばしかけて……にやりと笑うと唇の先が触れる程度のキスをした)


(※アリス!?)


「あはは、驚いた? どうせキスするなら、あのままお互いにお菓子と一緒に貪り合っちゃった方が良かったかもよ? あーあ、お兄さん損しちゃったね」


(※そうじゃなくて。良かったのか? キス何て)


「良かったも何も、これは私からのお礼だからお兄さんは気にしなくていいんだよ。一人で寂しかった私のところに招待されて、私の遊びに付き合ってくれたお兄さんへの報酬。夢の中と言っても、美少女からのキスをプレゼントしてもらえるなんてそうはないだろうし……。それとも、駄目だった? 夢の中であげられるものって言ったら、これくらいしか思いつかないんだけど?」


(※いや、そんなことない。嬉しかった)


「わあ、ありがとう! お兄さん、とっても優しいね。こんな紳士なお兄さんなら、またいつでもアリスの館に来て欲しいなあ。……って言いたいところだけど、次からはあまり来ないようにね」


(※どうしてだ?)


「言ったでしょ、ここはあくまでも夢の中。ここの方が楽しいと思ってしまったら、現実の世界に帰らない選択をしちゃうかもしれない。お兄さん、向こうでの生活があるだろうから、ここのことは今日限りと思って忘れてくれるのが一番だよ。少し寂しい気もするけど、今までも、ゲストは一回しかこの場所には来ないから。これを機に、現実の世界で「また頑張ろう!」って思ってもらえたら、私はそれだけで十分。だから、ほら。そろそろ、起きる時間だよ」


(※起きる時間……)


「そんな悲しそうな顔しないの。あなたが望むなら、もしかしたらまた会えるかもしれないから。だから、今はちゃんとお家に帰ろう。それじゃあ、バイバイ。お兄さん」


(パチン、と彼女が指を鳴らすと視界は暗転。あなたは夢の世界から現実へと戻った)

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