第49話 友情、寝取り、勝利

 くだらないやり取りもあったが、カイル達は無事グラウンドに到着していた。

 他の運動部も続々と集まっており、いよいよ開会式が始まるようだ。


「お前らも座れ」


 カイルが腰を下ろすと、左右にさきほど捕まえた女子マネージャーが座り込んだ。

 まさに両手に花である。

 けれどカイルは、本音を言うとあまり彼女達に興味がなかった。普段もっといい女を抱いているので、別に……といった感じだ。


 が、フットボール部の連中は凄まじい目つきで睨みつけてくる。やつらからすれば価値のある女なようだ。

 気は進まないが、しょうがない。硬球部の皆をさんざんいたぶってくれたお礼だ。

 カイルはルーカス達に見せつけるようにして、女子マネージャー達の唇を吸った。襟元に腕を突っ込み、直に胸を揉んでみたりもする。


 効果はてきめん。

 フットボール部の生徒はショックのあまり泣き出したり、気を失ったりしている。あれで試合になるのだろうか? とりあえずパス回しで時間を稼ぐのかもしれないな、なんて他人事な心配をしてみたりする。

 

「鬼かよカイル……学校行事の最中に、寝取りなんてするか普通……」

「でもよぉ、あいつがここまでブチ切れてるのって、俺らがフットボール部に手を出されたからだろ? 動機が友情となると、たとえ寝取りだろうと神聖なものに見えてこないか?」

「男同士の友情に準ずるため、敵の女を寝取る……いい話……なの……か……?」

「いい話に決まってるだろう!? お前はグラウンドの恩を忘れたのか!?」

「そ、そうだな。俺が間違ってたよ。カイルはやっぱすげえや!」


 硬球部の連中がやや迷い気味に持ち上げてくるのを聞きながら、カイルは前方に目を向けた。

 両学院の代表が挨拶をするらしく、互いの生徒会長が壇上に立っている。

 つまり片方はモニカなのだが……。


(とんでもない格好をしているな)


 今のモニカはユニフォーム姿なのだが、確かに目のやり場に困るくらいスカートの丈が短かった。おまけに妙にぴっちりとした素材が使われていて、腰や背中には大きな穴が開いている始末だ。へそが丸出しなのである。


「エロいよな、あれ……」

「毎年布面積減っていくじゃん。痴女かよ」


 男子達がざわついているのが聞こえる。

 それは壇上のモニカにも聞こえているらしく、ほんのりを頬を染めていた。着ている本人も恥ずかしいようだ。


「やっぱあれ、視覚効果を狙ってんだろうなあ。見てて嬉しいけど、ちょっと卑怯だわ」


 キュウジのぼやきに、そうかな? とカイルは思う。

 お嬢様学院が、男を惑わすためだけにあのような衣装を作るだろうか? 

 確実に何が別の理由があるはずだ。

 カイルは前世で錬金術師を務めていたため、装備の開発に携わった経験もある。さらに指輪で吸った知識のおかげで、女ものの衣類や魔法道具に関しても詳しくなっている。

 

 よって、あの穴だらけのユニフォームの真の狙いが特定できた。


(空気抵抗を減らすためだろうな)

 

 大方そんなところではないか、と予想しているうちに、モニカ達が右手を挙げた。

 宣誓、我々はうんちゃらかんちゃら。スポーツマンシップがどうのこうの。どうしてこう、学校というのは一々無意味なスピーチを垂れ流すのか。


 カイルは女子マネージャー達の乳房を撫でさすりながら、雑に開会式を終えた。

 次はいよいよ試合だ。

 魔法学院の敷地内にはいくつか円形闘技場があり、その中の一つを貸し切ることになっているらしい。


 坊主頭の集団に混じってぞろぞろと移動していると、向こう側にリリーエ女学院の生徒達が見えた。

 女子硬球部のメンバーだ。

 モニカ達は嬉しそうに駆け寄って来ると、カイルにカーテシーを行なった。スカートの両端を持ち上げ、膝を深く曲げる淑女らしい仕草。


(そういうわけか)


 カイルは、今の動きで大体の事情がわかった。あちらもあちらで色々大変なようだ。


「ごきげんよう、カイル様。……本日はいよいよ手合わせとなりますね。……あの、このような格好を見せるのは私どもとしても恥ずかしいのですが……」


 見られたくないのか、モニカは左手で腹部を隠しながら苦笑いしていた。イルザやミリアも、同じように腰回りを抑えている。

 気の利かない硬球部の男子達はにやにやと鼻の下を伸ばしているが、これでは余計に恥辱を与えるだけだろうに。

 カイルは彼らに向かって、


「笑うな」


 と一喝した。


「リリーエの生徒は、勝利を最優先にした結果このユニフォームに落ち着いたんだ。お前らはそれを侮辱する気か」

「何怒ってんだよカイル? そりゃまあ、勝つために色仕掛けまでするってのは大した根性だけどよ。だったなら素直にエロい目で見てやるのが礼儀ってもんだろ?」

「……これは色仕掛けのために肌を見せているわけではない。一秒でも速く走るために研究した結果、行き着いたデザインだ。そうなんだよな?」


 カイルが確認すると、モニカ達は戸惑ったような顔で頷いた。


「え、ええ……。確かにその通りですが……なぜお分かりになったのですか?」

「少し考えればわかることだ。魔法球技は、普通の球技とは違う。魔法で防御力を上げるのだから、わざわざユニフォームで肌を守る必要性がなくなる。防具の役割から解放された以上、少しでも薄く軽くして、動きやすくした方がいいに決まっている。……お前達のそれは、走ることに特化したデザインだな? 空気抵抗を軽減させるためには、服は肌に貼りついていた方がいい。そして女は胸部の膨らみがあるため、上下が繋がった衣装だとどうしても腹部に隙間ができてしまう。だから腹や背中の布を切り取ったんだ。違うか?」

「……御名答です。一目で見抜いただなんて……教養がおありなのですね」

「おまけ程度のスカートが付いてるのは、対戦相手にカーテシーをするためか? お嬢様学院らしく、礼儀作法も忘れていないというわけだ」

「……何から何まで、その通りです」


 わかったかお前ら、とカイルは硬球部達に言い聞かせる。


「こいつらは痴女でもなんでもない。勝つことと礼節のみを考えて動いている、立派なアスリートだ。もう妙な目で見るのはやめてやれ」

「……お前がそう言うならそうなんだろうな。悪かったよ」


 今日はよろしく楽しむぜ、硬球部の皆がお辞儀をする。学生らしい、なんとも爽やかな挨拶であった。

 カイルは晴れ晴れとした気持ちでその様子を見つめていたが、わらわらと集まってきた女学院の生徒達に取り囲まれてしまったため、一瞬で不健全な空気になってしまった。いくつもの胸が、つんつんとカイルの体に当たっている。


「私達のユニフォームを、ここまで理解してくれたのはカイル様が初めてです」

「そーなんだよねー。男子と試合するといっつもエロいエロいって言われるけどさ、単に運動性を優先しただけなんだよねこれ」

「ふん。存外に頭が回るようではないか」


 やはり私が見込んだ殿方なだけあります……とうっとりしているモニカはともかく、つんけんしていたはずのだイルザまでカイルを尊敬の目で見ている。「ふん。存外に頭が回るようではないか」と言いながら、ちょっと赤くなっていたのがイルザである。


「……文武両道だったんですのね……少し貴方を誤解していたかもしれませんわ」


 お嬢様言葉でカイルを称賛しているのは、ミリアだ。もじもじと身をよじらせるような動きは、決して尿意を我慢しているわけではあるまい。


 カイルの未来は、着実に九人斬りに向かって進んでいた。

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