転生のベルセルク ~俺をパーティーから追放した女勇者が死んだけど、実は愛する俺を守るため仕方なく追い出したのだと知り、過去に転生して二人の出会いをやり直すことにした~
第25話 問一 「私いくつに見える?」に最も無難な答えを述べよ
第25話 問一 「私いくつに見える?」に最も無難な答えを述べよ
三次試験はペーパーテストである。
他の生徒達はどんな難問がくるのかと体をこわばらせているが、カイルはどんな問題も解けるという確信があった。
なにしろ指輪の効果で、最強の神官と魔法使いの記憶を移植されたのだ。
知識人の英知が、二人分も頭に刻み込まれているのである。
(余裕だな)
ぱらりと試験用紙をめくり、流し読みを開始する。
『問1 この中から歴代最高の勇者とされる、王都出身の人物を選びなさい』
A:アラン・ジャスティス
B:アルス・ストライク
C:クラウド・リード
は? 歴代最高の勇者はレオナ・ブレイブだろ? それが選択肢に入ってないとは何事だ? この問題考えたやつ誰だよ、ブン殴ってやる。
カイルは一瞬にして怒り狂ったが、すぐにこの時代のレオナはまだ勇者ではないと気付き、冷静になった。
(……そうだ。この世界は誰もレオナの活躍を知らない)
前世の頑張りは、全てなかったことになった。
……でも、カイルは覚えている。だからせめて、あの少女を大事にしてやろうと誓う。帰ったら三十回抱いてあげよう。
まあそれを言うなら、アイリスやロゼッタも同じ境遇なのだが。
だからアイリスも三十回抱いてあげよう。
(残るはロゼッタか)
さすがにあの少女まで自分に惚れることはないだろうが、もし再会できたとしたら何をしてやろうか。
一周目のロゼッタは、カイルに友情を感じていたようなのだ。
なので二周目の世界では、なるべくよい境遇にしてやりたい。
恋愛感情の絡まない女友達というのは、貴重な存在だ。
そんなことを考えながら、カイルは解答欄を埋めていった。
なお、この試験の担当官はアイリスである。
コツコツと足音を立てながら教室を巡回し、不正行為がないか目を光らせている。
「あら」
アイリスはカイルの前にくると、かがみ込んで何かを拾うような動作をした。
いやにわざとらしい。
不審に思ったカイルが顔を上げると、机の上に小さな紙切れが置かれていた。
まさかカンニングペーパーだろうか? そっと覗き込んでみると、
『あとでお話があります。昼休みになったら屋上に来てください』
と書かれていた。
「やっぱカイルはぱねぇなあ……よりによって満点かよ」
「なぜだ……なぜだなぜだなぜだ! 一日十時間の勉強をこなしている僕が、なぜあんな体育会系に負ける!?」
「そら、ピッチャーってのはいくつもサイン覚えなきゃなんねーからな。本当に頭まで筋肉だったら使い物にならねえし」
昼休みになる頃には、もうテストの結果が張り出されていた。
カイルは全問正解で、ぶっちぎりの学年一位。
二位はガリベン・ノイローゼスなる眼鏡の男子なのだが、今まさに発狂して保健室に運び込まれているところだった。「なぜだ」を連呼していた、例のあいつである。
こんなのはよくある光景なので、一々構ってられない。二日に一度はこのイベントが起きるのだ。
あの眼鏡も飽きないよな。と、カイルは呆れた思いで階段に足をかけた。
少し後ろを、昼食を抱えたレオナがついてくる。
二人が向かう先は、屋上だ。
ランチついでにアイリスと話を済ませるつもりなのだ。
「話ってなんだろうな」
「えっちしたいんじゃない? 我慢できないんでしょ」
レオナはすっかりアイリスをふしだらな女と決めつけているようだった。あるいは自分がしたいことを口にしているだけなのか。
「俺は違うと思う。わざわざ試験中に、リスクを背負ってまで誘いをかけてくるか? 大体、夜になったらまた三人でする約束だろう。こんなことをせずともあいつは俺に抱いてもらえるんだ」
「えー……? 私だったらどんな危険を背負ってでもカイルを誘うけど……急に明るいうちからしたくなることくらいあるでしょ。私なんて二時間に一度はそういう気分になるし」
……前世では勝気な女勇者だったのに。
どうしてこう、交尾以外何も考えられない少女になってしまったのか。
二周目のレオナは、あまりにも性欲過剰な気がする。一体どんな育ち方をしたのやら。
わけがわからんな、とカイルは首をひねりながら屋上のドアを開けた。
空は高く、雲一つ見当たらない快晴だ。
アイリスは入り口のすぐ横に腰かけていた。尻の下にはハンカチを敷いている。お嬢様然とした振る舞いが身しっかりとについているようだ。
「早いですね」
パンをつまみながら、うら若い女教師は楚々とした笑みを浮かべた。
昨晩の乱れ具合が嘘のようだ。
「話とはなんだ?」
カイルはすたすたとアイリスに近付き、隣に座り込んだ。
レオナもまた、足元にお盆を置いて女の子座りをする。
「……カイル君に見せたいものがあります。あ、ご飯食べながらでいいですよ」
その言葉をきっかけに、レオナは慣れた手つきでカイルに昼食を食べさせ始めた。パンを一口大にちぎり、口元へと押し込んでくる。飲み込んだのを確認すると、今度は口移しでスープを飲ませてくる……。他の男子達が見たら卒倒しそうな、かいがいしい女房ぶりであった。
「これを読んでほしいのです。あとレオナさん、少し自重しましょう」
言って、アイリスは懐から一枚の手紙を取り出した。
どこか見覚えのある字体で、『賢者カーライル』と書かれているのが見える。送り主の名前だろうか?
「……カーライル」
「びっくりしましたよ。本文はもっと凄いです」
カイルは手紙を受け取り、すぐさま目を通し始めた。
結果――何重にも衝撃を受けることとなった。
(何がどうなってる)
まず……筆跡がカイルの書く字とそっくりなのである。
右上がりに傾く癖も、強めの筆圧も、何もかも似ている。
さらに書かれている内容も、カイルを酷く動揺させた。
『久しいな、校長。
突然で申し訳ないが、ワシが目をかけている弟子をそちらに編入させて頂きたい。
長年指導をしてきたのだが、本業が魔法使いではないワシではそろそろ面倒を見きれん。
もちろんタダでとは言わぬ。学費はまとめて納めるし、寄付金もたっぷりと送る。
弟子の名はロゼッタ・コロン。まだ十四歳だが、一歳くらいの違いならばごまかしが効くだろう。
ワシとそなたの仲だ、なんとか融通を効かせてほしい。
ロゼッタはまだ若いが、いずれ糞カスの魔王をブチ殺すのに必須の人材となるはずだ。
くれぐれも頼んだぞ。
――賢者カーライルより』
この手紙は何を意味しているのだろうか。
カイルと全く同じ筆跡……にも関わらず、年配の人間であるかのような雰囲気が漂っている。
「校長に聞いてみたところ、賢者カーライルさんは古い知り合いなのだそうです。……彼は青春時代を魔物退治に捧げ、王都に平和をもたらした英雄だとか」
「なぜそんな男が無名なのだ」
「……二十代半ばほどで王都を去り、山奥の工房で研究に浸るようになったらしいのです。五十年も前の話です。おかげで若い世代は彼を知りません。私もさっき初めて知りました。私若いので。まだ十八歳なので。少女なんですよこれでも。わかりますか? 教師という職業のせいか年上に見られがちですが、若いんです。もう二十代に間違われるのは嫌なんです。人妻じゃないです。未亡人でもないです。なぜ男性からそういう属性を期待されるのか、全く理解できないのです。教頭先生が私を一目見て『お子様はいらっしゃいますか?』と聞いてきたのが、今でも納得いきません。私の実年齢なら、学院の制服だって着こなせると思うんです。私、別に老けてないですよね。カイル君は私がいくつに見えますか」
「少し落ち着け」
男からすると、女に「私何歳に見える?」と聞かれても答えようがないのだ。
何を言っても間違った回答になりそうだし。
「アイリスの外見年齢は人によって解釈が分かれるだろうが、美人に見えるのは間違いない。それでいいだろう? 本題に戻るぞ。賢者カーライルとやらがしていた魔物退治は、まさかオーク殺しだったりするのか」
「……え? えへへ? 私そんな風に見えてるんですか? ああはい、カーライルさんの話でしたね。ええ、そうです。よくわかりましたね。彼はオークに壮絶な憎しみを見せ、一時期は絶滅寸前にまで追い込んだそうですよ。近頃また増えてきたようですが」
「……ふむ」
カイルは眉間にしわを寄せて考える。
この男と自分の関係性は――
「カイル君、カーライルさんの正体は……貴方の祖父なのでは?」
アイリスは確実に間違ってるであろう解釈をし、レオナはまたまた口移しでスープを飲ませてきた。
もうすぐロゼッタが、この学校にやって来る。カーライルの素性はその時に聞けばいい。
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