第20話 二人の彼女

 気が付くと、窓の外は真っ暗になっていた。

 三人で愉しんでいる間に、かなりの時間が経過したようだ。


(やれやれ)


 一仕事終えたカイルは、一糸まとわぬ姿で床に寝そべっていた。

 さすがに直で寝る気にはなれなかったので、背中に制服を敷いてある。きっと皺だらけになっていることだろう。

 あとでアイロンをかけなければ。そんなことを考えながら、魔法で天井のランプを点ける。


着火ファイア


 シュボッ! と小さな炎が灯もり、部屋の中が明るくなる。

 オレンジ色の光は、カイルの腕に絡みつく艶めかしい少女達を照らし出した。


 右腕にしがみつくレオナ。

 左腕にしがみつくアイリス。


 カイルを挟んだ状態で、気恥ずかしそうに互いの顔を見ている。


「……カイル、凄かった……」

「……初体験で、他の女の子ごと抱かれるとは思いませんでした」


 カイルはレオナ達を、思う存分満足させてやった。

 二試合連続の完投勝利であった。決め手は緩急だった。


 途中で盛り上がってきたため、三人揃わなければできないアレやコレなんかもやってしまった。

 手や口の数がいつもより多いと、一気にできることの範囲が広がる。

 

「お前達もやるじゃないか。中々息の合った連携だったぞ?」


 ニヤリと笑ってからかうと、レオナは瞬時に赤くなった。「感想は?」とたずねたところ、「わ、悪くなかった」と返ってくる。


「……うう……こんな……こんなはずじゃなかったのに……」


 両手で顔を覆うレオナの頭を、そっとアイリスが撫でる。

 まるで姉が妹を労わるような手つきだ。


「可愛かったですよ?」

「……さっきまでヴァージンだった人の台詞じゃない……っ」


 レオナは猫パンチのような動きで、アイリスの肩をぺしぺしと叩いていた。

 なんだか一周目の世界を彷彿とさせるやり取りである。

 

「あの。前にもこんなことありましたっけ? ……なぜだか私、レオナさんが古い知り合いのように思えてならないのです……」

「……私も……」


 カイルを挟んで、二人の美少女は困惑した顔を浮かべている。

 肌を重ねたせいか、随分と距離が縮んだようだ。

 

「俺の見込み通りだな」


 カイルは、レオナ達の髪を弄びながら言った。


「お前達なら親友になれるはずだ。三人で上手くやっていこう」

「……か、体の相性がよくたって、中身もそうとは限らないし。私、大人しい女の人とウマが合ったことって一度もないんだけど」

「アイリスの本質は鬼だぞ。多少育ちが違おうと、人間の本質は変わらない。この数時間でよくわかった」


 散々レオナをリードしてたしな、とは口にしない。

 エチケットである。

 

「アイリスのあの手つきは、とても自死を考えていた者の動きではない。腹を割って話してみろ。こいつはお前好みの強い女だと実感するはずだ」

「どういうことよ?」


 不思議がるレオナを他所に、アイリスはぽつぽつと語り始める。

 なんでも大人しく退職届を出しに行くと見せかけて、職員室に置いてある棍棒を取ってくるつもりだったらしい。頬に手を当てて「これはもう無理心中しかないと思ったんですよね」と微笑む姿は、底知れぬ迫力がある。

 

「い、いい度胸してるじゃない。人の恋人をあの世にさらってくつもりだったとはね」


 レオナは呆れ顔で言った。

 だが口調ほど怒っておらず、以前よりアイリスに好感を持っているのは節々から伝わってくる。

 レオナが肝の据わった女性に好意を抱くのは、指輪から授かった記憶で知り抜いていた。


(もう一押しだな)


 前世の世界では、レオナとアイリスは姉妹のような仲だったのだ。

 きっかけさえ作ってやれば、距離が縮むのはわかりきっている。


 カイルは、二人が興味を持つであろう話題を提供してやった。

 はじめこそぎこちない雰囲気だったが、すぐにレオナ達は談笑に花を咲かせるようになった。なぜこんなに気が合うのが不思議でならないといった様子だが、まさか彼女達の内面を知り抜いた人間が誘導したせいとは思うまい。

 

「えー……それほんとに?」

「はい。酢漬けにすると美味しいんですよ」


 自分を愛する女達が、仲睦まじくじゃれ合っている。

 なんと美しい光景なのか、とカイルは胸を打たれた。

 前世で味わった苦痛が、洗い落とされるかのようだ。話題がゴブリンの撲殺談義でなければ、もっと


 このままずっと眺めていたいが、とうに日が暮れている。

 残念ながらここらが潮時だろう。

 カイルはお喋りに興じる少女達に、最終確認を行う。


「じゃあ、二人とも俺と付き合うってことでいいんだよな?」


 レオナとアイリスは、照れくさそうな顔で見つめ合っている。


「……まあ……カイルがどうしてもって言うなら」

「私はカイル君の傍に置いてもらえるなら、それでいいです」


 いい子だ、とレオナ達の頭を撫でる。


「その代わり、ちゃんと毎日してよね? 彼女が増えたからって隔日は許さないんだから」

「わかってる。さ、帰るぞ。そろそろ外の連中に不審がられる」

「……ん……もうちょっとくっついてちゃ駄目?」


 レオナはまだ物足りたいのか、甘えるように頬をすり寄せてきた。

 こういう仕草をすると、本当に可愛らしい。

 やはり自分が愛しているのはこの少女なのだ、と実感する。


(レオナを贔屓しているのが伝わったら不味いな)


 やむをえまい。

 今日は二人とも寮に持ち帰って、均等に弄り倒すとするか。

 普段レオナが味わっている幸せを、アイリスにも体験させてやらねば。


 カイルはさっそく二番目の女に命じる。


「お前、今日は俺の部屋に泊まれ。レオナとセットでかわいがってやる」


 はい、とアイリスは即答した。

 レオナは一瞬だけ嫌がるそぶりを見せたが、「宿題見てあげますよ?」という教師ならではの取引を持ちかけられ、引き下がっていた。

 

「そうとなったら着替えですね。ほらレオナさん、体起こして」

「……もう。先生ってばお母さんみたい。子ども扱いしないでよ」


 二人の彼女は向かい合って着替えを手伝い合い、それが済むと今度はカイルに服を着せてきた。

 

 素晴らしい、一周目よりもさらに深い絆で結ばれたパーティーではないか。

 カイルは己の仕事に満足感を覚えながら、肌を滑る指の感触を味わっていた。

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