転生のベルセルク ~俺をパーティーから追放した女勇者が死んだけど、実は愛する俺を守るため仕方なく追い出したのだと知り、過去に転生して二人の出会いをやり直すことにした~
第50話 プレイボール!&プレイボーイ!
第50話 プレイボール!&プレイボーイ!
ベンチに着くと、監督からユニフォームを手渡された。
背中に縫い付けられた番号は、エースナンバーの1。これは責任重大だな、と改めて思う。
「口元にやけてんぞ、カイル」
「そうか?」
カイルは無意識のうちにはしゃいでいた自分に困惑しつつ、着替えを済ませた。
お次は対戦相手への挨拶だ。
皆でベンチを出て、グラウンドの真ん中に集まる。全員が整列したところで、帽子を取って深々とお辞儀をする。
女学院の生徒達も同じように横に並んで、可愛らしいカーテシーを披露していた。
「先攻後攻は、いつも通りコイン投げで決めるよね?」
「ええ」
キャプテンの提案に、モニカは即座に応じた。
すぐさま硬貨が放り投げられ、ピィンと金属質な音が響き渡る。
「表が出たらうちの先攻だ」
「どうぞ」
「……よし。ありゃ、裏だ」
「まあ」
どうやら、先攻はリリーエに決まったようだ。
つまりカイルは、しょっぱなから投げることになる。
「頼んだぜエース!」
マウンドに向かう途中、ベンチから熱い声援が飛んできた。いや、今やスタンドの全員がカイルを応援していた。
「行けーカイルー!」
「カイルならやれる! 点取られんじゃねえぞ!」
「うちの女子マネ返せよォ! なァ!?」
「フットボール部関係者はちょっと空気読もうな。つーか自分とこの試合に行けよ」
人生を賭けて磨き上げた投擲スキル。地獄の鍛錬。その全てが今、報われようとしている。
投手にとって最高の名誉である、先発を任されている……!
(俺はこのために生まれてきたんだ)
心からそう思うカイルだったが、よく考えたら魔王を倒すために生まれ直したんだったと思い出し、ちょっと冷静になってみたりする。
危ないところだった。
まるで野球をするためだけに転生したような気分に陥っていたが、この交流試合に勝って、戦力になりそうな生徒を女学院から引き抜くのが目的なのである。
あくまで、勝利最優先。
スポーツマンから勇者候補に気持ちを切り替えると、試合開始のコールが響いた。
いつの間にか、他のメンバーも己の守備位置に付いていたようだ。
リリーエのベンチからも、打席に向かって歩いてくる者がいる。
「お手柔らかに頼みますわよ」
小柄なツインテールの少女――ミリアだ。
(やはり先頭打者だったか)
キャプテンから聞かされた情報によれば、ミリアはとにかく選球眼がいいそうだ。パワーはないが、どんな球にも当ててくる。そして塁に出たら最後、足でかき回してくるタイプ。彼氏がいたことはない。パンツはピンク。俺あの子が一番好みなんだよね、と熱く語っていた。
あどけない容姿がキャプテンの性癖に噛み合うようで、色々とどうでもいいことまで聞かされてしまった。
一体いつ、どのような手段で調べたのか気になって仕方ない。あの男は逮捕した方がいいんじゃないか、と思えてくる。
(いかんな、試合に集中しろ)
カイルは雑念を振り払いながら、キャッチャーの手元を確認した。
サインは外角高めのストレートを要求している。
まずは見せ球で様子見といったところか。
「ふん」
臆病な配球だ。
(俺ならいきなり真ん中に投げる)
それでも問題ないくらいの球威があるのだし。
カイルはサインに首を振り続ける。いつまでも振り続ける。
ついにキャッチャーが折れ、ド真ん中に投げることを認めさせた。
開幕から甘めのコース。ミリアにとっては大チャンスと言えよう。――ただし、球速は九〇〇キロ近く出るのだが。
カイルは大きく振りかぶり、のびのびとしたフォームで第一球を放った。
「――ふっ」
スパァン! とミットを叩きつける音が鳴る。
ボールが指を抜けた瞬間には、もうキャッチャーに届いている。体感としてはそのレベルの速球だ。
当然、人間の目で捉えられるはずがないので、ミリアは茫然とバットを構えたまま立ち尽くしていた。
「ス……ストライク!」
審判が腕を上げると、観客席にどよめきが広まった。
「なんだあのボールは!? あれが人間の投げる球かよ!? マジで球が浮き上がって見えたしよ……あれこそ本物のジャイロボールだ。はんぱねぇよあのピッチャー!」
「去年まで見かけなかった顔だが、まさか一年なのか? こんな逸材が埋もれていたとはな……! スカウトは一体何をやってたんだか」
「今年こそは、勝てるかもしれんな。リリーエに」
「これほどの球速、一体どれほどの犠牲を支払って手に入れたというのだ? きっと一日の大半を練習に費やしているに違いない」
口々に玄人ぶった感想を述べる観客であったが、やがて彼らを圧倒するほどの声量で黄色い声が上がり始めたことで、反応が変わった。
「いっけーカイルー! 皆見てるからねー!」
「か、カイルくーん! お弁当作って待ってますからねー! お昼になったら、一緒に食べましょうねー!」
「……ご主人様、ユニフォーム姿だといつも以上に下半身のラインが強調されてる。……美味しそう……」
レオナ、アイリス、ロゼッタの三人が、なんとも悪目立ちする応援をしているのである。
三人の台詞や表情から、カイルとはただならぬ関係にあるのがありありと伝わってくる。
「……は? まさかあの三人に手を出した上で、あれほどの球速を身に着けたのか? いつ練習してんだよあいつは」
「正統派ブロンド美少女、抜群のスタイルを誇る美人教師、赤らんだ顔ではぁはぁと息を荒げる獣人幼女か。お姉さんからロリまで、何でもいけるのか。夜のストライクゾーンは広めなようだな」
「これもう、試合前から実質リリーエに勝ってるだろ」
「つーかあのピッチャーに女学院の子達を近付けて大丈夫なのか……何人か食われるんじゃないかこれ」
何人どころか、全員食い散らかす運命にあるのだがな。
カイルは観客の喧騒に耳を傾けながら、二投目を放った。
今度もまた、キャッチャーを従わせて小細工なしの直球を投げる。
「ストラィィィック!」
やはりミリアは、手が出ない。怯えた目で瞬きを繰り返し、続く三球目も無言で見送る有様だった。
見逃しの三振――まずはアウト一つ。
「こんなもんか」
その後のバッターも連続で三振に切って取り、あっさりと攻守は交代した。
これはもう、試合ではない。カイルのウォーミングアップに、他の全員が付き合っているのではないかと感じさせるような、途方もない実力差だ。
「正真正銘の化物だな。本当、お前が味方でよかったよ」
チームメイトに声をかけられながら、ベンチへと引き下がる。
カイルの打順は四番なので、しばらくは出番がない。
手持無沙汰なので、相手投手の投げる様をじっくり観察させてもらうとしよう。
「あっちのピッチャー、結構可愛いよな」
「ていうか全員可愛いだろ」
「うーん。皆もう五歳くらい若かったら文句なしの美少女なんだけどね」
「キャプテンは黙ってた方がいいな」
なにやら周囲がくだらない雑談に興じているが、硬派に無視して分析を続ける。
リリーエ側の先発投手、メイ・ヨハエヌーキはショートカットの美少女だ。髪も目も栗色で、体格は女子としては平均的。
そうなると、球速はあまり出ないかもしれない。
コントロールや変化球によほど秀でているのだろうか? でなければレギュラーは勝ち取れまい。
「ストライッ!」
予想通り、メイの一球目は落差のあるカーブだった。様子見の球であれほど曲がるのだから、決め球はさらに凄まじい変化を見せると思っていいだろう。
「……メイちゃんだっけか。投げるたびに胸が揺れるんだよなあ」
「あれはけしからんね。ボールそっちのけで目で追っちゃうからね。キャプテンみたいにまな板にしか興味しかない男ならともかく、俺らみたいに女っ気のない男子なら、まず凝視するわな」
「ってことはキャプテンと、日頃からヤリまくりのカイルしかまともに打てないんじゃないか?」
「キャプテンはキャプテンで、ミリアちゃんをガン見してるから使いものにならないと思うぜ」
「……カイルに頼りきりになりそうだな」
俺が一人で抑えて、一人で点を入れなきゃならないのか? とため息をつくカイルであった。
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