第4話 勝利!
俺=”唯一なるもの、セルミラージュ”の姿は液体金属が人の形をしたような姿をしている。
新たな次元へと飛び立つ心地だった。俺の魂が、フィールドに出現したセルミラージュへと憑依したようだ。すぐ後ろにシンシアが、前方に本田が見える。
シンシア……初めてのデュエルでどれほどワクワクしただろう。それを勝利で、しかもかつて俺が考えたコンボのひとつで決められると思うと胸が熱くなる。
「ブハハハハ! なんと”唯一なるもの、セルミラージュ”が出てくるとは! 笑いが止まらんな!! 大げさな名前もレアリティもすべてハリボテ。10円コーナーに置かれていたことがすべてを物語っておるわ!」
「値段が安くても強いカードはあるんだよ! セルミくんは強いんだから!」
「ふん、どうせ攻撃力100しかないザコモンスター。どんな能力を持っていても無駄なこと! なによりそいつは10円、10円なのだあっ!」
安いカードは弱い。本田の考えは変わらないようだ。なら体にたたきこんでやろう。
『次だ、シンシア!』
「マジックカード”夜更けのひらめき”!」
――――――――――――――――
【夜更けのひらめき】
マジックカード(即時)
あなたは手札を全て捨て、デッキからカードを7枚引く。そのあと、あなたは手札をすべて捨てる。
――――――――――――――――
このカードは手札だけでなくデッキのカードをも墓地に送ってしまう。ただ使っても損をするだけ。ほかのカード……たとえば墓地のモンスターを復活させるマジックカードと組み合わせて使うものだ。つぎつぎに手札を捨てていくシンシアを見て、本田が指をさして笑い声をあげた。
「ブハハハハ! 自ら手札を捨てにいくとは。降参のつもりか? そんなことをしなくとも、手のひらを3秒だけデッキにのせればよい。デュエルスペースではそれが合図だぞ。どうだ、我とのデュエルは勉強になっただろう!? ブハハハハハ!!」
「これから勝つのに降参なんてするわけないよ! 今ボクは手札をぜんぶ捨てたけど、それは夜更けのひらめきの効果じゃない。マジックカードの発動、その効果に”カウンター”でセルミくんの特殊能力を発動したんだ!」
「なにぃ!?」
「ボクが手札を捨てたのはセルミくんの能力のコストだよ!」
攻撃力と防御力が低く貧弱なモンスター。パワーアップ能力もコストがきついくせにわずかな上昇量。伝説レアのくせにまったく使い物にならない。それが世間の評価だった。だが、意識すれば手札と墓地をかなり増やせる。そう、たとえば夜更けのひらめきを使えば!
「最初に手札を2枚捨てて400のパワーアップ!」
――――――――――――――――
【唯一なるもの、セルミラージュ】
攻撃力:100+400 防御力:200+400
――――――――――――――――
「さらに墓地のカード19枚を追放して3800のパワーアップ!」
「さ……3800だとおおおお!?」
――――――――――――――――
【唯一なるもの、セルミラージュ】
攻撃力:100+400+3800 防御力:200+400+3800
――――――――――――――――
「マジックカード”奇襲”の効果で相手のライフポイントに直接攻撃できる!」
『100点満点だぜシンシア! さあ、攻撃宣言を!』
「セルミくんで本田雄一郎を攻撃!」
カードとしての本能が俺にやどったのだろうか。シンシアの叫びが心をとてつもなく震わせる。技の出し方もわかる。両腕を本田にむけて意識を集中させた。セルミラージュは”過去”と”未来”を”今”に集めて放つモンスター!
『墓地は過去――手札は未来――すべての時間を――今ここに!
右手に捨てた手札のエネルギー、左手に追放したカードのエネルギーがうずまく。ふたつの時空が渦をまき、まるで遺伝子のような形の特大ビームとなって、本田を飲みこんだ。
「ブハァァァァァァッッ!?!?」
【本田雄一郎のライフポイント:0】
彼のフィールドのカードたちが、煙となって消えた。そして闘技場の上空にデュエル結果が大きく映しだされた。
【WINNER:GUEST】
「や、やった……」
観客席にいる視聴者のアバターたちの頭上に拍手のスタンプが舞う。
デュエルTVでは、観客のアバターたちが送信したメッセージ・スタンプも具現化する。このデュエルスペースの上空を舞う対戦者たちへの声援と観客同士の会話。これこそがデュエルTVによる新次元のエンターテイメント。世界がウィザーズ・ハンドに熱狂する理由だ。
《ゲスト君おめでとう》
《えげつない墓地利用》
《惚れました》
《本田の自滅だろ無駄に敵の墓地増やしすぎ》
《まって本田雄一郎ってゴールド・ライセンスだったよね?》
《弱すぎワロタ》
シンシアは勝利をよろこんでいるようだったが、敗者を笑うメッセージを見て本田のほうを心配そうに見やった。彼はぼうぜんと膝をついたまま動かない。
「あの人、すこしはわかってくれたかなぁ?」
『さあ……それどころじゃないかもな。俺もたったいま思い出したんだが、ゴールド・ライセンスがゲストアカウントに負けたんだ。これはちょっとした事件になるぞ』
彼女が、あっと声をあげた。
ライセンスは下から順にブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ・ブラックと、5つのランクがある。ライセンスを持っているプロは大勢いるが、ゴールド以上はレベルが違う。”ライセンスの数が有限”だからだ。ゴールド以上のライセンスは世界で500しか存在しない。
つまり本田雄一郎は世界ランキング500位に入る凄腕のデュエリストだったといえる……いや、シンシアには悪いが批判的なメッセージが出てくるのも当然だ。ゴールドにしちゃ弱すぎる。俺が10円コーナーにいる間に世界のレベルが落ちたのか? そこまで時間はたってないように思うが……。
思考をめぐらせると視線が空にいく。【WINNER:GUEST】の文字が目に入った。そのさらに上、スカイダイビングのように人が……!?
『おい、誰かくるぞ!』
対戦する二人だけが入れるデュエルスペースだが、例外が存在する。
デュエルTVから派遣される”ゲームマスター”だ。
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