第56話 男女比1:13
時間にして、五分ほど経った頃だろうか。カイルは女子硬球部の皆が落ち着いてきたのを見計らって、いくつか気になっていたことを聞いてみた。
「メイの体が自動修復されたそうだが、なんて言ってるんだ?」
カイルの胸に抱かれながら、モニカが答える。
「……動揺しているようです。自爆魔法が起動された前後から、記憶が曖昧になっているみたいで」
「なら遠隔操作されたんだろうな」
観客席にいた、もう一人のモニカがやったに違いない。
片方のモニカは仲間を想って涙を流し、もう片方のモニカは無情な自爆攻撃を敢行させる。同じ顔をしていながら、中身はまるで正反対らしい。
「メイにはあとで事情を説明した方がいいな。本人も混乱した状態で俺の彼女となったわけだし。というか流れであいつも俺の恋人にぶち込んでしまったが、納得してるのか?」
「ああそれは……試合中からカイル様のピッチングが綺麗でフェロモン全開だったので、付き合えるならラッキー、だそうです」
「そうなのか。そんなものなのか」
「まあピッチャーですし。女の子に好かれるのも無理はないかと」
「そうか」
花形ポジションだしな。
カイルはあっさり納得すると、次の質問に入った。
「共和国の様子を教えてくれないか? こんな仕込みをしたくらいなんだ、国を挙げて王都に敵意を燃やしてたりするのか?」
「……至って普通、だったと思います。確かに共和国にも王都をよく思わない者はおりました。ですが過去の戦争など、もう気にしていない者が大半でしたし……といっても、これはあくまで私の主観です。今となっては、この記憶さえ作りものの可能性がありますから」
「む」
それもそうか、とカイルは眉根を寄せる。
ゴーレムの記憶なんて、作り手の好みでいくらでも調整できるものだ。
平和な共和国でごく普通の女学生として過ごしたという記憶を植え付けられただけで、実際は昨日製造されたばかりというのもあり得る。
もしそうだとしたら、こちらのモニカではなく人間の方のモニカに尋問をする必要が出てくる。
だがあちらはかなり強情な性格をしているようなので、骨が折れそうだ。一々強姦紛いの脅しをするのも精神的に疲れる。
さっさと読心能力者が帰還してくれれば余計な手間が省けるのだが……。
「どうなってるのよ?」
と。
カイルがうんざりしていると、背後からレオナが話しかけてきた。
他の観客が眠っているのをいいことに、スタンドを飛び降りてベンチまでやって来たらしい。元勇者様にふさわしい行動力である。
眉間にしわを寄せるレオナに、カイルはとうとうと説明する。
「リリーエ女子硬球部の生徒は、全員がこの日のために作られたゴーレムだと判明した」
「え……っ。なにそれ!?」
「聞いたところによると、メイは遠隔操作で自爆する機能を付けらているらしくてな。まずはそれを取り外さなければならない。俺の寮に連れて帰って、徹夜で作業するつもりだ」
「そうじゃなくて……私が言ってるのは、もっと大事なことなんだけど」
大事なこと。はて、一体なんのことだろうか。カイルはしばらく考え込んだあと、
「ああ、人間の方のモニカの処遇か?……憲兵に引き渡そうかとも思ったが、そうなるとこっちのモニカまで立場が悪くなりそうなんでな。気絶してるうちにどこか人気のない所に連れ込んで、しばらく閉じ込めておこうと思ってる」
「そうじゃなくって。なんで総勢九人のゴーレムっ娘が、全員カイルに惚れてるかってことなんだけど!?」
ん、そっちか? とカイルは首をひねる。
「俺がピッチャーだからだ。こういうのはしょうがない」
「な、なにそれ……!?」
納得できない、といった顔で騒ぐレオナをなだめながら、カイルは考える。
リリーエ硬球部のメンバーは、これからも遠隔操作で自爆魔法を起動されてしまうかもしれない。
そうなると生きた爆弾がうろついているようなものなので、どうにかして対策を取る必要がある。
おそらく、体内に何か仕掛けが施されているのだろう。
やむを得まい。
――俺が解除する。
カイルは指輪から受け継いだ記憶のおかげで、莫大な魔法知識を得ている。
ゴーレムを動かす原理についても、その道で食べていけそうなくらいには把握している。おそらく王都で一番ゴーレムに詳しいのはカイルなはずだ。
(俺が助けてやる)
つまりどういうことかいうと、今からリリーエ女子硬球部の九人を全員ホテルに連れ込んで、体を弄り回すのである。
服をひん剥き、怪しい箇所を念入りに調べ、少しでも自爆魔法に関わっていそうな仕掛けを見つけたら削除する。これを九回繰り返す。
地道な作業になりそうだが、なにせこれは命に関わる問題なのだ。
ぱっと見は単なる10Pハーレムえっちにしか見えないかもしれないけど、きちんと事情を話せば九の爆弾を解除する英雄的な行ないだとわかってもらえるはずだ。
というわけで、カイルはさっそく「今からこいつらを全員ホテルに連れ込んで体を弄る」とレオナに告げてみた。
するとレオナは割と本気で泣き出してしまった。
なんでも、彼女の前で二桁単位の浮気宣言はありえない、だそうだ。
「これは浮気ではなくてだな……」
なんと説明すればいいのか。面倒になったカイルは、レオナもホテルに連れていくことにした。何もやましいことがないのだから、別に見られても平気だしという理屈である。きっとカイルが真剣に自爆魔法を解除する作業を見れば、レオナの疑いも晴れることだろう。
ついでにアイリスとロゼッタと、あと情報収集用に人間の方のモニカも連れて行った方が無難かもしれない。
(結構な人数になるな)
総勢十三名の女子と一緒に、ホテルにチェックインする男子。その時点でもう英雄みたいなものだが、カイルのヒーローっぷりはこれからが本番である。
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