第42話 半分、わんこ
ロゼッタの発情期は、予想を遥かに超える激しさであった。
際限なくカイルを求め、甘えた声を発し続ける淫らなケモノ。
もはや男一人では手に追えないという事態に陥り、しまいにはレオナとアイリスの補助も受けたほどだ。
(これほどとはな)
午後の授業が始まってからも、ロゼッタは盛りっぱなしだった。とろんとした顔でカイルを見つめ、教師の声などそっちのけで熱い視線を送ってくる始末だ。
なんだか前世よりもお盛んな気がするのは、カイルがいるせいだろうか。強さこそ正義な獣人からすれば、逞しい男が傍にいるという状況は目の毒なのかもしれない。
(ということは、俺が弱そうな素振りを見せたら落ちつくのか?)
押して駄目なら引いてみろというやつだ。
カイルは五時間目の休み時間になると、ロゼッタを廊下の隅に呼び出して、それとなく弱音を吐いてみた。「俺、本当に魔王を倒せるのかなって不安でさ……」と呟いてみたところ、「……だ、だめ、母性が刺激される……っ」と言って余計に発情した。
もう何をやっても無駄なんだと悟った。
ロゼッタは、強いとか逞しいとか関係なしに、どんなカイルだろうとムラムラしてしまうらしかった。
「ロゼッタちゃんどうなってんの?」
「よくわからないが、カイルが授業中に発情させたらしいぜ」
「ついに目で女を落とすまでに至ったか……」
「女学院との試合は、カイルが立ってるだけで勝てるんじゃないか? 相手選手は悶々して動き悪くなるだろうし」
「すげえなカイルは……」
「はんぱねえ。モテることを極めると、ある種のスキルになるんだな」
獣人の体質を知らない生徒達は、カイルが催淫系の能力に目覚めたと思い込んでいるようだった。
一部の女子は、何かを期待するような目で顔を覗き込んできたりもした。プラシーボ効果なのか知らないが、「なんか体が火照ってきたかも……」と息を荒げる者まで現れた。
このままでは、また彼女が増えてしまうかもしれない。
面倒なことになったな、とぼやきながら六時間目の授業を終え、寮に戻る。
真っ直ぐに寝室に向かい、ロゼッタとレオナをベッドに放り投げる。
「なんで私まで!?」
「どうせ我慢できないんだろ?」
「……うん」
カイルはまず、挨拶代わりに二人を三回ずつ抱いてみた。
が、まだロゼッタは収まらないようだ。
「むんっ!」
もう七回ずつ抱いてみる。レオナは気を失ったが、ロゼッタはもっともっとと求めてくる。
「ならば!」
もう四回。
ここから先は回復魔法も交えて、各部を癒しながらの作業になる。もはや恋人同士の営みというより、戦闘行為である。
「これでどうだ」
さらに十回抱いたところで、アイリスが部屋に入ってきた。見れば窓の外は真っ暗になっている。
「私も手伝いましょう」
「助かる」
それからカイルとアイリスは、力を合わせてロゼッタを可愛がり続けた。
その回数は、はいよいよ人の限界を超え……一晩で一〇二回という人類史に残る記録に達していた。
「やっと収まったか」
動かなくなったロゼッタを見下ろしながら、カイルは水を飲んだ。
連投の疲れはピークに達している。中三日でもきついというのに、これから毎日登板しなければならない。
「お疲れ様」
と。
失神していたはずのレオナが、突然声をかけてきた。目を覚ましたようだ。
「このまま寝ててもよかったんだぞ?」
「……ロゼッタの声が凄いから、起きちゃった」
「そうか」
レオナは上半身を起こし、ロゼッタの髪を撫でる。母が子を労わるような手つきだった。
「……私、最低だ……」
「なぜだ?」
「だ、だって。いくら一歳しか違わないとはいえ、こんなちっちゃな子と乱交したのよ? 冷静に考えたらとんでもない犯罪者だわ」
いわゆる賢者モードに陥っているようだ。
「……私もです。もう、どこにも聖職者要素がありません……」
アイリスも会話に交じり、両手で顔を覆った。
脱ぎかけのスーツが、余計に淫靡な空気を醸し出している。こちらは教師が担任している生徒――それも三人とくんずほぐれつになったのだから、罪悪感は想像を絶するものがあるだろう。
「俺もある意味、大賢者になってしまった。カーライルの跡を継げるな」
カイルが際どい冗談を吐くと、ぼそりとロゼッタが言った。
「……大丈夫……気にしないで……」
かろうじて意識があったらしい。
外見年齢十二歳の犬耳少女は、鼻にかかった声で言う。
「……私は犬人間。半分、わんこ。だから年齢も、半分は犬として換算するべき」
どういうことだ? とカイルはたずねる。
「……私は今、十四歳。これは犬だったら七十歳くらいになる。それを半分にしたら、三十五歳。私は実質、三十五歳の熟女」
「なに……!?」
一同に衝撃が走る。
突如として空から降って来た免罪符を、飛びつくように拾い集める。
「そ、そうね……ロゼッタは犬娘なんだから、なんでもかんでも人間基準で考えるなんて不自然よね」
「三十五歳の女性と致したなら、むしろ私達は大人の女性に食べられちゃった側になりますね。ああ、安心しました。これで辞表を提出せずに済みます」
「うむ、ロゼッタが正しい。実質三十五歳なら、どんなにふしだらなことをしても合法だ。合法の中の合法だ。これより合法なものを見つけるのは難しいんじゃないか? ってくらい合法だ」
だよねー、と四人は笑い合い、和やかな雰囲気で延長戦に突入したのだった。
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