転生のベルセルク ~俺をパーティーから追放した女勇者が死んだけど、実は愛する俺を守るため仕方なく追い出したのだと知り、過去に転生して二人の出会いをやり直すことにした~
第22話 フルスイング剣術は現代剣術を圧倒する
第22話 フルスイング剣術は現代剣術を圧倒する
「ヒャッハアアアアアアァ!」
先に動いたのはバルザックである。
血走った眼を光らせ、猛烈な勢いで斬り込みをかけてくる。口元からはだらだらと涎を垂らしていた。
実はお前のジョブも狂戦士なんじゃないか? と言いたくなるような狂態だ。
しかし見苦しい外観とは裏腹に、剣の軌道は人知を超えた精妙さを誇っている。
(……確かにこれなら剣聖だ)
右の長剣で神速の突きを繰り出し、左の短剣で常に頭部付近をガードする慎重さ。
攻防ともにバランスの取れた構えで、およそ隙らしい隙が見当たらない。
もはや盾を装備している状態に近く、一本の剣しか持たないカイルからすれば厄介な相手であろう。
もっともそれは、カイルが並みの使い手だったならの話だが。
(二刀流。この時代では最強の剣術かもしれないが、数年後に対策法が出てくるんだよ。お前は知らないだろうがな)
両手に剣を持てば、手数が増えるのは当然だ。
左手のソードブレイカーで撹乱し、場合によっては相手の剣を絡め取り、折ることだってできる。
打ち合いや鍔迫り合いにおいて真価を発揮する流派なのだ。
ならば、そんなチマチマしたチャンバラには付き合わなければいい。
つまりは一刀両断こそが最高の対策となる。
カイルは数年後に発明されるであろう、改良された強化術式で腕力を増大させた。
誰も想定していなかった筋力が、骨太な両手剣に上乗せされる。
(それだけじゃない)
カイルは小声で雷魔法を詠唱し、体内に電流を送り込んだ。
電気刺激によって強制的に収縮した筋肉は、脳が送り出す命令よりもさらに速く剣を振るう。
これは死んだレオナが使っていた技だった。
「――フッ!」
もらった。
短く息を吐き、気合を込めた一閃を放つ。
「な、なんだあのスイングスピードは!? 視認することもできないぞ!?」
「あの調子だと上位打線もいけそうだな」
「エースで四番か。ははっ、笑っちまうよ。あいつがいると、一人だけ別の競技をやってるみたいに見える。あれはもう野球じゃねえ……もっと恐ろしい何かだ」
「いや実際に野球じゃなくて剣術やってんだけどな。なんでも野球に繋げる俺らがおかしいんであって」
魔法硬球部の連中が解説を終えた瞬間、カイルは剣を下げた。
それは勝敗が決したことを意味していた。
「止まって見えるぜカイルゥゥゥ!? 動けねえぇのかよお!? だろうなぁ、オレ様の剣は王都最速! どうだぁ、速すぎて手が見えねえだろぉ!?」
バルザックは、文字通り見えない攻撃を放っていた。
たとえカイルの動体視力でも、今だけは彼の剣を捉えられないだろう。
なぜならバルザックの両腕は、肘から先が綺麗さっぱりなくなっているのだから。
未だそのことに気付かないらしく、誰にも見えない剣技を披露し続けている。
まさに道化である。
「ヒャハハハハ! 今日は絶好調だぜぇ! なんたって剣の重さを感じねえんだからなぁ! ……あん? 重さっつーか……感覚自体がない……?」
バルザックはようやく動くのを止め、不思議そうに己の手を見つめていた。……すっかり短くなった両腕を。輪切りになった断面を。白い煙を上げる、真っ黒に焼けた傷口を。
「あ、ああ……? 俺の手……? 俺の、手エエエ!?」
カイルは剣を鞘に納めると、足元を見下ろした。
そこにはバルザックの両手が、無造作に転がっている。
これまで何度も生徒達を刻んできた、汚れた両腕。
カイルはそれを、ゴミのように蹴り飛ばした。
握られっぱなしのロングソードとソードブレイカーが、カラカラと空しい音を響かせる。
「い、医療班! 治せ! 俺の腕を治せ……! 早くしろよぉ!」
バルザックの悲壮な叫びを受け、パタパタと生徒達が駆け寄ってくる。全員が上級生で、負傷者を手当てするために待機してたようだ。
「駄目です! 効きません! どうしてこんな……」
「て、てめえ! 今まで何習ってきたんだ!? 治せ、さっさと治せよお! あのバカガキを斬るには腕が要るんだよぉ!」
治らないぜ、とカイルは呟く。
バルザックは、ゆっくりと首を動かしてこちらを向いた。屠殺を悟った鶏のような、怯えきった表情をしている。
「その傷口は、普通の魔法じゃ治療できない。刀身が電気で熱を帯びていたからな。切断と同時に肉を焼くんだ。ほら、焦げ臭いだろう?」
回復魔法があるにも関わらず、この世界には隻腕や隻眼の人間が存在する。
それは回復魔法の「生きた部位を治す」という特性のせいであり、殺し尽くされた部位は新たに生み出すしかない。
そして人体をゼロから錬成する手段は、この時代ではまだ見つかっていない……。
「なに言ってんだ……? 剣にそこまでの雷魔法を乗せる技術なんて、あるわきゃねーだろ……ましてや魔法剣士でもない、狂戦士のお前が……た、体術特化で補欠合格者のお前が……!」
カイルはすらりと剣を抜くと、高々と掲げて先端に雷を落とした。
刀身に稲妻が吸い込まれ、紫電が全身を覆う。
神話の如き雷をまとえることを、一瞬で証明してのけたのだ。
「理解したか? このくらいの電流、いつでも剣に込められるんだよ。お前の腕は完全に焼き殺されている。既存の技術では治らない」
「あ……あ……なんで……雷が落ちて、平気なんだよ……」
絶縁体魔法などと言ったところで、こいつにはわかるまい。
それは三年後のレオナが生み出す技術なのだから。
「ところでバルザック。俺の知ってる魔法なら、何もないとこから人体を錬成できるんだ。ほんの一部分だけどな。……お前の腕を繋げるくらいなら、なんの問題もないだろうな」
切り落とされた腕と断面を接着する部分だけ、人体錬成で作り出せばいい。
仲間達から受け継いだ知識と元錬金術師のキャリアを生かせば、造作もない。
「そ、そうか。なら早くやってくれ! お前には単位をくれてやる……最高点だって与えてやるから! 早く……早く早く! 早く!」
お前なんか勘違いしてないか? とカイルは首を傾ける。
「選ぶのはお前じゃない、俺だ」
「は……?」
「二度とアイリスにちょっかいを出すな。女子生徒にもだ。金輪際ばかげた真似をしないと誓えるなら、腕を繋いでやってもいい」
「……お前、何を……?」
カイルの持ちかけた取り引きに、女子達が「お?」という反応を示した。いいぞもっとやれ、と期待しているような目だ。
「さっさと返事を聞かせろ。俺はそんなに気が長くないんだ。……そうそうバルザック。ちゃんと入学案内は読んだか? 実戦訓練の最中、『生徒が教師を傷つけた場合』も学院は責任を取らないらしいぜ? 不慮の事故として扱うそうだ。……お前、足も切り応えがありそうだよな」
「ひっ……ひぎい……っ!?」
バルザックの股間に、生臭いシミが広がっていく。
失禁したようだ。
「……ちっ、誓う……。誓い、ます……もうアイリス先生には、近付かない……」
「それだけじゃないだろ?」
「……もう、女子更衣室を覗いたりしない……」
「そんなことまでしてたのか。やっぱりこのままにしといた方がいいんじゃないか? お前が腕を取り戻したらまた変質行為に及びそうだ」
「カイルゥ! 後生だ……! 俺が学院にいる間は、ずっとお前に単位をやる! たとえ授業をサボろうともだ! 頼む、腕を……腕をつけて……」
「……やればできるじゃないか」
カイルはバルザックの腕を拾い上げると、その場で治療してやった。
剣術試験はそこで終わり、カイルは満点評価を受けた。
(こんなもんか)
鐘が鳴り、教室に戻る。
すると机の中に、数枚の手紙が入っていた。
どれも女子の筆跡で「好きです」と書かれており、レオナを大いに妬かせることとなった。
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