第19話 姉妹丼(義理)

「いや、辞める必要はない」


 カイルの発言に、少女達の注目が集まる。

 レオナとアイリス。

 前世の仲間……しかも絶世の美少女である両名が、なぜか同時に自分に惚れてしまった。

  

 これはとんでもないことになったな、とカイルは苦笑する。

 予想外の展開だが、だからといって慌てたりはしない。

 どんな時も、たった二つの理念に従えばいいだけの話なのだ。

 即ち「魔王を殺す」「レオナを守る」。それらの目標を完遂するには、どう立ち振る舞うべきか。


 アイリスは戦力として有用な人材である。今後も魔法指導を行わなければならないし、手放すわけにはいかない。

 この女に退職を思いとどまらせ、レオナも納得させるにはどうすればいいか。

 カイルの頭には、ある解決策が浮かんでいた。


「よくわからないが、お前は俺が好きなんだな?」


 はい、とアイリスは申し訳なさそうに頷く。声は震えていた。

 

「仮に学院を辞めたあとは、どういう身の振り方を考えてたんだ?」

「……それは……」

「俺に言えないようなことか」


 その言葉をきっかけに、アイリスはせきを切ったように嗚咽し始める。私、駄目な女ですから……。修道女も、教師も、向いてないですから……。死んだ方、いいですから……。

 涙声で吐露される本心は、危うい精神状態を示している。


 修道院に出戻りする、というなら放置しようかとも思っていた。それならば再開された修業で才能を開花させられるからだ。

 だが、自殺を仄めかしているような状態となれば見過ごせない。

 レオナですらオロオロとしているくらいだ。


「な、何も死ななくたっていいじゃない。たった一回の人生なんだし、先生はまだ若いんだし……」


 恋敵を心配するとは、人のいい少女である。まるで妹が姉を労わるかのように、背中をさすって慰めている。

 レオナとアイリスは前世で親友だったのだし、何か惹かれ合うものがあるのかもしれない。


 そうとも。この二人は本来、性格的な相性は悪くない……。

 やはりこれしかないようだ。

 

 カイルはおもむろにレオナとアイリスを抱き寄せると、断固たる意志で告げた。


「――わかった。俺は、お前達両方と付き合う。今日からは二人とも俺の彼女だ」


 は? と少女達の声が重なった。何がわかったの? それなんにもわかってなくない? と。

 一分……二分と、永遠にも感じられる沈黙が流れる。


 やがて真っ先に正気に返ったレオナが、猛烈な勢いで叫び出した。


「何言ってんの!?」


 が、カイルは平然としている。

 それもそのはず、この国は一夫多妻を認めているからだ。


 ただし相手の女性達を納得させ、全員を平等に愛するという制約を守らねばならないが。

 まあとにかく、そこまで素っ頓狂なことを言っているわけではないのである。

 もっとも、学生の身分で複数の恋人を持つのは前代未聞だが。


「無理……ありえないから! そんなの絶対やだ! カイルは私だけのものだもん!」


 そうくると思ってたさ、とカイルは笑う。

 年頃の少女としては、至って自然な反応だ。そうでなければ人間とは言えない。

 いくら制度で認められていようと、自分の彼氏が側室を作るなんて受け入れがたいものだ。


(恨むなよ)


 けど、他に方法がない。

 カイルと結ばれなければ、死を選ぶアイリス。生涯守り抜くと決めたレオナ。

 全てを丸く収めるためには、全員で交際するしかないだろう。

 

 説得は……体でするのが一番手っ取り早い。


 カイルはレオナとアイリスの頬を密着させると、二つの唇を同時に吸った。

 三人の舌が絡み合い、唾液が口内で混じる。

 少女達の蜜は、互いの甘さを引き立てているかのように美味だった。

 こんな時に抱く感想ではないが、これほどの御馳走は初めてだ。


「んー!? んー!?」


 レオナはドンドンとカイルの胸を叩いて抗議していたが、すぐに大人しくなった。

 毎日気を失うまで抱いているせいか、口付けだけで従順になってしまうらしい。

 アイリスはというと、うっとりした顔で目を閉じている。聞き分けがよろしくて大変結構だ。


(早い方がいい。ここでするか)


 カイルは部屋の入り口に結界を張って、誰も中に入ってこれないようにした。

 音も光も外に漏れないようにする、高等魔法。現在普及しているどんなものより性能がいい。


 だからどこでそんな魔法知識を身に着けたの、と不思議がるレオナの服を、一枚一枚ひん剥いていく。

 続けてアイリスのスーツとタイトスカートを脱がし、しゅるりしゅるりと肌を露出させていく……。

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