第41話 ロゼッタ、発情期に入る

 昼休み。カイルは未だ勝利の余韻に浸りながら、屋上で昼食をとっていた。

 左右をレオナとアイリスに挟まれ、手前ではロゼッタが女の子座りをしている。

 全員が恋人でもあるので、まさに水入らずと言っていい。


 なお、アイリスが教師の権限を間違った方向に使ったおかげで、他の生徒が入ってくる恐れはない。

 入り口のドアに進入禁止の札を貼り、鍵までかけてくれているのだ。


「いい天気ねー」

「だな」


 魔王への絶え間ない怒りを感じているカイルにとって、これは数少ない癒しの時間と言える。

 レオナ達を抱いている時もそれはそれで癒されるのだが、あれはやればやるほど気が高ぶるところがあるので、リラクゼーション効果においては食事が一番であろう。


「カイル君、あーんしてください」

「こうか」

「育ち盛りですからね。たくさん食べてください」


 カイルの口に、アイリスがベーコンを放り込んでくる。ついでに指の先っぽも入ってきたが、確実にわざとやっている。うっとりとした顔を見るに、舐めてほしいのだろう。

 元は清らかな修道女だったはずなのに、すっかり好色になってしまった。カイルが躾けたせいもあるが、本人の素質も大きい気がする。


 ……指輪で吸った記憶によれば、アイリスは元々そっち方面の欲求が激しい性質だったようだし。


 カイルは、呆れながらアイリスの人差し指を吸った。

 肌にベーコンの塩っ気が残っていて、悪くない味だ。


「……あ、ああ……。カイル君、そんな……いけません、根本まで咥えたりしたら……」


 そういうのが好きなくせに。

 指を引き抜くと、アイリスは呆けた顔で固まっていた。体にスイッチが入ってしまったのかもしれない。

 やれやれ。また抱いてやらなきゃいけないのか?


「ちょっとちょっと! どさくさに紛れてイチャイチャしないでよね」


 いよいよ我慢の限界に達したのか、レオナが鋭い声を発した。


「……カイルは私のなんだからね。先生と付き合うところまでは認めてあげたけど、一番は私なんだから」


 正妻の座は譲れないようだ。

 レオナは眉を吊り上げ、四つん這いでにじり寄ってきた。何をするのかと思えば、口移しで水を飲ませるつもりらしい。


 またか、と思う。


 ここ数日、カイルは液状のものはほぼ全てレオナの口経由で与えられていた。

 無論、不快ではない。

 相手は極上の美少女だし、唇も唾液も舌がとろけそうなほど美味ときている。

 ただ、いささか食事の時間が延びることと、欲望に火が点いてしまうのが難点だろうか。

 

(俺も興が乗ってきたし、ここで抱いてしまうか)


 そういう日もある。二日に一度のペースで、ある。

 カイルは制服のボタンを外しながら、そういえばロゼッタが大人しいな、などと考えていた。

 普段ならそろそろ参戦してくる頃合いなのだが……。


「……」

「ロゼッタ?」


 おかしい。どうも様子が変だ。

 なにやら股の間に両手を挟み込み、もじもじと身をよじるような動作を繰り返している。

 一時間目の体育が終わってから、ずっとこの調子なのだ。

 やはり強制パンチラはやりすぎたか? とカイルが遅めの後悔をしていると、ロゼッタはとろんとした顔で言った。


「……赤ちゃんほしい」


 カイル、レオナ、アイリスの三人が凍り付く。

 赤ちゃんがほしい。お昼時に十四歳の少女が発する言葉としては、少々アンモラルすぎる内容だ。

 だが、獣人種の特性を思い出すと、ありえないことではない。


 人間族と違い――彼女達には、発情期が存在する。


「……あ、赤ひゃん。赤ひゃんほしい。カイルの赤ひゃん、ほしい……」


 ドロドロに蕩けた顔で、ロゼッタはカイルに飛びついてきた。

 四つ足になってカイルの腹に顔を埋め、はっはっはっ、と荒い息を繰り返している。口元はだらしなく開けられ、唾液が唇から顎へと伝い落ちていた。

 

 まるで雌犬が交尾相手を求めるような、はしたない動作だ。

 高く見積もっても「十二歳の夏休み」にしか見えない犬耳美少女が、校内で盛ってしまった。

 倫理観なんてクソくらえな大惨事である。


「なんでよ!? 予定日まではあと二週間近くあるはずでしょ!?」

「……日付……狂ったぁ……」


 レオナとロゼッタのやり取りに、なんだかその言い方だと別のものを連想してしまうな、と気不味くなるカイルだった。

 まあ女の子同士だし、そういう情報も共有するのかもしれないが……。


(手帳も見せてるのか?)


 獣人の女性は、誰もが「発情期手帳」なるものを持っている。

 毎日基礎体温をつけて計算し、次はいつ来るかを把握しておくためだ。

 ロゼッタはどうやら、本来想定していた日よりかなり早く始まってしまったらしい。

 

「どうして急にこうなったんだ?」


 カイルがたずねると、ロゼッタはふやけた顔で答えた。


「……ご主人様の、せい……」

「俺のせい?」

「……ご主人様が、強すぎて……格好よすぎて……理想の、雄すぎて……発情、させられた……」


 要するに、カイルを見ているうちにムラムラしたということらしい。

 強すぎるというのも考えものである。周囲の雌を無自覚に誘惑してしまうようだ。


「……あぅ……ご主人様、いい匂い……強い雄の、匂い……」


 ロゼッタはすんすんと鼻を鳴らし、カイルの体を嗅ぎ回っている。

 いよいよ交尾前の雌犬じみてきた。

 ついにはスカートをたくし上げ、子供パンツを惜しみなく見せつけるまでに至っている。

 

「……お、お願いしましゅ、ご主人しゃま……。お腹の赤ちゃんスタジアム、満員にしてください……始球式やって、ついでに子宮式もしてくだしゃい……」

「そんなことを言われてもな」

「……もう、限界、なの……」


 あまりの変わりように、レオナとアイリスはあんぐりと口を開けていた。知識として獣人の発情期を知っていても、実物を見るのは初めてなようだ。


「……ううう……ふううぅ……。今すぐ妊娠しないと、頭、馬鹿になる……っ」

「もうなってるだろ」

「……赤ちゃん……。赤ちゃん、ほしい……。ご主人様の、赤ちゃん産む……!」

「在学中に妊娠はよくないんじゃないか?」

「……やだ……妊娠しないえっちなんて、やだ……そんなの子宮の無駄遣い……」


 ロゼッタは完全に正気を失っているらしく、いよいよ土下座まで始めた。


「……お願いします……避妊しないでください……孕むまで、抱いてくらひゃい……今すぐ妊娠させてください……」


 参ったな、とカイルは額を抑える。

 実はロゼッタも、交流試合のベンチメンバーとして登録してあるのだ。球技に関しては素人だが、高い魔力と獣人の身体能力を有するため、ぶっちゃけその辺の男子よりはるかに使いものになる。

 なのに、ご覧の通り発情期に入ってしまった。

 これでは試合に集中するなど、不可能であろう。


 交流試合は一週間後に迫っており、戦力となりうる人材は少しでも使えるようにしておかなければならないのだが……。


(となると)


 やることは一つしかない。

 抱いて、すっきりさせるのだ。

 これからカイルは、意識のある間、常にロゼッタと交わり……性欲を解消させる必要がある。

 

「いいから避妊魔法を使え。すぐ抱いてやる」

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