第5話 ライセンス、ゲット!

 フィールドの中央に土煙をあげて着地したのは、黒いロングヘアーの女性だった。あざやかで赤いスーツが存在感をはなつ。シャープな襟、なめらかなブラウスは豊かな胸をピッタリとしたラインで強調する。すばらしい。それでいて細いウエスト……短いスカートから伸びる脚、ニーハイの絶対領域がまぶしい。すごくすばらしい。たいへんすばらしい。

 この機会に正直なことを言うと、俺はこういったスタイルのお姉さんがどストライクだ。


「……セルミくん?」

『ハッ!?』

 突然の声に心臓をつかまれたようだった。後ろでシンシアが怪訝な表情を浮かべてじっと見ている。

「なにを真剣に見ていたのかなぁ?」

 ああ……顔が熱い。セルミラージュが表情のわからないタイプの顔で助かったかも。もし人間のころの俺なら、きっと鼻の下をのばしていたにちがいない。シンシアに見つめられてもムズムズするし、今の俺はカードだが、魂は若さほとばしる一人の男子なのだ!

 そんなこんなでオロオロする間に、お姉さんが俺の目の前をスタスタと横切り、シンシアの前で両腕をひろげてみせた。



「ゲストのデュエリスト様、おめでとうございます。すばらしい勝利でした」

「あ……ありがとうございます!」


「おっと、申し遅れました。わたくし、デュエルTVより本田雄一郎様の専属スタッフをつとめておりました、襟元舞えりもとまいと申します。どうぞお見知りおきを」

 とても礼儀正しいお辞儀をするとバストがよりすごい。舞さん……俺は覚えておくぜ!

「ゴールド・ライセンスの所有者に勝利したことで、あなたは”ブロンズ・ライセンス”を持つ権利を持ちました。今すぐに発行できますよ。まあ辞退も可能ですが、このさきも熱いデュエルを希望されるのであれば、またとないチャンスと思いますね」


 ずいぶんと煽るんだな。ゲストがゴールドに勝ってデビューとなれば大型新人登場、ホットな話題になるってわけか? デュエリストの道はけわしい。ライセンスを持つプロとなればなおさらだ。シンシアにその意思があるかどうか……人生を左右する選択、即答はむずかし――


「やります。ボク、プロのデュエリストになります!」

『即答かよ!』

「グッド! すばらしい返事です!」


 いうなりシンシアの手を取った舞さんは、小さな手の甲を指でなぞった。すると淡い光を放つ紋章があらわれた。本田のものと色違いのブロンズ・ライセンス。新たなプロ誕生の瞬間だった。


「これでライセンスはあなたのもの。自分の意志で消す・出すも自在です。デュエルスペースを展開するときは、その意思を言葉で示してください」

「わぁ……!」

 シンシアは初めてマニキュアを塗った子供のように自分の手をしげしげとながめた。俺は少しだけ感慨にふけった。これから彼女はデュエリストの道を歩んでいく。今回のデュエルとはくらべものにならない試練が何度もやってくるだろう。できる限りのサポートをしよう。そして願わくば”唯一なるもの、セルミラージュ”の強さを世の中に示したい。俺の見つけた戦術が、世界に通用するものだと証明するんだ。


『フフフ……』

 人情と野心、か。最高だぜ。



 デュエルスペースに表示されていたすべての【WINNER:GUEST】がピカピカと点滅し、名前の部分が変わる。


【WINNER:すばるシンシア】


「あっボクの名前!?」

「デュエルTVの情報網をもってすれば、あなたの素性を調べあげるくらい造作もありません」


 さらに舞さんは耳元に口をちかづけてささやいた。観客には聞こえないだろうが、俺の耳にはかすかに聞こえた。

「ましてやあなたは昴コンツェルンのご令嬢。わたくしもお顔はよく存じあげております」


『なにぃーーーー! 昴コンツェルン!? よく広告で見るあの有名な!?』

 世界有数の大企業でありグループの親会社。あまりに巨大で広く活躍しているだけに、名前は知っているが何をしているところなのか……少なくとも俺はよく知らない。とにかくどこでも見かける。デュエルTVの広告枠でもすっかりおなじみだ。

 まさかシンシアがそこの親族だったとは。


「セルミくん、ごめんね。隠すつもりはなかったんだけど、いきなりデュエルになっちゃって自己紹介の時間がなかったんだ」

『あ、ああ……気にしてないぞ。俺もどうしてカードになってるのか説明してないしな』


「? シンシア様、誰と話をしているのですか? まさかモンスターカードに?」

「そうです。ボクが勝てたのはセルミくんのおかげでした! 最初にテキストを読んだときから何かすごいことができそうって思ってて!」

 身ぶりを交えて楽しそうに話す姿が女の子らしいなと思った。最初に出会ったときは男だと思ったくらいなのに、それを忘れてしまいそうなほど可愛い。


「あー……まあ特定のカードに思い入れを持つデュエリストも珍しくありませんよね。あの、わたくしは次の仕事がありますので……」

 シンシアの押しの強さに、舞さんもたじたじといった感じだ。いかにもな作り笑いを浮かべ、彼女はくるりと身をひるがえし本田のもとへと歩んでいった。まだ放心状態のようだが……。


「セルミくん、体が!!」

『ん?』

 声をかけられたことで、俺の体から煙があがっている――いや、煙に変わりつつあることに気づいた。だが不思議と焦りはない。カードになったからなのか、なぜなのかはっきりとわかる。

『……心配いらない。デュエルが終わったからカードに戻るだけだ』

「お別れじゃないんだね?」

『もちろんさ』


 セルミラージュの実体が消えると同時に、意識がグンと引き寄せられる。デュエルを終えたカードたちが彼女の手に回収される。俺もそのうちの1枚だ。

「これからもよろしくね」

『ああ!』


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